いい音楽が流れる、こだわりの酒場を紹介していく連載「TOKYO音楽酒場」。今回訪れたのは、吉祥寺にいながらにして世界一周を楽しめるような、個性あふれるレストラン&バー。味覚から聴覚から異国のテイストを存分に味わえる、素敵なお店です。
吉祥寺・弁天通り。飲食店からライブハウスまでが軒を連ねるこの一帯で、ひときわ異彩を放っているのが〈WORLD KITCHEN BAOBAB〉だ。半地下となっている店のドアを開けば、そこには中南米やアフリカ、カリブ、アジアの雑貨やポスターなどが所狭しと飾られ、店内を眺めているだけでも、どこか知らない国にトリップしたような気分になる。
もともと吉祥寺にあったバーや沖縄料理店で働いていた店主の陽介さんが、6年前にオープン。〈WORLD KITCHEN〉と名乗っているように、店にはブラジル、ペルー、ジャマイカ、タイ、スペイン、トルコ、モロッコなどの各国料理、そしてさまざまな地域のエッセンスをフュージョンした、オリジナルのメニューが並ぶ。
この日、陽介さんのオススメで選んでもらったのは、BAOBABオリジナルの〈クスクスサラダ〉、程よく辛味が効いた具だくさんの〈バスク風目玉焼き〉、ジャマイカの名物料理〈ジャークチキン〉。どれもやみつきになる美味しさで、食べごたえもバッチリ。地元の人たちも仕事帰りに夕飯がてら一杯と、気軽に寄っていく。また最近ではパクチーを使ったメニューにも力を入れていて、バリエーションに富んだパクチー料理を堪能できる。
BAOBABにはいろんな国の酒も揃っていて、たとえばペルーの蒸留酒と卵白などを使った〈ピスコサワー〉なんていう、普通のバーではなかなかお目にかかれないような珍しいカクテルが飲めるのも、この店の楽しみ方のひとつだ。
週1回ほどライブ・イベントも開催。レゲエやラテン、アフロ・ビートにサーフ・ミュージックなど、ルーツ音楽に根差した音楽を奏でるアーティストたちが数多く出演。今やこの店が、新しいムーヴメントの発信地となりつつある。そんなBAOBABの最大の魅力は、やはり店内で流れる世界各国の音楽たち。20代前半からレゲエやブラジル音楽をきっかけにワールド・ミュージックの世界にどっぷりとハマってしまったという陽介さん。学生の頃から国内外を旅していたという彼は、映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を観てからラテン・アメリカの魅力に取り憑かれたのだそう。
「それまでも音楽としては聴いていたけど、映画を観て、これは行かなきゃダメだろうと、キューバに飛んで。27、8歳ぐらいの時ですかね。それから年に1回、カーニバルの時期に合わせて1ヶ月ぐらいかけて、ブラジルとかメキシコとかジャマイカとか、主に中南米に旅行するようになって。でも最近は、アフリカにも興味が湧いていて。以前、セネガルだけ行ったことあるんですけど、この間は1ヶ月のうちに西アフリカやエチオピアをめぐって……もう完全に心を持っていかれてますね(笑)」
店で流れる音楽のほとんどは、陽介さんが世界中を旅して回って現地で買い集めたというアナログ盤の数々。筋金入りのレコード・ディガーである彼は、どのようにして現地でレコードを入手しているのだろうか。
「現地の事情に詳しい知り合いがいたら、あらかじめお店を教えてもらったりするんだけど、そういう情報がない場合は、まず楽器屋さんを探しますね。楽器屋は絶対にレコード屋を知ってるから。それでも見つからない場合は、現地の言葉で『レコードを探してる』って7インチのスリーブに書いて、それをそこらじゅうで見せて、訊いて回って。お爺ちゃんとかわりと友好的に教えてくれたりしますね。たとえばガーナでは、レコード屋も1軒ぐらいしかなくて、いい盤もほとんど見つけられなかったけど、1枚だけすごくレアなやつがあって。今となっては、日本でもいろんな国の音源が紹介されるようになってきたけど、現地の音源を現地で買うっていうことの興奮はありますよね(笑)」
お借りした上の写真はドミニカ共和国での一枚。路上で売られていたレコードを漁っている光景だ。そんなレコード・ディガーの嗅覚は、思いがけないハプニングも呼び込む。
