ミュージックソムリエ

「21世紀のボブ・ディラン」と称賛され、若い世代の希望になったケンドリック・ラマーの衝撃

2018.04.16

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 2017年、ヒップホップとR&Bがビルボードの年間チャートで、初めてロックの売り上げを抜いたことが話題となった。
 その売り上げを支えているのは、主に若い世代の人たちだ。
 かつてエルヴィス・プレスリーやビートルズのようなロック・スターが、世界中のティーン・エイジャーを熱狂させたのと同じように、ヒップホップ・スターたちの一挙手一投足に熱烈な眼差しが向けられている。
 今やラッパーという存在は若者たちの一番の憧れの的なのだ。

 若者たちを熱狂させている要因の一つはその歌詞にある。
 ビートやグルーヴに乗って放たれる言葉は、ラッパーが聴き手に対して直接的に語りかけるようである。

 そのなかでもとりわけ「言葉」に注目が集まっているラッパーが、ケンドリック・ラマーだ。
 ファレル・ウィリアムスは「21世紀のボブ・ディラン」という言葉を用いて称賛した。
 
 ケンドリックは歌詞の中で、巧みな韻や暗喩によって言葉の持つ力強さを最大限に引き出し、なおかつ一本の短編映画のような物語を作り上げている。
 その大胆かつ繊細な言葉の原点はどこにあるのか。

 ケンドリック・ラマーは、音楽好きの母親とストリート・ギャングの父親の下、カリフォルニア州にあるコンプトンで生まれた。
 この街はアメリカ有数の犯罪発生地域であり、未だに銃撃事件や強盗、麻薬取引が繰り返されている。
 そのためにこの地に住む多くの黒人は、警官たちによって「犯罪者」のレッテルを貼られてしまい、善良な人々までもが不当な逮捕や抑圧を受けていた。

 危険と隣り合わせの街で育った彼に、転機が訪れたのは8歳のときだ。

 ラッパーの2パックとドクター・ドレーが、大ヒット曲「California Love」のミュージックビデオを撮影していた現場に、たまたま居合わせたのだ。



 二人はコンプトン出身であり、90年代当時の音楽シーンにおいて大きな成功を収めていた。彼らはいわば、荒んだ街の希望の象徴であった。
 そんなヒップホップ・スターの姿を目の当たりにしたケンドリックは、いつしか自身もラッパーになることを夢見るようになる。

10代になった頃、周りの同世代は犯罪やドラッグに手を染める者が多かったが、音楽で成功することを夢見ていたケンドリックは真面目に学校に通った。
そして同じような夢を持った少年たちと、フリースタイルのラップバトルや音源制作に取り組んだ。

 そのうちに自主制作の音源がインターネットを通して広まる。「ケンドリック・ラマー」という名前は徐々にヒップホップの世界でよく知られるようになった。

 そして2012年、メジャーデビューアルバム『Good Kid, m.A.A.d City』を発表する。ケンドリックが24歳の時だった。



 このアルバムは、自分の幼少期から青年期までの経験を、K-Dotという主人公に仮託し、コンプトンに蔓延する犯罪や抑圧を描いている。
 絶望の中でも、音楽が未来を切り開く希望となる— 彼はこの作品で音楽によって生まれた希望を歌ったのだ。

 『Good Kid, m.A.A.d City』は多くの評論家、そしてドクター・ドレーをはじめとした大物ラッパーからの賞賛を受け、ケンドリックの存在は、世界中のリスナーに知られるようになった。

 このことに自信をつけた彼は、若者世代の声の代弁者であることを自認し、ツアーや作品制作を精力的に行う。
 自分と同じように不当な暴力や抑圧に悩む人々に希望を与えようとしたのだ。


 そうしたケンドリックの活動が一つの形として現れたのが2015年にリリースしたアルバム『To Pimp A Butterfly』だ。
 主人公は大きな成功を収めスターになった、ケンドリック自身である。
 「名声に溺れることなく、人々に希望を与えるべくラップをする」という彼自身の宣言と、それでも救えない故郷の仲間や人々がいることへの無力感がこの作品の中心にはあった。

 その過程で、アフリカ系アメリカ人のルーツであるアフリカの地に行き、神や悪魔といった存在と対峙していく姿が、アルバムを通して描かれる。
 まさに彼自身が社会やルーツ、そして自分自身と向き合う物語を作り上げたのが『To Pimp A Butterfly』というアルバムであった。

 そして、物語の終着点を歌った「Mortal Man」では、今は亡き2Pacと会い、自分の書いた歌詞を送る。



 それはケンドリックがかつて憧れた2Pacのように、自分も若者たちの希望の象徴になる。彼はこの楽曲を通して、そう宣言にしているように聞こえる。


 このアルバムは前作以上に多くの人に聴かれるようになり、初めてグラミー賞の主要部門にもノミネートされた。


 
 彼の「世代の声」としての言葉は、確実に多くの人に届いている。
 ケンドリック・ラマーの言葉は、若い世代の新たな希望となっているのだ。

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