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ハチャメチャな男が真面目に綴った自らの青い時代と日本からの影響~マック・デマルコ『サラダ・デイズ』

2018.07.02

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お尻にドラムスティックを突き刺したり、全裸でギターを抱えて歌いながら踊り狂ってみたり。数々の奇行で注目を集めながら、すきっ歯の口元でニヤリと微笑まれると憎めない男、それがマック・デマルコだ。

1990年に生まれたカナダ出身のシンガーソングライター、マック・デマルコは、かつて友人と共にメイクアウト・ビデオテープと名乗って音楽活動を行っていた。
その自主制作音源がきっかけとなって、アメリカのインディーズ・レーベル、キャプチャード・トラックスからソロ・デビューを果たす。2012年にリリースされたデビュー・シングルは、エルヴィス・プレスリーの声色を真似て歌った冗談のようなもので、誰も彼をシリアスに捉える者はいなかったという。
しかし、そのすぐ後にリリースされたフル・アルバム『2』で、彼の評価は一変する。アメリカの音楽サイト、ピッチフォーク・メディアで2012年の「Best New Music」を獲得、その独特のキャラクターも相まって、インディー・ロック・ヒーローとして注目を集めることとなる。




アルバム『2』に収録されている「Ode To Viceroy」は、世の中の流れを逆行するかのような、タバコ(Viceroyは米国産タバコ・メーカー)賛歌だ。公開されている公式動画も相変わらず人を喰ったような馬鹿馬鹿しい映像だが、古いビデオテープが伸びたような荒いノイズのある映像と同様に、カセットテープが伸びたような揺れるギターの音が、聴いているうちに、やみつきになりそうな中毒性を持って響いてくる。



そんなハチャメチャな男マック・デマルコが、真面目に自らの青い時代(=サラダ・デイズ)を綴った、ちょっぴりセンチメンタルでメランコリックなアルバムが、2014年にリリースされた『サラダ・デイズ』だ。このアルバムは、日本のディスク・ユニオンと人気音楽ブログ「モンチコン」との共同企画で日本盤がリリースされ、これがマック・デマルコの事実上日本デビュー盤となった。
またこのアルバムも、ピッチフォーク・メディアで2014年の「Best New Music」を獲得した。

「Salad Days」

年をとるにつれて
苛立ちも増えていく
ひっくり返って死ぬために
人生を転げ回る

ヒッピー・ジョンに会いたい
青の時代(サラダ・デイズ)は過ぎて
さよならを言うためだけに覚えてる

ママ 、自分の人生が終わったフリをしてるよ
愛しい人、年をわきまえて、もう一年やってみなよ





スティーリー・ダンやホール&オーツ、またはボサノヴァなど幅広い音楽を好んで聴いているというマック・デマルコ。
この『サラダ・デイズ』では、ザ・キンクスやモダーン・ラヴァーズなどとともに、YMOや細野晴臣からも影響を受けていると語る。

友達のひとりが『HOSONO HOUSE』に入っている「薔薇と野獣」って曲を聴かせてくれて、それでハマっちゃってね。他の作品も探すようになって、彼がリリースした全ての作品が頭から離れなくなっちゃったんだ。最近はYMOとか、後期の細野作品をずっと聴いているよ。坂本龍一や高橋幸宏、矢野顕子も大好きなんだ。

坂本龍一が使っていたのと同じプロフェット5というシンセサイザーまで手に入れ、このアルバムからシンセを弾くようになったというハマりようだ。その影響が色濃く出ている楽曲の一つが、このアルバムに収録されている「チェンバー・オブ・リフレクション」だ。



聴くと確かにYMOの影響も感じられるが、テープが伸びたような揺れるサウンドの中に、どことなくビーチ・ボーイズの『ペットサウンズ』を思わせるような郷愁も感じられる。
それがマック・デマルコの音楽の、マジックのような魅力ではないだろうか。

他にも彼が好んで聴いている日本のアーティストに、山下達郎や吉田美奈子、坂本慎太郎などの名前を挙げている。
2017年にリリースされた最新作『ディス・オールド・ドッグ』のアルバム・ジャケットには、YMOなど彼の敬愛するミュージシャンの名前を暗号のように忍ばせていることも、別のインタビューで語っている。

それほどまでに日本の音楽が大好きなマック・デマルコは、もうすでに何度か来日も果たしているが、この夏いよいよフジロックフェスティバル’18に登場する。ライブにも定評があるカナダのインディー・ロック・ヒーロー、マック・デマルコのステージは要注目だ。



参考文献:モンチコンのインディー・ロック・グラフィティ①マック・デマルコ『サラダ・デイズ』封入ライナー・ノーツとインタビュー
参考サイト:Qetic インタビュー:マック・デマルコ


Mac DeMarco『Salad Days』
Captured Tracks

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