1935年。ミュージカルの楽曲を書き下ろしていたアメリカのソングライター、コ-ル・ポーターは、当時パリで流行していたダンスのビギン=beguineと、英語のビギン=beginを結びつけるアイデアを思いつく。
「begin the beguine」は云わば言葉遊び、ソングライターらしい洒落た語呂合わせだった。
ビギン=beguineはカリブ海に浮かぶ西インド諸島の一つ、フランス領マルティニ―クに生まれたダンスで、ヨーロッパに伝わる社交ダンスとラテン系民族のダンスがミクスチャーされたカップル・ダンスだ。
ビギンの演奏が始まると
優しい調べがあたりをつつむ
輝ける南国の夜がよみがえる
色あせることのない思い出が浮かぶ
星空の下にまた君といる僕
浜辺ではオーケストラが音楽を奏で
ヤシの木々までがその葉をゆらす
ビギンの演奏が始まると
同年にブロードウェイ・ミュージカル『ジュビリー』で最初に使われたが、クラリネット奏者のアーティ・ショウがオーケストラ向けのインストゥルメンタルに編曲してレコード化する。
クラリネットを活かした軽快なスイング・ナンバーとなった「Begin The Beguine」は、「Indian Love Call」のB面として1938年に発売されると、記録的な売上げの大ヒットとなった。
1941年にはコール・ポーターの伝記映画「夜も昼も」(原題Night and Day)が製作され、挿入歌に使われたことで世界中に広まっていった。
フランク・シナトラやペリー・コモ、エラ・フィッツジェラルドほか、数えきれないほど多くのシンガーにカヴァーされて、スタンダード・ソングを代表する1曲になっている。
1982年にはフリオ・イグレシアスが歌うスペイン語ヴァージョンが、世界中でリバイバル・ヒットした。
21世紀になってから作られたコール・ポーターの伝記映画『五線譜のラブレター』(原題: De-Lovely)では、アラニス・モリセット、エルヴィス・コステロ、ナタリー・コールなどがパフォーマンスを見せるが、「Begin The Beguine」を歌ったのはロック・シンガーのシェリル・クロウだ。
「私はポーターの音楽を聞いて育ったの。このジャンルの作曲家では、彼より優れた人なんて思いつかないわね。あの感傷的で美しいスタンダート・ソングたち……『Begin The Beguine』は歌詞が本当に素晴らしくて、あの曲を歌えてとてもうれしかった」
日本で知られるようになったのは1950年に今はなきショウ・ビジネスの殿堂、日劇で開かれた『歌う越路吹雪』ショウで歌われてからのことだ。その翌年に行われた帝国劇場公演の『モルガンお雪』でも、越路吹雪は劇中で「ビギン・ザ・ビギン」を歌い、翌年にはレコ―ドも発売された。
ちなみにこの「モルガンお雪」が大評判となって、越路吹雪は日本のエンターティナーのトップの座についたと言われている。
五線譜のラブレター
ヴェリー・ベスト・オブ・フリオ・イグレシアス
越路吹雪 アーリーソング・コレクション
The Essential Artie Shaw
●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから
TAP the POPメンバーも協力する最強の昭和歌謡コラム『オトナの歌謡曲』はこちらから。