日本で歌手としてデビューしてから30周年を記念したライブをきっかけにして、ブラジル出身のマルシアは自分の音楽のルーツをあらためてたどりながら、これまでの歌謡曲に限らず日本の音楽文化を学び始めた。
そこから始まった新しい挑戦は、自分の歌いたい楽曲を自らが作るところにつながっていった。
10年ぶりの新曲となる「ALEGRIA(アレグリア)」は、マルシア自身のプロデュースによって(作曲/宮沢和史)つくられた。また、海外向けのポルトガル語によるヴァージョンは、マルシア自身が作詞を手掛けている。
この「アレグリア」を収録したミニアルバム『真夜中のささやき』には、2月のライブからのテイクとして、東京スカパラダイスオーケストラのホーンセクションとのコラボによる「リンゴ追分」や、デビュー曲の「ふりむけばヨコハマ」がラテン・ヴァージョンが収められている。
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日系3世としてブラジルで生まれ育ったマルシアは、テレビ東京の「外国人歌謡大賞」の審査委員長としてブラジルに来た作曲家の猪俣公章に見いだされて、歌手になるために来日することになった。
しかし日本に来てみると、日本語の読み書きができないということは大きなハンデになった。ちなみにブラジルで愛唱していたあみんの「待つわ」のことを、日本に来るまでは「松」の木の歌だと思っていたという。
だから最初は猪俣家に住み込んで働きながら、読み書きができないに等しい日本語と行儀作法を習うことから始めた。
そうした内弟子生活を続けた後、1989年に「ふりむけばヨコハマ」でデビューし、その年の日本レコード大賞で最優秀新人賞に選ばれて、プロの歌手として音楽活動をスタートさせたのである。
マルシアが長く埋もれたままだった知られざる曲「男が酒を飲む夜は」に出会ったのは、2018年に姉弟子にあたる坂本冬美から、猪俣の代表曲「大阪ラプソディー」を一緒にデュエットしないかとオファーされたのがきっかけになった。
昨年は猪俣先生の生誕80周年にあたり、坂本冬美さんは、その記念アルバム「ENKA III ~偲歌~」を制作されていて、冬美さんとデュエットさせて頂いたのです。
実は冬美さんと私は一緒に歌うのも、ましてやデュエットするのもこれが初めてでしたが、お互いの目と目を合わせて息もピッタリ、声質は違うはずなのに、ハーモニーもピッタリ合って、私はゆりかごに乗っているかのような、とても心地いい気分でレコーディングが出来ました。
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マルシアはアルバムの企画を考える段階で、どうしても恩師の曲を収録したくなって、どこかに隠れた名曲が埋もれていないかと探し始めた。
すると猪俣の作品を数多く管理している音楽出版社から、「倉庫の隅に眠っていた、たった1枚のレコードを見つけた」という連絡が入った。
コーラス・グループのダーク・ダックスに提供した1977年の「男が酒を飲む夜は」は、猪俣の家に住み込んで内弟子修業をしていた頃にマルシアが見ていた恩師の姿が、そのまま描かれたような曲だったという。
まるで曲の方から、「マルシア、歌ってくれ」と言ってくれたような、そんな不思議な出会いでした。
猪俣公章先生の弟子として、先生の曲を歌い継ぐことは使命でもありますが、この曲との出会いは、もしかしたら天国の先生から「マル、歌ってみろ」と授けてくださったのかもしれません。
この曲を作詞した山口洋子は猪俣とのコンビで、「噂の女」「そして神戸」「千曲川」など、数多くのヒット曲を世に送り出してきたが、私生活においても最も親しい友人という関係であった。
もしかしたら猪俣先生がお酒を飲まれている姿を書かれたのかなぁ、なんて想像してしまいます。
私が内弟子の頃、お酒を飲まれるとよくピアノを弾きながら気持ち良さそうに歌っていた先生の顔が懐かしく思い出されます。
*このコラムは2019年9月に公開されました。
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