「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

ミュージックソムリエ

レア・グルーヴ~単なるムーヴメントに終わらない新しい音楽の楽しみ方

2024.09.09

Pocket
LINEで送る

ジャズが誕生してから100年以上、そしてロックが誕生してからも50年以上の月日が経つ。その間、世界中で無数の音楽が生み出されてきた。

しかし、ヒットチャートに上るのはほんの一握りで、ほとんどの音楽は多くの人の耳に触れる機会がないまま、埋もれてしまう。そのようにして忘れられたものの中に、当時は流行しなかったものの、素晴らしい音楽があるはずだ。

“レア・グルーヴ”という言葉は、イギリスのDJのノーマン・ジェイが1985~86年に海賊FMで放送した番組「オリジナル・レア・グルーヴ・ショウ」に由来する。ただ古い音楽をかけるのではなく、新しい音楽と織り交ぜて、新しい音として提示するスタイルの番組だ。

見つけ難い(Rare)カッコいい音源(Groove)を発掘(Digging)する、それが”レア・グルーヴ”だ。


時代を遡れば1950~60年代のイギリスでは、モッズスタイルの若者たちがアメリカのR&Bやブルーズ、ジャマイカのスカなどを好んで聴いていた。1960年代後半、そうしたブームはモッズからイギリス北部のノーザン・ソウルへと引き継がれ、アメリカのR&Bやソウル等を深く掘り下げていくようになる。

通常では手に入り難いアメリカの黒人音楽のレコードを、発掘して聴くという文化はこの頃からすでにあったのだ。ローリング・ストーンズのミック・ジャガーが、学生時代にアメリカのブルーズのレコードを個人輸入で手に入れていたというのは有名な話だ。

ディスコ・ミュージックが広まる1970年代には、黒人を対象とするイギリスのクラブ・シーンで、ソウルやファンクにジャズが織り交ぜられるようになる。その後もジャズ・ファンクだけでなく、ビバップ、ハードバップ、フュージョン、アフロ・キューバン等が雑多に入り交じっていった。

そうして1980年代に入ると、新しい音楽と古い音楽を織り交ぜてプレイするスタイルのクラブ・イベントや、ダンス・パーティなどが催される。その中でも人気が高かったのが、1987年にDJのジャイルス・ピーターソンらが始めた「トーキン・ラウド・セイ・サムシング」という、クラブ・イベントだ。

talkinloud

そういった流れの中でメディアが名付けたムーヴメントが、”レア・グルーヴ”なのだ。ヒップホップのアーティストたちは、家に眠るレコードの棚や中古レコード店の箱の中から発掘し、進んでサンプリングに使用した。

つまりレア・グルーヴは、懐古趣味にとどまるのではなく、古い音楽をいかに新しく聴かせるか、忘れられていたものに新しい価値を見出すかが重要だった。

ピーターソンがエディ・ピラーとともに、アシッド・ジャズというインディ・レーベルを設立したのも1987年のことだ。

“アシッド・ジャズ”という言葉は、アシッド・ハウスに相対して冗談半分でつけられたようなものだという。そもそもアシッド・ジャズ自体、ジャズ・ファンクからソウル、ラテンまでを含み、カテゴライズは難しい。レア・グルーヴの洗礼を受けた音を指す、と言ってもいいくらいなのだ。

そのアシッド・ジャズ・レーベルからデビューしたガリアーノやブランニュー・ヘヴィーズ、ジャミロクワイ等は、レア・グルーヴから多大な影響を受けている。

イギリスでは1980年代後半~90年代前半にかけて、複数のリイシュー・レーベルが設立されて旧譜の再発が進んだ。それによって“入手困難なレコード”=“レア・グルーヴ”と次第に曲解されつつあったそれらの音源が、実際に手に入れられることになり、身近になったこともレア・グルーヴの発展につながったと言える。

「レア・グルーヴは、ファンクやソウルに縛られるものではない」と語ったのはノーマン・ジェイだが、その言葉のとおり、今ではブラジル、ロック、フォークなど多ジャンルに渡っている。日本でも「和モノレア・グルーヴ」などとして、日本の古い楽曲を発掘して提示するレーベル等も現れた。

”レア・グルーヴ”はもはや単なるムーヴメントではなく、音楽の楽しみ方のひとつのスタイルと言っていいのではないだろうか。


●アシッド・ジャズのミュージシャンに影響を与えたレア・グルーヴとして有名な以下の3曲は、アメリカでの発売時の評価も高かったが、イギリスのレア・グルーヴのムーヴメントで、ふたたび新しい価値を与えられた曲と言っていいだろう。

1994年のメアリー・J.・ブライジの「マイ・ライフ」他、多くのヒップホップ・アーティストにもサンプリングされている1976年のロイ・エアーズの楽曲。ロイ・エアーズはレア・グルーヴで再評価された中の代表的なアーティストだ。
「Everybody Loves The Sunshine」Roy Ayers Ubiquity



「エヴリバディ・ラヴズ・ザ・サンシャイン」

ブルーノート・レーベルの音源を公式にサンプリングを認められているUS3の「カンタループ」は、1993年に大ヒットした。オリジナルは1964年のハービー・ハンコックの楽曲。
ハービー・ハンコックは、1970年代のヘッドハンターズ時代の曲もレア・グルーヴとして人気があった。
「Cantaloupe Island」Herbie Hancock


「Empyrean Isles」

1992年にインコグニートによってカヴァーされ大ヒット、その後も多くのミュージシャンにカヴァーされている1974年のスティーヴィ・ワンダーの楽曲。ロイ・エアーズも1974年のアルバムでカヴァーしている。
「Don’t You Worry ‘bout A Thing」Stevie Wonder


「INNERVISIONS」


参考文献:Disc Collection RARE GROOVE シンコーミュージック・エンタテイメントより「レア・グルーヴ史」小川充著



●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[ミュージックソムリエ]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