プリシラ・アーンは2012年に、はっぴいえんどの「風をあつめて」やスーパー・バター・ドッグの「サヨナラCOLOR」などの日本語曲も収録したアルバム、『ナチュラル・カラーズ』を発表している。これは日本のみならず韓国、台湾、中国といったアジア圏でもリリースされた。
スタジオジブリの作る映画の大ファンだったプリシラは、子供の頃に『耳をすませば』を何度も観ていて、劇中に日本語で歌われていた「カントリー・ロード」を口ずさんでいて、すっかり覚えてしまったという。
それから日本語の曲を歌うようになり、聴く人が安らいだ気持ちになれそうな曲を選んだアルバムを作ることになった。
荒井由実の「やさしさに包まれたなら」、くるりの「ばらの花」、安田成美の「風の谷のナウシカ」などと一緒に、はっぴいえんどの「風をあつめて」もそこに選ばれた。
今ではごく当たり前のことだが、「ロックに日本語が乗るわけがない」「英語でなければカッコ悪い」と、まじめに論争が起こっていた時代が1970年前後にあった。
アメリカのロック・バンド、バッファロー・スプリングフィールドの音楽をひとつの指標としていたはっぴいえんどは、1960年代の後半から70年代前半にかけて主流派だった英語で歌うのではなく、日本語を活かした歌詞と表現で、日本人による独自のロックをする追求する道を選びとった。
作詞を担当した松本隆は、1964年の東京オリンピックを前後して、高度経済成長時代の都市開発と近代化と引き換えに、急激に失われてしまった東京の風景や風情を「風街」という架空の街にみたてて、日本の四季や生活文化を表現した。
大瀧詠一と細野晴臣という二人のシンガー・ソングライターによる楽曲、突出したテクニックとセンスを持つギタリストの鈴木茂4人によるバンドサウンドで、はっぴいえんどは日本語のロックを完成させていく。
なかでもジェームス・テイラーを彷彿させるような、細野晴臣のヴォーカルが印象的な「風をあつめて」は、広く歌い継がれて日本のスタンダード・ソングになった。
ソフィア・コッポラ監督の映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)でも、「風をあつめて」は挿入歌として使用されている。
はっぴいえんどが解散してからすでに40年、かつてはハナレグミやくるり、玲葉奈といった日本の若手ミュージシャンにこぞってカヴァーされた「風をあつめて」が、めぐりめぐってアメリカ人にも発見されたり、歌われる時代になってきたと言えるのだろう。
*このコラムは2014年に書かれたものです。
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