1979年にリリースされた中島みゆきのアルバム『親愛なる者へ』の収録曲に、24時間営業の飲食店を舞台にした『狼になりたい』という歌がある。
「夜明け間際の吉野屋では」と始まるこの曲を、ぼくが初めてNHKのスタジオで聴いたのは、アルバムが発売になる直前だった。歌い出しの1行目の歌詞で驚かされると同時に、心のなかで快哉をあげたことを覚えている。
日本にもついに一幕物の舞台劇、それもリアルな現実を描いて歌えるシンガー・ソングライターが登場してきた。そう思ったのだった。
牛丼屋チェーンの店内における情景描写と、居合わせた客の心象風景、そこにある鬱屈や屈折。それらを自分の心のなかで語ったり、あるいは登場人物の代わりにつぶやいたり。そんなことばの断片が、中島みゆきの歌声で綴られていく。
歌詞のイメージをふくらませる石川鷹彦のアレンジは、包容感と緊張感があって、サウンドも印象に残るものだった。
NHK-FMで夜の10時台にオンエアしていた「サウンドストリート」という音楽番組でオンエアすると、リスナーからのハガキで「心を撃ち抜かれた」とか、「頭をぶっ叩かれたようです」といった反応が寄せられた。
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主人公の心の奥で溜まっていく不満とやるせない気持ち、「みんないいことしてやがるのに」という妬みがつのってくる。そんな気分を抱えたまま抑え込んで、それでも日々の暮らしを続ける人々。
唐突に「ビールはまだかぁ!」ということばが店内に響く。吐き捨てるようなその怒声からは、中島みゆきのロック・スピリッツが感じられる。
一瞬だけ想像のなかで思い浮かべる、希望的な未来。そんなつかのまの明るさもまた、「どこまでも」ということばを4回も繰り返すうちに、どうしようもないあきらめに覆われていく。
中島みゆきは日常で使われる話し言葉と字数がふぞろいの歌詞で、主人公の内面だけではなく、登場人物一人ひとりの気配まで感じさせて歌っている。
理不尽で酷薄な社会が、そこから否応なく顏をのぞかせてくる。
(注)本コラムは2016年9月23日に公開されました。
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【オトナの歌謡曲ソングブックコンサート in YOKOHAMA】開催

1917年に開館した横浜の歴史的建造物「横浜市開港記念会館」(ジャックの塔)で、昭和の名曲を愛する一流のアーティストが集ってコンサートを開催!
昭和に憧れる若い人からリアルタイムで昭和歌謡に慣れ親しんだ人まで、幅広い世代が一緒に楽しめるコンサートです! “国の重要文化財”という、いつもと違う空間が醸し出す特別なひとときを、感動と共にお過ごしください!!
▼日時/2025年6月7日(土曜) 開場17時/開演18時
▼場所/横浜市開港記念会館講堂(ジャックの塔)
▼出演
浜田真理子 with Marino(サックス)
畠山美由紀 with 高木大丈夫(ギター)
奇妙礼太郎 with 近藤康平(ライブペインティング)
タブレット純(司会と歌)
佐藤利明(司会と構成)
▼「チケットぴあ」にて4月5日(土曜)午前10時より販売開始 *先着順・なくなり次第終了
SS席 9,500円 (1・2階最前列)
S席 8,000円
A席 6,500円
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