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清潔で、さわやかで、それでいて野心的な若者と感じたCharのために阿久悠が書いた「気絶するほど悩ましい」

2024.06.15

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『没後10年・作詞家50年メモリアル 阿久悠リスペクトコンサート 〜君の唇に色あせぬ言葉を〜』が、2017年11月17日と18日に東京国際フォーラム ホールで開催された。

17日は出演順に八代亜紀、大橋純子、林部智史、MAX、北原ミレイ、石野真子、ささきいさお、Char、新妻聖子、山本リンダ、ゴスペラーズ、和田アキ子、木の実ナナ、五木ひろしで、それぞれ阿久悠が作詞した歌を披露した。

そうした流れのなかでCharは第二部の幕開けに登場し、「闘牛士」(1978年/作曲: Char)と「気絶するほど悩ましい」(1977年/作曲: 梅垣達志)の2曲で、張りがあって力強い歌声とあざやかなギター・プレイで観客を唸らせた。

曲と曲のあいだには初めて阿久悠と会った時のことを、こんなふうに語って会場をなごませた。

阿久さんは「ロックの人に詞を書くのは久しぶりで非常に楽しみだ」、と仰ってくださいました。
ぼくはめちゃくちゃ突っ張ってる時だったので、「ふん、そうなんだぁ」、っていう勢いだったんです。


1976年に「NAVY BLUE」でソロ・デビューしたCharが、その翌年に自分の楽曲ではなく歌謡曲の「気絶するほど悩ましい」を歌ったのは、レコード会社のディレクターと話して悩んだ末に、最後は本人が自ら下した決断だったという。


中学生の時からプロの現場でギターを演奏していたCharは、ご多分にもれずベンチャーズのコピーからギターを始めた。だが、1960年代後半から70年代にかけては彼我の差が歴然とあった。

オレの上の世代はやっぱりコピーなのね。イギリスやアメリカで見てきたものをそのままやっている。だけど俺たちはGSもやったし、歌謡曲も少し入ってるでしょ。もちろんツェッペリンのコピー、ギンギンやってはいたけど、もう少し柔軟でオリジナリティつくりやすいところにいたんだね。
最初オレはアメリカ人のメンバーとバンド組んでコンサートやってたんだけど、いろんな問題で続けられなくなって。で、オレもアメリカ行こうか日本でやろうか迷ったんだけど、結局日本でやってみようってことになったんだよね。で、それなら徹底的にやってやろうって。だから歌謡曲の世界まで入っていった。


日本でやると覚悟を決めたら、歌謡曲のナンバーワン作詞家だった阿久悠と組むことで、自分たちでは気が付かない魅力を引き出してもらうのもいい、それはスタッフとともに考えたことだった。

しかし阿久悠は当初、この依頼を断ったと述べている。ロック・ギタリストとして大いに注目を集めるCharには興味を持ったが、それまでの経験からうまくいかない可能性を感じたからだ。

それまでも何度かそのような話をもらってトライしたものの、まわりの大人たちの知恵でしかないことが多く、本人にとっては阿久悠と組むことが迷惑に思えるケースがあったようだ。

それまでに組んでみたロックとかフォークとか、若い人に限ってジャンルにこだわる傾向があり、乱暴な口をきく割には臆病な人が多いのを今までも経験していたからだ。もし、彼もそういう一連の性癖の持ち主であるなら、落胆するだけだし、不幸は目に見えている。


しかしCharの場合は本人の希望だということだったので、阿久悠は「それじゃ、お見合いしましょう」と、会うことは引き受けた。

ただし、お見合いの結果ほんとうに双方がピタリと来なかったら、話はご破算にするという前提だった。ところが”めちゃくちゃ突っ張ってる”Charに会ってみて、その若さもふくめて大いに気に入ったのである。

食事をしながら三時間余りもしゃべった夜、ぼくは、久しぶりに興奮した。清潔で、さわやかで、それでいて野心的な若者に出会えた昂(たか)ぶりである。ほどほどのバランスの若者など面白くもおかしくもない。誇大の夢を語れる若者は、うらやましくもあり、可愛くもあり、頼もしくもある。生意気な奴ほどすてきだし、思い上がったことをしゃべる方が清潔だ。
それにしても、なんと自信に満ちて、のびやかな若者だろう。ぼくは、すいすいと水割りのグラスを空にしながら、うっとりと見つめていたものだ。


エンターテイナーとしての花も感じた阿久悠は、自信を持って「気絶するほど悩ましい」を書き、そのヒットに続いて「逆光線」、「闘牛士」と作品を提供していくことになる。

リスペクトコンサート2日目は1部の後半、ホンワカしたトークで笑いを誘っていた石野真子の後だった。

この日もどこかに場違いと思わせる雰囲気を漂わせながら登場したCharだったが、堂々たる振る舞いと存在感、見事なステージ・パフォーマンスによって、おそらくは初めて彼のライブに触れたであろう多くの観客たちに、強烈なインパクトを与えた。

とくに1曲目の「逆光線」が、すばらしい出来栄えだった。

Charは「逆光線」を歌い終えると拍手が静まっていくなかで、「かわいい真子ちゃんの後に、こんなで良いんですかねぇー」と、軽く微笑みながら前日と同じように阿久悠との出会いを語り始めた。

そして若い頃に歌謡曲との邂逅があったことで、今でもロックを現役で続けていられるというような趣旨のことを話した。2曲目の「気絶するほど悩ましい」を終えて退場した後、会場はなんともいえない満足げな空気に包まれていた。

ところでこの日、オーケストラをバックに歌とギターを披露した2曲を聴いて感じたことがある。それは阿久悠が用意したどちらの曲も、歌うCharが主役なのではなく、歌に続いて間奏で鮮やかなソロを弾くギタリストのCharが、もっともかっこ良く見えるような歌詞になっていたことだ。

こうしたところからは阿久悠は作詞家であると同時に、プロデューサーでもあったということがよくわかる。

最後に、「好きな自作の歌ベスト10」などというアンケートが来ると、阿久悠は必ず「気絶するほど悩ましい」を上位に書いていたことを付け加えておきたい。
 
・本コラムは2017年12月1日に初公開されました。

〈参考文献 ・Charの発言は村田久夫・小島智/編「日本のポピュラ史を語る」(シンコーミュージック)、阿久悠の発言は「阿久悠 生命の詩 『月刊youとその時代』(講談社)からの引用です〉


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