究極の世話焼きおじさんというか、さりげなさすぎる無償の愛というか。果たして、ここまで人のために自らをなげうつことができる人が他にいるだろうか──EGO-WRAPPIN’や二階堂和美、UA、オーサカ=モノレール、ハンバート ハンバート、畠山美由紀、モアリズム、青柳拓次などの多くのミュージシャン、そして地元の人たちから愛される尾道のCDショップ〈れいこう堂〉。営業時間も気まぐれなこの店は、CD(専門店にしては非常に在庫が少ないが)だけでなく、無農薬野菜や酵素ジュースなども置いてある一風変わったセレクトショップのようなお店だ。ショップ経営だけではなく、身銭を切ってライブ・イベントを企画して国内外問わずアーティストを招聘。尾道の音楽シーンを盛り上げる活動を地道に続けてきた。また、3.11以降は尾道に移住してきた人たちを世話するためにかけずり回る。そんな型破りな店主の姿を追ったドキュメンタリー映画『スーパーローカルヒーロー』(田中トシノリ監督)。2014年5月に地元・尾道にて上映されて以来、各地をまわって来たこの映画が、2015年3月21日より2週間限定で新宿・K’s cinemaにてモーニングショー公開される。
夜明け前の町を疾走する、スーパーカブ。何度も停車してはその都度バイクを降り、民家に朝刊を届け、また次の家へとひた走る──映画『スーパーローカルヒーロー』の本編は、こんな新聞配達のシーンからはじまる。配達をしているのは、〈れいこう堂〉の店主・信恵勝彦さんだ。
ノブエさんは音楽卸業の会社勤務を経て、25歳で尾道のレンタルレコード店店長として働きはじめる。自身の好みと店長としての裁量で、日本のインディー・アーティストを取り扱うようになると、マニアックな品揃えから地元の音楽好きに一目置かれる人気店となった。その後、90年代後半にCDとアナログレコードを扱うショップ〈れいこう堂〉を立ち上げ独立。クラブミュージックの盛り上がりやアナログレコードのブームも相まって、店は評判に。実際れいこう堂に通ったことで、いろんな音楽を教わったという尾道市民も少なくないようだ。オープンしてしばらくした頃、メジャーデビュー前のEGO-WRAPPIN’の音楽と出会い大きな衝撃を受けたノブエさんは、ノウハウも無いままに自ら野外のライブイベントを企画。以降、自らの耳でチョイスした素晴らしいミュージシャンを尾道に呼び、ライブの楽しさを伝えてきた。
だが、音楽不況となり売上げが厳しくなったことで、店は閉店を余儀なくされる。しかし、素晴らしい音楽を地元に伝えたいという情熱から再び立ち上がり、れいこう堂からいろんな音楽を教わったというお客さんたちや、音楽イベントで知り合った仲間たちのサポートも得て、築80年ほどの古民家でれいこう堂は新たなスタートを切る。店を中心とした輪は広がっていき、ライブイベントにはボランティアスタッフも集まるようになり、また、れいこう堂の評判も県外まで伝わるようになっていった。
店の売上げだけでは立ち行かないため、他のバイトも掛け持ちしながら店を続けてきたノブエさんだが、ある日産廃工場のバイトで足の指を切断する大ケガを負ってしまう。再び閉店の危機に瀕したノブエさんを支えるため、店に縁の深いミュージシャンが集結し、2009年夏に東京で資金を集めるライブイベントを開催。れいこう堂を中心とする絆はさらに深まっていった。
*信恵さんと田中トシノリ監督。
そして、2011年3月11日。東日本大震災、および福島第一原発の事故が起こり、子どもを抱えて西日本へ避難する人たちが増加する中、ノブエさんは尾道への避難・移住者のための窓口になるべくボランティア活動をはじめる。移住者の生活を支援する会の活動や、放射能汚染で遊び場を無くしてしまった子どもたちのためにレクリエーションを企画したりと、店を放ったらかしにしたまま東奔西走。もちろん、それでは生活が成り立たないので(冒頭のシーンにもあったように)新聞配達のバイトなどをして、生活費を稼いでいるというのだ。
映画は、ノブエさんのことを愛してやまないミュージシャンたちをはじめ、れいこう堂に通う尾道市民、また東日本からの移住者たちの証言を交えながら進んでいく。ノブエさんが自らの暮らしを後回しにしてまで、人のために心血を注ぐ理由とは? そして時が経つにつれ、尾道に避難してきた人たちに生じてきた心の変化とは?
震災後、子どもと一緒に尾道へと移住してきた女性が、映画の中で語ったひとことが印象的だ。
「ノブエさんは、月光仮面みたいな人。困ってる時に必ずどこかからやってきてくれて、ありがとうって言う前にいなくなってしまう」
地方の小さな町に住むおじさんが、まるでヒーローのようにみんなのために働く。ノブエさんは、決して特別な存在ではない。情熱と行動力さえ持っていれば、誰もが誰かのヒーローになれる──そんなメッセージを、彼は言葉ではなく身をもって示してくれる。
映画
『スーパーローカルヒーロー』
(2014年/日本)
監督:田中トシノリ
音楽:青柳拓次
出演:EGO-WRAPPIN’/二階堂和美/モアリズム/オーサカ=モノレール/畠山美由紀/アン・サリー/ハンバートハンバート/Chocolat & Akito/信恵勝彦(れいこう堂店主) 他
2015年3月21日より2週間限定
新宿・K’s cinemaにてモーニングショー
その他全国で順次公開予定
superlocalhero.com
『スーパーローカルヒーロー』東京公開記念ライブ
2015年3月18日(水)
東京・渋谷CLUB QUATTRO
LIVE:
青柳拓次
EGO-WRAPPIN’(中納良恵+森雅樹+菅沼雄太)
曽我大穂
トウヤマタケオ
二階堂和美
MC:
信恵勝彦(尾道 れいこう堂店主)
田中トシノリ(映画『スーパーローカル・ヒーロー』監督)
前売り/当日 ¥4,800/¥5,300 *映画「スーパー・ローカル・ヒーロー」の前売券料金を含む。
詳しくは渋谷クラブクアトロ website をご確認ください。