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中島みゆきの「時代」が第6回「世界歌謡祭」で堂々のグランプリに輝いた日

2016.11.15

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日本のスタンダード・ソングとして知られる中島みゆきの「時代」は1975年11月16日、東京・日本武道館で開かれた『第6回世界歌謡祭』の本選で、メキシコからやって来たミスター・ロコの「ラッキー・マン」と並んでグランプリを受賞した。

音楽こそ世界を結ぶ大きな絆というテーマを持って開催された第6回世界歌謡祭には、32カ国から46曲が参加して11月14、15日の2日間、日本武道館でライブによる熱戦が繰り広げられた。
そして15カ国22曲が本選に進み、グランプリに選ばれた日本代表の中島みゆきとメキシコ代表のミスター・ロコに、それぞれ5,000ドル(150万円)と金メダルなどが贈られて幕を閉じた。

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キャニオン・レコードからデビュー・シングル「アザミ嬢のララバイ」が発売されることになっていた中島みゆきに、思いもよらぬアクシデントが発生したのは、レコード発売日を目前にした9月16日のことだった。

北海道で産婦人科医院をしていた父親が脳溢血で倒れ、昏睡状態で病院に運ばれたのである。
長女だった彼女が東京から病院に駆けつけても、父の意識は戻らなかった。

担当の医師からは「覚悟して欲しい」と告げられる、そんな状況で9月25日に中島みゆきはひっそりとレコード・デビューした。
レコードは出すがそれ以外の活動はしないという条件だった。

デビューはしたもののテレビやラジオなどへの出演、マスコミへのプロモーションなどはまったく行われなかった。
だから10月に予定していた第10回ポピュラーソングコンテスト(ポプコン)への出場をキャンセルしたとしても、家族の切迫した状況を考えれば何の不思議もなかった。

しかし「時代」という新曲を作った中島みゆきは、10月12日に開かれたポプコンに予定通りに出場する。
このときは父の病室から直行で、つま恋に行って会場となったエキジビションホールに入ったという。

そして12000曲にのぼる応募曲のなかから、「時代」は見事にグランプリに選ばれたのである。

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その年のポプコンで優勝した楽曲と、優秀曲2曲が「世界歌謡祭」の日本代表となる取り決めになっていた。
こうして中島みゆきは「時代」で、因幡晃の「わかってください」、ONの「失うものは何もない」とともに、世界歌謡祭に出場することになった。

それが新しい世界に続く道となる。
第1回から世界歌謡祭を欠かさずに観ていたジャーナリストで、週刊ミュージック・ラボの主幹だった岡野弁は、第6回の総評を同誌に解説として書いていた。

〈解説〉
 グランプリの中島みゆきが際立ったコンテストであった。詞も曲も、この年齢らしい素直さがあったし、声も技術も安定し、魅力的であった。将来が約束された才能である。
 記者会見では「北海道に住み、ふつうの生活をしたい」と感想をのべていた。しかし、才能に恵まれているゆえに、あるいは歌で”訴える”という行為がある限り、そうも言ってられないかもしれない。
 小椋佳の場合、自らの生活を守り、周囲もそれを認め、自らの感性が摩滅することのない生活を実現しているが、彼女の場合はどうなるだろう。周囲も十分考えねばなるまい。
 ヤマハとしては、今年の収穫がすべて終わったことになるのだが、さて各曲を管理する立場としては、それぞれの作品はどうプロモートするか? 特に、海外への展開をどうするのか?  楽器、教育の面で成功した”ノウハウ”がここでどう生かされるのか注目したい。(岡野弁)


類まれな中島みゆきの才能を全面的に認めて、将来がどうなっていくのかということ以外は、無駄なことをなにも書いていない文章に驚かされる。
そのなかでは「北海道に住み、ふつうの生活をしたい」と、芸能界での活動をする意志がないことにまで触れられていた。

中島みゆきはグランプリ受賞後のパフォーマンスをする際に、オーケストラの指揮者に何やら耳打ちしたという。
そしてオーケストラの演奏をなくして、自分のギターだけで「時代」を歌い始めたのである。

本選ではフル・オーケストラをバックに力強く歌いあげた「時代」を、受賞した後にあえて自分のギター一本で歌ったのだ。
それは新人歌手にすれば前代未聞の行為だったが、武道館という大きな会場を舞台のうえで弾き語りだけで歌える才能と、それだけスケールが大きな楽曲が誕生したことを意味していた。

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