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ライトスタッフ〜英雄になった7人の宇宙飛行士と荒野の大空で宇宙を垣間見た独りの男

2017.08.30

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宇宙がまだ見ぬ未知の光景だった頃。1957年10月、ソ連は遂に人類初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功。これを機に宇宙開発の幕が切って落とされた。そしてその一ヶ月後には、ソ連は早くも犬を乗せて2号を打ち上げ。

この立て続けの事態に一番衝撃を受けたのは、言うまでもなくソ連と冷戦状態にあったアメリカだった。“鉄のカーテン”の中の出来事を現実として受け入れざるを得なかったアメリカは、本格的な宇宙開発に取り組むべく1958年10月にNASAを設置。翌年には宇宙飛行に相応しい人材探しを始める。こうしてカプセルに人間を入れて宇宙に打ち上げるという、有人衛生計画「マーキュリー計画」が発表された。

これは軍事的レベルのプライドだ。「宇宙を制する者が世界を制す」。ソ連にこのまま先を越されてはたまらない。アメリカは躍起になって計画を進めた。飛行の候補に上がったのは、アクロバット芸人やサーファーなどの超越した体力の持ち主。冗談のようだが本当の話だ。最も適していたとされる空軍のテストパイロットたちは「無謀」「反抗的」という理由で当初は敬遠されていた。

だが、そんな綺麗ごとなど言ってられない。結局「マーキュリー計画」には奇妙な適性検査や過酷な訓練を経て、テストパイロットたちを含むプロの先鋭たちが選出された。アラン・シェパード(海軍)、ガス・グリソム(空軍)、ジョン・グレン(海兵隊)、ドナルド・スレイトン(空軍)、スコット・カーペンター(海軍)、ウォルター・シラー(海軍)、ゴードン・クーパー(空軍)ら、アメリカ初の7人の宇宙飛行士たちが誕生したのだ。

1961年1月、ケネディ新大統領が就任。“偉大なるアメリカの創造”が早急に求められていた時期。7人にはTVや新聞の報道の影響もあり、国民的ヒーローとして過剰な期待が寄せられる。一方で肝心のロケット自体の発射は爆発続き。不安な状況の中、7人は「実験室のネズミ、チンパンジー」と揶揄されながらも、“従順なるクルーカットのロボット”から脱却する。

1961年5月、ソ連のガガーリンに続き、アメリカのアラン・シェパードが宇宙に旅立つ。アランは国家的英雄に祭り上げられ、パレードや表彰、ホワイトハウスでの会食に招かれた。だが、ゴードン・クーパーによれば、偉大な開拓者は別の場所にいるという。その名はチャック・イェーガー。彼こそ自分が憧れる真のパイロットなのだと。「マーキュリー計画」はそんなゴードンの1963年5月の飛行で終了。宇宙開発は第2章へ突入していく……。

『ライトスタッフ』(The Right Stuff/1983)は、1979年にニュージャーナリズムの旗手である作家トム・ウルフが「ローリング・ストーン」誌で6年間連載された原稿をもとに発表した同名ベストセラーの映画化。“体制に従順”な宇宙飛行士たちのイメージからかけ離れた、“個性溢れる”真実を描いて大きな話題となった作品。

物語は、空軍のテストパイロットとして身を貫く“無名”のチャック・イェーガーと7人の“有名”な宇宙飛行士の対比を通じて、人間としての尊厳、苦悩する妻たちの姿、失敗する者の悲哀、時代の移り変わり、フロンティア・スピリットなどを追う。中でもイェーガーの存在は印象的だ。特にオープニングシーンが素晴らしい。

広漢としたモハベ砂漠に、馬に乗った男がただ一人現れ、丘の頂きで眼前に広がる自分の運命を一眸(いちぼう)する。輝くオレンジ色のX-1ロケットが、砂漠の滑走路に、飼い慣らされることのない半野生馬のように、エンジンから炎を噴き出して身を屈めている。

過去の古典的なウエスタンのヒーローが広大な宇宙の探検家としての未来に出逢う、というこのイメージで『ライトスタッフ』はその神話的な意図を明らかにしている。──『ニューズウィーク』


空軍のテストパイロットであるイェーガーは、1947年に前人未到の音速の壁(サウンド・バリア)を破る。それから記録の更新という孤独な世界に生きる彼は、当然「マーキュリー計画」の最有力候補だったが、大卒でないなどという理由から対象外にされてしまう。しかし、イェーガーはそもそも国や政治のために利用されるモルモットになど興味はなかった。

“正しい資質”(ライトスタッフ)の具現者としてのイェーガーは、無限の空間が広がる空の世界に自らの夢、希望、ロマン、未来を追い求める。この映画の胸打たれるクライマックス。孤独なヒーローは、宇宙飛行士たちが盛大なパーティで祝福を受けている頃、閉鎖された空軍基地で、たった独り戦闘機で荒野の大空へ舞い上がる。そして高度計の針が限界に達した時、彼は成層圏の彼方の“宇宙”を人知れず垣間見ることに成功する。

妻たちの姿の相違も意味深い。宇宙飛行士たちの妻は、長年の不安な歳月に対する当然の報酬(ホワイトハウスでの名誉や会食)を受けようとする。しかし、イェーガーの妻グリニスは違う。夫と同様、一匹狼で挑戦者なのだ。彼女は言う。

「パイロットたちは恐怖を克服する訓練を受けているけど、妻たちには何もない。もし夫が死んだら、給料二ヶ月分の手当が支給されるだけ。でもいいのよ。空に夢を賭ける男。魅力的よ。私が我慢できないのは過去に生きる男達。過去の思い出に浸っている。もしあなたがそうなったら、私は家を出て永久に戻らない」

すると夫はこう呟く。

「俺は恐れを知らない男だけど、お前ばかりは死ぬほど怖い」
「そんなことないわ……でもそうあるべきよ」


映画の中で、二人はパティ・ペイジの「テネシー・ワルツ」で身を寄せ合う。現在のアメリカはこれを観て何を想うのか。

予告編


「テネシー・ワルツ」が流れるシーン。チャック・イェーガー役は2017年7月に亡くなった戯曲家/脚本家のサム・シェパードが演じている。

『ライトスタッフ』

『ライトスタッフ』


*日本公開時チラシ

*参考/『ライトスタッフ』パンフレット、『80年代アメリカ映画100』(北沢夏音監修/芸術新聞社)

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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