1966年の9月初旬から、ビートルズのメンバーはソロ・プロジェクトに挑戦し始めたので、滅多に顔を合わせることがなかった。
しかし、再集結して新しいアルバムのレコーディングに取りかかろうと、11月24日の夜にアビーロード・スタジオにメンバーが集った。その日のレコーディングではジョンが、新曲をアコースティック・ギターで歌ってみせた。
ジョージ・マーティンが著書のなかで、初日の印象と、28日と29日にまで続いたレコーディングの経緯を記している。
それは本当に美しい歌だった。それから私たちはリンゴのドラム、ポールのベース、ジョージのエレキ・ギターを交え、試しにその曲を演奏してみる。その曲は私が初めて聴いた時の穏やかな感じとは違って、だんだんヘヴィなアレンジになっていった。そして、最後にレコーディングされた時点では、全くみごとなヘヴィ・ロックに変わっていたのだ。
それでも、ジョンが望んでいた通りのでき上がりだったようなので、私はちょっと、わざとらしく肩をすくめた。「ウーン、私が考えていた感じとはちょっと違うけど、これでオーケーにしよう」
(G・マーティン「ビートルズ・サウンドを創った男 耳こそはすべて」吉成伸幸・一色真由美 訳/河出書房新社)
12月に入ってからスタジオに戻ってきたジョンは、マーティンに「もう一度、みんなで真剣にやり直してみないか」と切り出した。
マーティンとビートルズはそれまで、一度もレコーディングをし直したことがなかった。最初にやってダメなら、もう一度やってもダメだと、誰もが思っていたからだった。
しかし、ジョンが「ちょっとストリングスかブラスか何かを入れてみたらいいんじゃないか」と言ったので、マーティンはやり直しに挑戦してみることにした。
二人で話し合ったうえで、マーティンが曲に合うようなアレンジを任せられた。
マーティンはチェロとトランペットのバンドが入るアレンジの譜面を書き、それをもとにして12月8日にもう一度、バンドのメンバーによるレコーディングが行われた。
翌日は、リンゴのヘヴィなドラムやパーカッション、テープを逆回転させたシンバルなどがダビングされた。
そして15日には、譜面通りに3台のチェロと4台のトランペットが入り、録り直したヴァージョンのレコーディングは終わった。
マーティンは「今回のほうがずっと良い出来だ」と満足だった。ところが2、3日経って、ジョンから電話がかかってきた。
「今回のアレンジは気に入っている。本当にいいアレンジだよ。でもね、前のも捨て難い何かがあるような気がするんだ」
「わかってるよ。両方ともいいアレンジだからね。だが、細かいことに気を使いすぎているんじゃないかい?」
(同前)
マーティンがそう答えたのは、どちらかのヴァージョンを選ばなければならないのだから当然だった。ところが、ジョンはとんでもないことを言ってきた。
「最初の前半と二回目の後半が気に入ってるんだ。この二つをただくっつけてみたらどうだろう」
(同前)
常識的に考えて、そんなことは不可能だった。二つのヴァージョンはキーが違うし、テンポも異なっている。「ただくっけて」などということは、技術的に出来るはずがない。
プロデューサーやエンジニアに限らず、スタジオの仕事に慣れたたいていのミュージシャンなら、誰でも知っている常識だった。ところが、ジョンは納得しない。
「わかってるよ。でもジョージ、君なら何とかできるだろう。僕には分かるんだ。君ならうまくやれるさ」(同前)
ジョンは、ビートルズの中では普段から技術的なことにはもっとも関心が薄かった。そのぶんだけマーティンを信頼し、不可能を可能にする力があると思っていたのかもしれない。
解決の見込みのない問題を渡されたマーティンは、しかたなくエンジニアのジョン・エメリックとともに、万にひとつの可能性を考えながら、両方のヴァージョンを聴き直した。そこで突然、可能性がなくはないことに気がついた。
「もしも運がよければ解決できるかもしれない」
そう思ったのは二つのヴァージョンのうちで、テンポの遅い方が早い方よりも半音だけ、キーが低かったからだった。
キーが低い最初のヴァージョンをスピードアップして、もうひとつのヴァージョンをスローダウンすれば、両方とも同じピッチ(音程)にまでは揃えられる。そのときに運が味方してくれれば、耳で聴いてもわからない程度まで、テンポが近くなるかもしれない。
そこでテープレコーダーのスピード・コントロールを調整して試行錯誤をしていると、最初のヴァージョンのテープ・スピードを5%アップし、後で録り直したヴァージョンを5%ダウンさせたところで、ピッチ(音程)が合うことを発見した。
しかも奇蹟的なことに、テンポまでぴったりだったのである。
マーティンは、「神の御恵みと幸運に助けられて、なんとかうまく行った」と語っている。
だが「二つをただくっつけてみたらどうだろう」と、常識にとらわれない発想をするジョンの直感があったからこそ、レコーディング技術の離れ業が引き出されたとも言える。
「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」は、最初のレコーディングから約1か月後、ジョンの思った通りの作品になって完成した。
ジョンはビートルズ時代につくった最高の曲として、「アイ・アム・ザ・ウォルラス」「ヘルプ」「イン・マイ・ライフ」とともに、「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」を挙げている。
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