2019年5月28日から6月3日までの日程で、アメリカ公演を終えたばかりの細野晴臣。各メディアがその盛況ぶりを伝えている。
5月29日のニューヨーク公演は即日完売となり、追加公演も組まれた。また、29日はサプライズ・ゲストに矢野顕子が登場し「相合傘」を共演したことなどを、音楽ナタリーがライブ・レポートで伝えている。
そして6月3日のLA公演では、マック・デマルコが登場し「Honey Moon」で共演したことを、アメリカの音楽サイトPitchforkが伝えている。
マック・デマルコは、昨年「Honey Moon」を日本語でカヴァーしたシングルをリリースしているほど、細野晴臣を尊敬している。
2018年のロンドン公演では、「ハルオミ!」と声をかけてきた若いスケートボードの青年たちが「スポーツマン」が好きだと言い、彼らのInstagramにも「スポーツマン」をかけながらスケボーをしている映像を投稿しているというのだ。
さらには2018年5月、アメリカにある再発専門のレーベル、Light In The Atticから『HOSONO HOUSE』(1973)、『コチンの月』(1978)、『ハライソ』(1978)、『フィルハーモニー』(1982)、『オムニ・サイト・シーイング』(1989)の5タイトルが、アメリカ国内に向けてリリースされた。
1980年代にはYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)が世界的に大人気となったが、細野晴臣の音楽は、ここ数年で海外の音楽ファンの間で再び評価され、今もなお人気が高まる一方だ。
その人気の秘密はどこにあるのだろう?
2019年3月にリリースされたアルバム『HOCHONO HOUSE』は、1973年の『HOSONO HOUSE』の全曲を新たにレコーディングし直したものだ。セルフ・カヴァーというよりは、リメイクといった方が近いかもしれない。
このアルバムを作る直接的なきっかけとなったのが、never young beachの安部勇磨と対談した時に「あれを今作り直したらどうなんでしょう」と言われたことだった。
また、小山田圭吾にアルバムのことを訊ねられた時に、ものの弾みで「一人でやるんだよ、打ち込みで」と言ってしまい、「恋は桃色」などは小山田の顔を思い浮かべながら作ったというようなことも、各インタビューで語っている。
そのように多くのミュージシャンから尊敬を寄せられ、また多くのミュージシャンに影響を与えている偉大なミュージシャンでありながら、若いミュージシャンとの交流も多く、彼らから受けた影響をさらりと隠さず語ってしまえるところが、細野の人間的な魅力ではないだろうか。
しかし、このアルバムを作るのは思いの外大変だったことを細野は明かしている。
まず26歳の自分が何を考えて作ったのかということに嫌でも向き合わなければいけない、70年代の音楽を今の時代の自分がどうやって消化できるのか、それをどうやって音に置き換えていくか。
という作業は、かなり困難を強いられたようだ。そのために、たった一人で“宅録”という手法をとり、機材やシステムを新しいものに入れ替えた。
こうした作業が自分にとっては10年に一度起こるか起こらないかの大きな変化を呼び起こしてしまった。71才になっての大きな変化は予想していなかったし、身にこたえる。(中略)いくら客観的な視点を持とうとしても、結局自分からは離れられないことを思い知った。
アルバムのライナーノーツには、細野自身のそんな言葉が記されている。
あまりにもその作業が厳しくシリアスなものであったことから、そんな自身をあざ笑い、茶化すために、アルバム・タイトルを『ホチョノハウス』としたことも、ライナーノーツのほかラジオなどでも語っている。
それほどまでに真摯に向き合ったということが、細野の音楽に対する誠実さを物語っているのではないだろうか。
今回のアルバムでは、楽曲の順序が73年のオリジナルとは逆になっており、歌詞の表現も今の時代にフィットするように所々書き換えられている。
打ち込みで録音した楽曲ばかりではなく、当時のライブ・レコーディングを使用した「パーティー」なども取り入れ、アルバム全体から漂うムードは、まさに2010年代の“今”の音になっているのだ。
最近はリリースするアルバムには必ず、細野自身による楽曲ごとのエピソードが記されていて、ファンにはとても嬉しいところだ。
今までは、カヴァーをするにあたって彼自身に馴染みのあった楽曲について解説が記されていることがほとんどだったが、今回の『HOCHONO HOUSE』には、自身の楽曲について、当時の思い出からリメイクにあたっての苦労話などもあって、これらもまた興味深い。
ファンの間では、『HOSONO HOUSE』と『HOCHONO HOUSE』を交互にループして聴いて楽しんでいる人が多いと聞く。『HOCHONO HOUSE』は、アルバム・ジャケットのデザインのユーモアも含め、今まさに現在進行形の細野晴臣の魅力が十分に味わえるアルバムなのだ。
エイプリル・フールのベーシストとしてデビューしてから今年で50年。今、再び「変わり目」を迎えているという細野晴臣の今後が、とても楽しみだ。最近は自身のYouTubeチャンネルも開設し、スタート記念動画では、軽快なステップを披露している。
ところでアメリカ公演でも、すでに『HOCHONO HOUSE』の楽曲への反応が良かったというが、この“HOCHONO”について、アメリカのファンにはどのように捉えられているのだろうか。。。
参考文献:ミュージック・マガジン2019年4月号 「特集 細野晴臣」
参考ウェブサイト:音楽ナタリー細野晴臣インタビュー「50周年イヤーに生まれ変わる『HOSONO HOUSE』」
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