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遠い空の向こうに〜R&R全盛期、小さな田舎町の高校生がロケット開発に挑んだ感動の実話

2018.10.04

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宇宙がまだ見ぬ未知の光景だった1957年10月4日。ソ連は人類初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功。これを機に宇宙開発の幕が切って落とされた。そしてその一ヶ月後、ソ連は早くも犬を乗せて2号を打ち上げ。

この立て続けの事態に一番衝撃を受けたのは、言うまでもなくソ連と冷戦状態にあったアメリカだった。“鉄のカーテン”の中の出来事を現実として受け入れざるを得なかったアメリカは、本格的な宇宙開発に取り組むべく1958年10月にNASAを設置。翌年には宇宙飛行に相応しい人材探しを始める。こうしてカプセルに人間を入れて宇宙に打ち上げるという、有人衛生計画「マーキュリー計画」が進められた……。

映画『ライトスタッフ』は苦悩するアメリカの姿と孤独を描いていたが、スプートニクの衝撃はアメリカに無数に存在するスモールタウンの人々にも同時に広まっていた。その中には夜空に弧を描きながら流れていく物体を見つめながら、「いつか自分でロケットを打ち上げたい」と心奪われた少年少女たちもいたことだろう。

『遠い空の向こうに』(October Sky/1999)はまさにそんな夢を本当に追った高校生たちの話。その後、NASAのエンジニアとして約20年も勤務したホーマー・ヒッカム・ジュニアの自伝『ロケット・ボーイズ』をもとに映画化。ジワジワとクチコミで広がって、アメリカではロングラン・ヒットを記録した実話の感動作だ。

ウエスト・ヴァージニア州、小さな炭鉱町コールウッド。ホーマー(ジェイク・ギレンホール)は何をやっても中途半端な高校生だったが、ある夜、遠い空の向こうで光り輝くスプートニク号に魅せられる。兄のようにアメリカンフットボールの有望な選手になって奨学金で大学へ行くか、ほとんどの者のように炭鉱で働くか、どちらしかないような将来の選択の中、ホーマーはやるべき自分の夢を追いかけ始める。

当然のごとく、炭鉱の仕事にプライドを持ち、町の人々からも信頼を得ている厳格な父親(クリス・クーパー)と激しく対立。新しいことに挑戦しようとする息子に、「馬鹿なことを」とまったく理解や関心を示そうとしない。

だが、学校の悪友2人だけは違った。勢いだけで作ったロケットはもちろん木っ端微塵。母親(ナタリー・キャナディ)の花壇のフェンスを吹き飛ばしてしまった。そこでいつも孤立しているオタクの同級生(クリス・オーウェン)を引き込んで、本格的な製作に取り掛かる。ホーマーはロケット研究の草分けフォン・ブラウン博士に想いや家族とのことを綴った手紙を書くのだった。

物理の教師ミス・ライリー(ローラ・ダーン)はホーマーたちの良き理解者で、ロケット工学の知識が詰まった専門書を取り寄せくれたり、反対する校長を説得してくれる。「私がしてあげられることはこの本をあなたに差し出すことだけ。あとは中に書いてあることを学ぶ勇気をあなたが持たなければならないの」

ライリーは全米科学コンテストへの出場を勧めてくれた。そこで優勝すれば、大学で学ぶための奨学金が出るのだ。これならきっと父も認めてくれる。ホーマーは炭鉱で働くこと以外の道が開けることに強く惹かれる。

そして「ロケット・ボーイズ」によるAUK1号が完成。打ち上げたもののうまくいかない。以来、失敗や試行錯誤を重ねながら(31回)、クオリティを上げていく。最初は目を向けなかった学校や町の人々も、ホーマーたちの真摯な取り組みに次第に心を開くようになる。協力してくれる人も出てきた。

そんな矢先、父親が炭鉱の事故で重傷を負ってしまう。ホーマーはロケット作りを断念し、高校を辞めて、炭鉱で働くことを決意。一家の家計を支える。仕事を理解するうちに父親との距離も縮まっていくが、ホーマーの心にはいつもロケットのことがあった。

諦めかけたある日、ミス・ライリーの不治の病を知り、彼女の夢を最後まで信じる姿勢に触れたホーマーは、もう一度ロケット作りに戻っていく。コンテストの行方は? 父親の理解は?

この物語が素晴らしいのは、消えゆく炭鉱=“滅び”とロケット開発=“未来”の対比であり、父と息子の関係だ。そこに友情や夢への挑戦、ロマンスが加わることにより、日本の郊外や田舎町に舞台を置き換えても一切違和感のない、普遍的な世界が心に染み渡ってくる。

音楽はもちろんフィフティーズ・ナンバー。エルヴィスやバディ・ホリー、ファッツ・ドミノやフランキー・ライモン、コースターズやプラターズらが心地良く響く。

ちなみにヒッカムがNASAを退職する直前の1997年11月。日本人飛行士の土井隆雄氏は、友人となったヒッカムがかつて科学フェアで受賞したメダルの一つと“AUK”の文字が入ったロケットノズルを持って、スペースシャトルのコロンビア号に乗り込んで宇宙へと旅立った。

『遠い空の向こうに』予告編


『遠い空の向こうに』

『遠い空の向こうに』


*日本公開時チラシ

*参考・引用/『遠い空の向こうに』パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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