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「マイ・ウェイ」はクロード・フランソワとフランス・ギャルの恋から生まれたフランスの歌だった

2024.03.10

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フランク・シナトラの代表曲として知られる「マイ・ウェイ」を作ったのは、1960年代から70年代にかけてフランスで活躍した歌手のクロード・フランソワである。
クロードは1978年に39歳の若さで夭折したが、フランスが生んだ国民的スターとして今でも愛され続けている。

クロードはスエズ運河の通行管理管として働く厳格なフランス人の父と、おおらかな気性のイタリア人の母との間に生まれた。
だがスエズ運河はエジプトのクーデターで1956年から国有化されて、一家は追放されるようにフランスへと移住する。

誇りを持っていた仕事を奪われた父は、生きる目的を失ったことで世捨て人となり、母はギャンブルにのめり込んで一家は困窮生活に陥った。
家族の生活を経済的に支えるために、クロードは地味な銀行員を辞めて音楽の道での成功を目指した。
彼が憧れていたのはアメリカのシンガー、「ザ・ヴォイス」と呼ばれていたフランク・シナトラだった。

南フランスやモナコでドラマーとして働き始めたクロードは、シナトラと同じようにバーやクラブの楽団でシンガーとして歌うようになり、次第に頭角を現していく。
ところがパリに出てレコード会社へ売り込みに行ってみると、クロードはお手本にしているシナトラがもう時代遅れだと指摘される。
1950年代後半のフランスではアメリカからやってきたロックンロールが、若者たちの間で大流行していたのだ。

商業的な成功を第一に考えて、クロードは最新のアメリカ音楽を研究した。
そしてエヴァリー・ブラザースの楽曲をフランス語でカヴァー、「ベル・ベル・ベル」を大ヒットさせて、「クロクロ」の愛称で一躍スターダムに乗った。

クロクロは子供の頃から身体で覚えたエジプト仕込みのリズム感を武器に、ラスベガスのショーを観てヒントを得た派手な衣装やパフォーマンスで独自のスタイルを確立し、次々にヒットをものにしていった。

ロックンロールだけでなくアメリカの黒人音楽やフォーク・ソングにも関心を広げ、「天使のハンマー」や「ドナドナ」などをリメイク、自分で書いたフランス語詞で歌った。

1967年にはシナトラを見習うかのように、自らの手でレーベルを作って音楽雑誌を発行し、ミュージック・ビジネスにも乗り出した。
そしてレーベル設立後に発表した最初のシングル盤が「いつものように」である。
それは恋人だったアイドル歌手、フランス・ギャルとの仲が破局を迎えたことから生まれた歌だった。

「正真正銘の気まぐれ人間、矛盾の塊。それが俺の人生だ。多少のツッパリと寂しがりやが同居しているんだと思う」


こう語ったのはシナトラだが、クロクロもツッパリと寂しがりやが同居している気まぐれな男だった。

それから一日が終わり
ぼくは家へと帰ってくるんだ
いつものように
そして君は外出している
まだ帰ってきてはいないだろう
いつものように


自身のレーベルから発表した最初の曲という事もあって、クロードは音楽番組に出演した時には必ずこの曲を歌った。
心が離れてしまっているのをごまかして、”いつものように”生活する苦悩が描かれている歌は、それから2年後にアメリカで「マイ・ウェイ」として生まれ変わることになる。

これをバカンスでフランスを訪れていたカナダ出身のシンガーソングライター、ポール・アンカが耳にして気に入ったことで、シナトラのために英語でリメイクされたのだ。

アンカは人生の節目を迎えた男が過去を振り返りながら、おのれの行く末に思いを馳せる歌詞を書きあげて、シナトラに提供した。

とても充実した人生だった
あらゆる道を旅してきたが
それ以上に私は自分の信じるままに歩いてきた


フランク・シナトラに憧れて歌手を目指したクロード・フランソワが、フランス・ギャルとの別れを歌った作品がめぐりめぐって、当のフランク・シナトラに歌われたのである。

シナトラの円熟したヴォイスを得たことによって、「マイ・ウェイ」は原曲とは全く異なるドラマティックな世界を創出し、スタンダード・ソングとなって世界中に広まっていった。

フランス・ギャルとクロード・フランソワという、フランスの若い人気歌手同士の恋から生まれた歌が、世界のスタンダードになったのは単なる偶然ではなく、音楽の魔法があったからだと思えてならない。

フランク・シナトラ「マイ・ウェイ(My Way)」(1969)


クロード・フランソワ「いつものように(Comme d’habitude)」


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