「ヨシ子さん」が世界に発見される日が来るか、あるいは桑田佳祐の思いとメッセージが、国境や民族を超えて届くか?
どこかで「日本語のロック」の限界を感じながらも、幼い頃から耳にしてきた洋楽をどうやって日本で成り立たせるのか。桑田佳祐はデビュー曲の「勝手にシンドバッド」以来ずっと、日本語のロックを生み出すことに挑戦してきたと言っても過言ではない。
そうやって探し続けて確立した方法のひとつが、「日本語なのに英語っぽく聞こえる」という歌い方と、音感を生かした独特の歌詞だ。
そうした過程を経てある時期は英語の歌詞にもチャレンジし、近年は歌謡曲を積極的に取り上げるようにもなった。そんな桑田佳祐が新曲について、事前にこう語っていた。
「インドとラテンとペルシャと東南アジアが混ざった、無国籍な匂いがする、平成のロバート・ジョンソンともいうべき曲になりそうだ」
碓かに「ヨシ子さん」という歌を聴いていると、時間も空間も超えて自由自在に移動する音楽旅行に思えてくる。
ペルシャ湾あたりから出発した飛行船に乗り込んで、インド洋からマラッカ海峡を抜けて、東南アジアから台湾、沖縄列島を経由して日本にたどり着いて一服、「♪なんやかんや言うても演歌は良いな」などとつぶやきながら、さらに東に向かってハワイを経由して太平洋を渡る。
北米大陸に着いたらカリフォルニアからアメリカ合衆国を横断し、カウボーイたちの牛追いの声を聞きながらテキサスへと至る。そこからミシシッピ川を南下してディープサウスを抜けて、ニューオーリンズからフロリダへ出たらカリブ海に渡る。
そしてレゲエを生んだ西インド諸島のジャマイカに遊び、最後はラテンアメリカとも呼ばれる中南米に上陸して、アンデス山脈にまで至る長い旅。
その不思議なミクスチャー音楽から伝わってくる楽しさは、かすかに覚えている遠い日の記憶にも結びついている。
「チキドン(チキドン)」という掛け声のもとは、三波春夫の「チャンチキおけさ」と渡辺マリの「東京ドドンパ娘」と思いたくなる。
それに合わせた実際の掛け声は、1950年代のテレビの黎明期に人気があった西部劇『ローハイド』の主題歌から来ているようだ。
そのことがわかって初めて、アメリカの歌が半世紀以上の歳月をかけて桑田佳祐の肉体を経由し、日本の土着的な音楽になったことに合点がいく。
聞くところによれば、サザンオールスターズのファンの間では、「ローハイド」は桑田佳祐が子供の頃によく歌っていた歌として有名らしい。まだビートルズが登場する前のことだから、無意識のうちに彼の歌い方の原点となった可能性もある。
これを2コーラスで「チキドン(チキドン)」から、「エロ本(エロ本)」と歌うところに、スペルも意味も知らないまま、外国の曲を耳コピで歌う幼い子供の天真爛漫さが感じられる。
桑田佳祐の音楽の原点にあるのが、ビートルズ以前に聴いていたポップス、ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」や、坂本九の「上を向いて歩こう」だったということは、以前に雑誌のインタビューで読んだことがある。年齢的にはまだ4、5歳から6、7歳の時に体験した音楽が、無意識のうちに体に入り込んだものなのだ。
「ヨシ子さん」からはその時代の記憶の断片や、音楽のエッセンスが飛び出してくる。
オッサンが歌うというスタイルのこの「ヨシ子さん」には、ともに「Deer Friend」と歌われている〈兄ちゃん〉や〈親友〉のほかに、〈姐ちゃん〉や〈ベイビー〉も登場する。そして歌詞の中に「母」の姿が不在であるにもかかわらず、どことなく全編から母なるものへの憧憬が感じられる。
そこが林家三平を彷彿させる「ヨシ子さーん」というフレーズを歌詞に選んだ、桑田佳祐の音楽的なセンスのなせる技なのかもしれない。
日本人がアメリカ文化に憧れて浸って過ごしていた昭和という時代が、「ヨシ子さーん」というメロディと歌詞によって、ひと塊りの渾然一体化した思いとなって時空を超えてを飛んでいく。振り向いてはくれない面影だとをわかっていても、つい一緒に「ヨシ子さーん」と呼びかけてみたくなってしまう。
おちゃらけたふりをしながら地道に努力を重ねてきた天才にしか出来ない、日本語の表現によるロックが「ヨシ子さん」なのだと思う。
<幼年時代に無意識に聴いていて、いつしか刷り込まれていた音楽の記憶>
・「コンドルは飛んで行く」について詳しくはこちらのコラムをどうぞ。
コンドルはどこに向かって飛んでいったのか
・『ローハイド』(Rawhide)は、1959年から1965年にかけてアメリカのドラマ(テレビ映画、西部劇)、主題歌はフランキー・レインが歌ってヒット。CBSで制作・放送された。主題歌はフランキー・レインによって歌われた。ブルース・ブラザーズのカヴァーも有名だ。
・『サタデー・ナイト・フィーバー』1977年製作のアメリカ映画、監督はジョン・バダム、俳優ジョン・トラボルタの出世作。”ディスコでフィバー”は70年代後半の日本でも流行語になった。
・日本でレコード・プレーヤーが普及したことで、廉価だった長岡のサファイア・レコード針が一般向けに流通し始めるのは、1958年(昭和33年)のことだ。1971年(昭和46年)に社名を「株式会社ナガオカ」に改めると、1973年(昭和48年)から自社製のダイヤモンドを取り付けたレコード針の製造を開始し、およそ10年後の1984年(昭和59年)5月には生産数が月産100万本を達成するまでになる
・桑田佳祐の父は茅ヶ崎駅南口にあった映画館「大黒館」の支配人で、当時の映画スターたちとも親しくするなど、おしゃれで新しもの好きであったという。”スウィング・ジャズの王様”と呼ばれたグレン・ミラーの楽団や、明るく強烈なラテン・リズムで世界的なブームを巻き起こした”マンボの王様”ペレス・プラード楽団を好んで聴いていたのは、桑田佳祐が4、5歳の時であった。

ヨシ子さん
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