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細野晴臣の「ろっかばいまいべいびい」は初めから懐かしいスタンダードのようだった

2024.07.08

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1973年5月25日に発売された細野晴臣のファースト・ソロ・アルバム『HOSONO HOUSE』で、1曲目にアコースティック・ギターの弾き語りで収録されているのが、「ろっかばいまいべいびい」だ。

だがこの歌はこの世に登場した時から、すでに懐かしいスタンダードのようであった。


その頃の細野はヴァン・ダイク・パークスを徹底的に聴きこんでいくうちに、60’sや50’sを通り越して、幼い子供の頃にSP盤で聴いた原体験、1930年代に作られたアメリカのポピュラー・ソングやハリウッドの映画音楽にはまっていた。

ノスタルジックな世界を思い出していくうちに、自然に「ろっかばいまいべいびい」が誕生してきたと言える。

これは細野が一人で4チャンネル2トラックのテープレコーダーに録音したデモテープを、エンジニアの吉野金次がそのままミックスして完成させたものだ。

どうしてデモテープのまま収録したのかについて、細野は最近の著作で答えにも通じるポイントを語っている。(注)

デモテープの良さっていうか、初期衝動っていうかね。そういうものは大事で、忘れたくないと思っているよ。デモっていうのは自分のためのメモなので、そこにエッセンスが詰まっている。そこにあるのは形じゃなくて、エッセンス。それを音にすることがやりたかったんだ。


それから2年が経って西岡恭蔵がカヴァーしたことによって、この歌はさらに広く知られるようになった。

西岡恭蔵ろっかばいまいべいびい
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西岡の3枚目のアルバム『ろっかばいまいべいびい』は、A面の5曲を鈴木茂とハックルバックがメインで演奏している。さらにはギターの石田長生、パーカッションの浜口茂外也、ヴォーカルの金子マリらがファンキーでタイトなバンド・サウンドを聴かせている。

ところがB面になると雰囲気が一変し、プロデューサーの細野晴臣がギターやベース、マンドリン、ピアノとほとんどの楽器を一人で弾いていた。

そのこともあってアコースティックでフォーキーなサウンドは、同じ年に発表された細野のアルバム『トロピカル・ダンディー(Tropical Dandy)』のB面にも共通する、懐かしい空気感が漂っていた。

朴訥としてぬくもりが感じさせる西岡のヴォーカルは、細野のオリジナルと比べても甲乙つけがたいヴァージョンとなった。


細野と松本隆の勧めもあってシンガー・ソングライターとなった吉田美奈子は、1973年9月に細野のプロデュースによるファースト・アルバム『扉の冬』を発表した。

その後、荒井由実のプロデュースで成功した村井邦彦が率いるアルファ&アソシエイツと契約し、1975年にはRCA移籍第一弾となったアルバム『MINAKO』で新たな道を歩み出す。

吉田美奈子
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荒井由実の作詞による「パラダイスへ」や「チャイニーズ・スープ」のカヴァー、大瀧詠一作による「わたし」、アレンジャーを務めたキーボーディスト佐藤博の「レインボー・シー・ライン」等、アルバムは自作曲の他にもシティ・ポップスの先駆的な楽曲が揃っていた。

そして最後を締めくくっていたのは「ろっかばいまいべいびい」だった。


「ろっかばいまいべいびい」はオリジナル・ソングの発表からわずか3年で、早くもスタンダード・ソングであるかのように認知されていったのだ。

(注)引用元・『細野晴臣 とまっていた時計がまたうごきはじめた』細野晴臣 著 鈴木惣一朗 聞き手


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