「ベナンに行った時、タクシーの運転手のおっちゃんに話したら、『自分の家にレコードあるから来い』ってことで、車で1時間ぐらいかけて地元の村に連れて行かれて。そのおっちゃんが地元の知り合いに連絡取ってくれて、みんなが家に眠ってたレコードを持って来てくれたんです。おかげで俺は、木陰でゆっくり寝ながら待ってるだけっていうね(笑)」
「果報は寝て待て」というが、「レコードは寝て待て」というのは聞いたことがない。また別の国では、こんな出会いも。
「パナマでは、レコード屋自体が少ししかなくて、全然いい盤に巡り会えなくて。出国する前の日になって、今回は諦めて、パナマ運河でも見て帰るかと思って、タクシー乗ったんです。で、運転手にレコード探してるって話をしたら『ウチにあるよ』って。これもまた1時間ぐらい車に揺られて自宅に連れてってもらったら、その運転手の母ちゃんが、昔ラジオのDJをやってたらしくて。ダンボールの箱に、7インチが何百枚も裸のままバサッと入ってて。それはもう珍しい盤の宝庫で、箱ごと買って帰りましたね(笑)」
レコード探しを旅の目的にしはじめたことで、今までとは違う楽しみ方が見えてきたという。
「それまではカーニバルを見物したり、現地でライブを観るのが楽しみだったけど、レコードをマメに探すようになってから、現地の人の家に行けたりして、普通の観光よりももう一歩踏み込める。ポータブルのアナログプレーヤーを持っていて、その場で試聴してると、子どもたちが集まったり、おじちゃんおばちゃんたちは懐かしくなって歌いはじめたり。そういう感じで、現地の生活をより身近に感じられるんですよね」
そうして世界各地でレコードを掘ってきた成果もあって、貴重な音源を紹介していくレーベル〈DISCOS BAOBAB〉を立ち上げ、ブラジル、アマゾン~東北地方旅で掘ってきたレコードでカリンボ/フォフォーのMIX CDなどをリリース。また、陽介さんが旅先で見つけてきたアナログ盤は、店頭で購入することもできる。
「まあ、店の片隅で売ってますっていう程度なんですけどね。旅先で見つけてきたものをメインに、レアな音源もあったり。年に一回海外に行くぐらいだから、そんなに頻繁に入れ替えがあるわけじゃないけど(笑)。他じゃ聴けないようなものもあるし、飲みながら試聴してもらってもいいですよ」
異国の薫りが充満したレコード棚から、気になる一枚を選んでターンテーブルに乗せる。グラスを傾け、そのレコードを入手した現地の話を訊きながら、針音の向こうに浮かぶ風景に思いを馳せる──そんな夜の過ごし方も出来るのが、BAOBABというお店なのだ。
撮影/相澤心也
WORLD KITCHEN BAOBAB
東京都武蔵野市吉祥寺南町2-4-6小原ビルB1
0422-76-2430
OPEN:PM6:00~AM1:00
※金・土・祝前~AM4:00
年中無休
http://wk-baobab.com/
Live Schedule
6月9日(木)Live:馬喰町バンド & マブリ
6月15日(水)投げ銭Live:玲 & BAOBAB
6月16日(木)投げ銭Live:☆宇宙人とリス=松本隆将(くふき,タバコジュース)&ナカタダイ(バーバーフィッシュ)、☆Tiny Step(ハモンドオルガン,FULL SWING)
6月17日(金)投げ銭Live:鈴木井咲(Gt) & 数井塁(Dr)、スペシャルゲストMicheal Brinbryer(sax)
6月26日(日)EKD出航祭 投げ銭Live:Los Cabrones、ウーリズム、宮下大地 他
7月1日(金)投げ銭Live:スドシントリオ(須藤信一郎Pi & 岩見継吾Ba & 数井塁Dr)
BAOBAB ビーチパーティー
『BAOBAB Carnaval on the Beach!』
7月10日(日)@葉山森戸海岸 海の家oasis
start13:00~21:00 entrance FREE! 愛の投げ銭制
Live:
NAOITO☆.A(ex KINGDOM☆AFROCKS)
ラティール・シーfeat PJ
ROBBIE & BILLY from ガーナ
STARS ON PAN -single pan set-
and more!!!!
DJ:
宿口豪(Bar Blen Blen Blen,Ronald)
YOSUKE BAOBAB(TOKYO SABROSO)
http://www.oasis-jahnodebeach.jp/
*本コラムは2014年8月26日に初回投稿した記事に加筆修正したものです。