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中島みゆきが「狼になりたい」に描いた人間模様のやるせなさ~〈吐きすて〉の歌の系譜④

2024.04.12

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1979年にリリースされた中島みゆきのアルバム『親愛なる者へ』の収録曲に、24時間営業の飲食店を舞台にした『狼になりたい』という歌がある。

「夜明け間際の吉野屋では」と始まるこの曲を、ぼくが初めてNHKのスタジオで聴いたのは、アルバムが発売になる直前だった。
歌い出しの1行目の歌詞で驚かされると同時に、心のなかで快哉をあげたことを覚えている。

日本にもついに一幕物の舞台劇、それもリアルな現実を描いて歌えるシンガー・ソングライターが登場してきた。
そう思ったのだった。

牛丼屋チェーンの店内における情景描写と、居合わせた客の心象風景、そこにある鬱屈や屈折。
それらを自分の心のなかで語ったり、あるいは登場人物の代わりにつぶやいたり――。
そんなことばの断片が、中島みゆきの歌声で綴られていく。

歌詞のイメージをふくらませる石川鷹彦のアレンジは、包容感と緊張感があって、サウンドも印象に残るものだった。

NHK-FMで夜の10時台にオンエアしていた「サウンドストリート」という音楽番組でオンエアすると、リスナーからのハガキで「心を撃ち抜かれた」とか、「頭をぶっ叩かれたようです」といった反応が寄せられた。

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主人公の心の奥で溜まっていく不満とやるせない気持ち、「みんないいことしてやがるのに…」という妬みがつのってくる。
そんな気分を抱えたまま抑え込んで、それでも日々の暮らしを続ける人々。

唐突に「ビールはまだかぁ!」ということばが店内に響く。
吐き捨てるようなその怒声からは、中島みゆきのロック・スピリッツが感じられる。

一瞬だけ想像のなかで思い浮かべる、希望的な未来。
そんなつかのまの明るさもまた、「どこまでも」ということばを4回も繰り返すうちに、どうしようもないあきらめに覆われていく。

中島みゆきは日常で使われる話し言葉と字数がふぞろいの歌詞で、主人公の内面だけではなく、登場人物一人ひとりの気配まで感じさせて歌っている。

理不尽で酷薄な社会が、そこから否応なく顏をのぞかせてくる。


(注)本コラムは2016年9月23日に公開されました。

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