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サンプリングで甦るロイ・エアーズのグルーヴ~Everybody Loves The Sunshine

2024.09.09

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優れた音楽が後にスタンダード曲になっていくには、それぞれの時代に多くのミュージシャンにカヴァーされ、多くの聴き手の心に届くということが必然だ。

さらにヒップホップが生まれてからは、サンプリングという手法が、過去の楽曲の印象的なフレーズやメロディーを人々の記憶の中に残していく。別の楽曲に生まれ変わっていても、元の楽曲へのアクセスに一役買っていると言えるのではないだろうか。

そのような多くのサンプリングによって1990年代に甦ったひとりが、ロイ・エアーズだ。

ヴィブラフォン奏者で、歌手で音楽プロデューサーでもあるロイ・エアーズは、5歳の時にジャズ・ヴィブラフォンの第一人者ライオネル・ハンプトンから、マレット(ヴィブラフォンを叩く棒)をもらったという逸話を持つ。実際にヴィブラフォンを手に入れたのはそれから12年後だったが、それ以来ヴィブラフォンはロイを魅了し、彼の声を完璧にしてくれる楽器として演奏され続けてきた。

1963年にレコード・デビューを果たした後、1966年にはジャズ・フルート奏者のハービー・マンのバンドに加わり、ツアーやレコーディングを共にしてきた。ハービー・マンの1969年の大ヒットアルバム『メンフィス・アンダーグラウンド』にもヴィブラフォン奏者として参加している。

ロイ・エアーズの、ジャズだけにとどまらずソウルからワールド・ミュージックまでジャンルに縛られない自由な音楽は、この頃のハービー・マンからずいぶんと影響を受けたとも考えられる。

そして1970年にはハービーのもとを離れ、自身のバンド「ロイ・エアーズ・ユビキティ」を結成。その後数多くのアルバムを発表して今もなお活躍中だ。しかしその間、所属のレコード会社と関係が悪化するなどして、80年代には随分と辛い時期も送ってきた。しかし、ロイ・エアーズは音楽に対する情熱だけは失わなかった。

1990年代に入って、イギリスではレア・グルーヴのムーヴメントの中、クラブやラジオでDJ達がロイ・エアーズの音楽をかけ始めた。そしてアメリカでは、多くのヒップホップ・アーティストが、彼の楽曲をサンプリングで使用した。

サンプリングされた曲数はジェームス・ブラウンに続いて多く、中でも1976年の作品「Everybody Loves The Sunshine」は、20を超えるアーティストにサンプリング使用されているほどの人気曲だ。

特に、1994年にメアリー・J・ブライジによってサンプリングされた「My Life」が大ヒットしたことで、多くのリスナーにロイ・エアーズの名前が知られることとなったのだ。

「My Life」/Mary J Blige(1994)


「多くの人が俺に聞いてくる。自分のレコードがサンプリングされることをどう思うか、と。俺は素晴らしいと思う。なにか昔に作ったもので印税の一部がもらえるんだからね。新たな命を得て、まるで新しい日が始まるわけだ」(waxpoetics japan 2008年01号インタビューより)


許諾を求めてくるものに対しては全てOKと言っているというロイ・エアーズは、どんなサンプリングであろうと、誰にでも表現の自由があると思うし、多くの新しい人にチャンスを与えることになると語る。

今では多くのジャンルを超えるミュージシャンからリスペクトを集め、2004年にはエリカ・バドゥらを迎えて自身の過去の楽曲をセルフ・カヴァーしたアルバム『マホガニー・バイブ』も発売された。

「Everybody Loves The Sunshine」/Roy Ayers feat. Erykah Badu(2004)


2010年にはジャズ・ピアニストのロバート・グラスパーが自身のグループのエクスペリメントを従えて、ヒップホップDJでラッパーのピート・ロックと、ヴィブラフォン奏者のステフォン・ハリスを迎え、各地でロイ・エアーズのトリビュート・ライブを行った。

ここでは、ジャズとヒップホップが融合され、ジャンルを自由に飛び越えて最高のグルーヴを表現してきたロイ・エアーズの魂が受け継がれている。

Tribute to Roy Ayers Live in Paris(2010)
「Everybody Loves The Sunshine」は、ライブのラストに演奏された。

サンプリングという形で蒔かれた種によって、人々の心に芽を出した楽曲「Everybody Loves The Sunshine」がいつの日か花開き、スタンダード曲となる日もそう遠くはないかもしれない。


こちらの記事もご覧ください
「レア・グルーヴ~単なるムーヴメントに終わらない新しい音楽の楽しみ方」


Roy Ayers『Everybody Loves the Sunshine』
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