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ヴォーカリストとしての魅力が花開いたジョージ・ベンソンの「マスカレード」

2025.03.22

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1972年にレオン・ラッセルが発表した「マスカレード」。シングルのB面だったということもあり、それほど知られていなかったこの歌をカバーして、一躍有名になったのがジャズ・ギタリスト、ジョージ・ベンソンだ。

1943年生まれのジョージ・ベンソンは、わずか10歳にして音楽の本場ニューヨークで“リトル・ジョージ”を名乗り、ギタリストとして演奏活動をしていたという。しかし学校へ行かなければならないということで、いったんは故郷のペンシルバニア州ピッツバーグに戻っていた。

ピッツバーグでちょうどギタリストを探していたというジャズ・オルガン奏者のジャック・マクダフと出会い、ツアーに誘われて参加したのはジョージ・ベンソン19歳の時だった。

ツアーに出て初めて演奏した夜に「クビだ」と言われてしまったが、次のギタリストが見つかるまではバンドにいていいとのことで、それから2〜3週間の間演奏をしているうちに彼のギターの腕はめきめきと磨かれ、遂にはジャック・マクダフにも認められるほどの腕前となる。

“リトル・ジョージ”ではなく、ジョージ・ベンソンとしてのキャリアはここから始まるのだった。それから10年以上もの間、多くのジャズ・アルバムを発表してきたジョージ・ベンソンは、ずっとジャズ・ファンのためのジャズ・ギタリストであり続けた。

『ブリージン』は一つの事件だったね。


と、ジョージ・ベンソンも自らそう語るアルバム『ブリージン』は、1976年にCTIレコードを離れ、ワーナー・ブラザーズと契約して最初に制作されたアルバムだ。

だが、こんなにもブレイクするとは思わなかったという。ブレイクした理由の一つが、このアルバムに収録されている唯一のヴォーカル曲「マスカレード」の大ヒットであることは間違いないだろう。

シングルとして発売されるやいなや、チャートを駆け上り、ソウル・チャートのみならずビルボード・チャートの10位にも入るヒットとなり、翌年のグラミー賞の最優秀レコード賞をも受賞した。

それまでギタリストとして活躍してきたジョージ・ベンソンだが、歌うことは初めてではなかったという。15歳の時に従兄弟と一緒にヴォーカル・グループをやっていたこともあり、プロのギタリストになってからも、ジャズ・クラブで観客のために歌を歌うこともあったのだ。

ある時、ジョージ・ベンソンがライブで「サマータイム」を歌うのを偶然にも観ていたのが、『ブリージン』のプロデュースを手がけることになるトミー・リピューマと、エンジニアのアル・シュミットだった。

「ジョージは歌も良いじゃないか!」と二人は顔を見合わせたという。そして彼のアルバムをプロデュースすることが決まったトミーが、「マスカレード」を歌うことを勧めたのだった。こうして、“ヴォーカリスト”ジョージ・ベンソンが誕生したのだ。

ジョージ・ベンソンの歌の最大の魅力は、彼自身が奏でるギターとユニゾンで歌われるスキャットにあると言ってもいいかもしれない。大ヒットの理由は彼の歌のうまさだけでなく、このスキャットにも多くの人が驚き、魅了されたからではないだろうか。


アルバムが発売された直後のインタビューでは、「決してシングルにする目的でレコーディングしたのではないんだけれど、ヴォーカルが良い感じだった」と自信を持って語っていたが、2000年に行われたインタビューでは、実はこの「マスカレード」を歌うことに抵抗があったことを明かしている。

「マスカレード」という曲は、レオン・ラッセルが、ジャズのスタンダード「エンジェル・アイズ」をヒントに作った曲でね。僕は、そのオリジナルはもちろん、セルジオ・メンデス&ブラジル’66のバージョンが大好きだった。その素晴らしい作品を、僕が歌うことによって傷つけたくはなかった。さらに、『ブリージン』というアルバムは、「マスカレード」を加えなくても十分に素晴らしい仕上がりになっていると、僕自身は感じていたからね。


しかし、ワン・テイクだけという約束で録音したのが、この「マスカレード」だった。トミー・リピューマはこう言ったという。

ジョージ、心配はいらないよ。君の歌は素晴らしいんだ。決してオリジナルの評価を下げたりはしない。


トミーが言っていたことが正しかったことは疑う余地もないだろう。まさにレオン・ラッセルによる名曲が、カーペンターズのカヴァーとはまたひと味もふた味も違った魅力で楽しめる、素晴らしいカヴァーなのだ。

George Benson『 Breezin’』
Warner

参考文献、引用文:「25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏」神舘和典著 幻冬舎新書、「AOR AGE」vol.5 株式会社シンコーミュージック・エンタテイメント

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