梅垣達志の名前が広く知られるようになったのは、1977年6月にギタリストのChar に提供した「気絶するほど悩ましい」 がシングルでヒットしてからだった。
いまでも作・編曲家として活動している梅垣が、同じ年の9月に初めて発表したソロ・アルバム『CATALOG(カタログ)』は、水谷公生、芳野藤丸、後藤次利といった名うてのスタジオ・ミュージシャンを迎えて制作されている。作詞では松任谷由実が3曲、松本隆が1曲、それ以外は梅垣が自ら手がけていた。
当時はまだそんな概念も言葉もなかったが、今になって考えればこのアルバムは都会的な歌詞やサウンドによる、シティ・ポップスの先駆的な作品であったのだ。
だが、時代の流れよりも少しだけ早すぎたのだろうか、アルバムはほとんど目立たないままに終わってしまった。
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しかし、その中に入っていた「CATALOG(カタログ)」を聴いた西城秀樹は、すぐにこれを自分のライブでレパートリーにしていたのである。
彼は子供の頃から関心を寄せていた洋楽のロックをカヴァーし、デビュー当初からステージでの演出やパフォーマンスにおいても、積極的に取り入れてきた。
クイーンやロッド・スチュワートなどの名曲をカヴァーして自分の表現を深めたばかりでなく、日本の新しいミュージシャンやアーティストの動きにも敏感だった。
ロックやジャズ、歌謡曲などの大衆音楽にとって重要なのは、表現する力ばかりではなく、それ以前に自分で音楽を受容する力なのだ。
オフコースの「眠れぬ夜」をシングルとしてリリースしたことも、中島みゆきの「時代」のライブにおけるカヴァーも、そのことを如実に証明していると言える。
音楽を聴く感覚が秀でているからこそ、いい作品を咀嚼して自分のセンスで、さらに新しいものを作るという技術が磨かれる。それをさらに自分のものとして、表現していく歌唱力は比類を見ないレベルにある。
それにしても、梅垣のアルバムに入っていた楽曲を聴いて、自らの意志と判断でそれを唄ったことには脱帽するしかない。この時の西城秀樹は22歳、4月生まれだったので最初は歌詞に惹かれて聴くようになったという。
その後、この曲は1978年のライブ盤『バレンタインコンサート・スペシャル~西城秀樹愛を歌う』に、スタンダード曲の「マイ・ファニー・バレンタイン」や、フランク・シナトラの「夜のストレンジャー」に続くポジションでレコード化された。
しかしCDの時代になってから発売されたライブBOXに収録されなかったために、ファンの間でもなかなかは聴けない幻の一曲ともいわれてきた。
最初にカヴァーしてから四半世紀が過ぎて、生前の西城秀樹はもう一度、2011年に「CATALOG」をプライベートでレコーディングしていた。
そこに至った気持ちについて後日、こんなふうな文章にしていたので紹介したい。
僕が若いころ、十代の女性ファンたちは「大きな赤ん坊だった」という歌詞に親しみを感じたと思います。
四十年余りたち、今は「パパ」の部分が僕に重なります。
西城家の三人の子供は、小さなころから僕を「パパ」と呼んできたので、まるで自分のことを歌にしたみたいですね。
一つ違うのは、パパと呼ばれるショックは、僕にはなかったことでしょうか。
2001年に結婚した西城秀樹は、3人の子供に恵まれた。パパから「お父さん」になった心境の変化を綴った以下の文章からは、音楽活動に向ける真摯な気持ちが痛いほどに伝わってくる。
昨年九月から十月にかけて開いたソロコンサートでは、最新アルバム「心響」(こどう)に収録していないこの曲を、あえてプログラムに盛り込みました。
というのも最近、子供たちに嬉しい変化があったからです。
三人が「お父さん」と呼ぶようになったのです。
そういう変化を迎える年ごろなんでしょう。
呼び方が変わることくらい、他の家庭ではささいなことなのかもしれません。
でも、二度目の脳梗塞を発症したことを「神様から成長期の子供たちと一緒に過ごす時間を与えられた」と前向きにとらえ、子供たちの成長を励みに、リハビリに取り組んできた僕にとっては、特別な瞬間でした。
まだまだ小さいと思っていた子供が大きくなるのは、あっという間。日々、成長する姿に「僕もがんばらなくちゃ」と、気持ちを新たにしています。
2016年1月 西城秀樹
こうして残されていた音源が、初めてCDとして日の目を見ることになった。2019年9月26日に発売される写真集『HIDEKI FOREVER blue』(集英社)の特典である。56歳になっていた西城秀樹の歌唱は、十分にみずみずしく新鮮であった。
今回の公開によって、もっともっと広まっていくかもしれない。そんな可能性を秘めている、知られざる佳曲なのである。
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