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「日本の『すべての若き野郎ども』を作りたい」という想いから生まれたTHE YELLOW MONKEYの「JAM」

2019.04.15

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1992年にデビューしたTHE YELLOW MONKEYは歌謡曲とグラムロックを融合させた、新たな日本語ロックを志向するバンドとして活動を開始する。

活動初期は奇抜なルックスと、過激なライヴ演出や歌詞でアンダー・グラウンドな存在であった。
しかし、ライヴでの動員を着実に増やしデビュー2年目にして武道館公演が決まり、1995年にはシングル「太陽が燃えている」がヒット。
さらにその年の11月に発表したアルバム『FOUR SEASONS』はオリコンチャートの1位を記録し、見事にブレイクを果たしたのである。

そんなブームの最中、ヴォーカルの吉井和哉は日本コロムビアのディレクター、宗清裕之に次のシングルの構想を伝える。

「僕は日本の『すべての若き野郎ども』を作りたいんです」

「すべての若き野郎ども」はイギリスのロックバンド、モット・ザ・フープルにデヴィット・ボウイが提供した楽曲だ。



1973年にリリースされたこの曲は、退廃的な生活の中にある絶望と希望を、シンプルかつドラマティックに表現した。
普遍的なメッセージとメロディは、当時の若者に支持され全英チャート3位を記録し、今でもロックンロールのスタンダードナンバーとして知られている。
吉井はこの曲のように、絶望と希望を同居させた日本語ロックのスタンダードナンバーを作ろうとしていたのだ。

そうして彼は自身の子供の誕生と1995年に起こった震災やテロに思いを馳せながら、自分自身の不安と希望を3連符のロックバラード「JAM」を書き綴る。


完成した楽曲は美しいメロディと4人の熱がこもった演奏によって、吉井が歌詞に込めたメッセージを際立たせた。
まさに彼が目指した通り、「すべての若き野郎ども」に通じる切実さを感じさせるものになったのだ。
しかし、日本コロムビアの社内では、シングルとしてリリースすることへの反対意見が巻き起こる。

「バラードで勝負なんて早いですよ」

「この曲じゃあテレビに出られません」

「我々宣伝がここまで培ってきたものをぶち壊す気ですか」

それはTHE YELLOW MONKEYがブレイクした時期だからこそ生まれた、レコード会社からの慎重で建設的な意見ではあった。
しかし、メンバー4人やディレクターの宗清裕之、プロモーション部の中原繁による粘り強い説得によって「JAM」はシングルリリースされることが決まる。

結果的にこの議論によってレーベル内での一体感が生まれ、大々的なプロモーションが行われることになった。
社内での反対意見が出たことを逆手に取り「レコード会社に発売を反対された問題作」としてプロモーションしたことで、音楽雑誌で大々的に取り上げられたのだ。
さらにプロモーション担当の中原繁は、人気音楽番組「ミュージック・ステーション」と交渉し、5分にも及ぶ楽曲をフルバージョンで歌えるように尽力する。

こうした努力が実り、「JAM」はチャートの上位にランクインし、最終的には80万枚ものロングヒットを記録した。
「黒い花びら」のような3連符のロッカバラードのメロディと、吉井の素直な想いから生まれた歌詞は、同時代を生きる日本人の心を打ったのだ。

そして「JAM」はTHE YELLOW MONKEYの代表曲として知られるようになる。
2004年のバンド解散後も吉井のソロライヴや、彼らから影響を受けた若手アーティストたちにより、長きにわたって歌い継がれてきた。

そしてリリースから20年後の2016年、THE YELLOW MONKEYは再結成を果たし、その年の大晦日で「JAM」を披露する。
NHKホールでの5分にも及ぶ熱演は、まさに楽曲の色褪せない魅力を感じさせるものだった。

ちょうどその前日の朝日新聞には、「JAM」の歌詞とともにメンバーによる言葉が掲載されている。

「残念だけど、日本にはまだこの歌が必要だ」

この言葉通り、吉井とTHE YELLOW MONKEY、そしてスタッフたちが野心と熱量を持って送り出した楽曲は「日本のロックアンセム」であり続けているのだ。


参考文献 「失われた愛を求めて」吉井和哉 ロッキングオン

※文中での発言は音楽ナタリーのインタビュー「THE YELLOW MONKEY それぞれの一曲」より引用しています。
https://natalie.mu/music/pp/theyellowmonkey03


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