「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

ミュージックソムリエ

平成の時代に新しいフォークの風を吹かせたサニーデイ・サービスと『東京』

2025.02.20

Pocket
LINEで送る

1990年代前半に渋谷を中心にして流行した日本のポップス、いわゆる「渋谷系」と呼ばれた音楽は、限りなく洋楽に近いテイストで洗練されていたことから、当時の流行に敏感な若者のファッションとも呼応し、お洒落な音楽として全国的にブームとなった。

サニーデイ・サービスがメジャー・デビューを果たした1994年は、そんな渋谷系ブームの真っ只中だった。バンドのギター&ヴォーカルで、ほとんどの楽曲のソングライティングを手がける曽我部恵一は、渋谷系の中でもフリッパーズ・ギターが大好きだったという。

しかし、デビューした当時、すでにフリッパーズは解散してしまっていた。渋谷系のブームもそう長くはないだろうと感じた曽我部は、自分たちのバンドの方向性を模索しはじめる。

まだまだ周りには、フリッパーズの真似をしたようなバンドが多くいたので、それならば自分たちは真逆を行った方が面白いのではないかと考えた。

「今あえて四畳半フォークみたいなことをやったら面白いんじゃないか」ってところに行き着いた。当時は「ですます調」で歌詞を書いている人なんて誰もいなかったから。


さらに香川県出身の曽我部は、「フリッパーズ・ギターは自分のような田舎出身の若者に夢を見させてくれたが、自分自身がいざ曲を作り始めると、自分の中にフリッパーズ的な要素が全くないことに気づかされた」のだと言う。

そんな悶々とした日々の中で生まれた曲が、1995年のデビューアルバム『若者たち』に収録されている「いつもだれかに」だ。楽曲アレンジにはまだ少し渋谷系の雰囲気が残るが、歌詞は少し内向きで、はにかんだような曽我部自身の当時の姿が感じられる。

「いつもだれかに」


お洒落でなくても、そんな自分を包み隠さずに歌えばいいと気づいたことで、一気に曲が書けるようになったと曽我部は語っている。また、この頃から「~なんだ」という語尾を意識して使うようにしていたという。

そんなサニーデイ・サービスの新しいスタイルを確立させたといえる作品が、1996年にリリースされたセカンド・アルバム『東京』だ。

このアルバムでは、「起伏のない淡々とした日常の中にも素敵なことが隠されているんだ」ということを表現したかったと語るように、「いつもだれかに」のような内向きな所から、一歩外へ踏み出した感のある内容になっている。

「恋におちたら」

文学や映画からインスパイアされた独特の歌詞だけでなく、サウンド面においても前作から大きな変化を遂げた。当時ははっぴいえんどを引き合いに出されることも多かったが、その流れを正しく引き継ぎながらも、渋谷系のみならずパンク・ロックやオルタナティブ・ロックなど、様々なジャンルの音楽を聴いてきた彼らならではの、個性的なサウンドを確立させている。

意図的に渋谷系の逆を行こうとしたことで、結果的に彼らは自身にフィットしたスタイルを見つけることになった。そしてそれは、平成という時代に新たなフォーク・ロックが生まれた瞬間でもあった。

アルバム『東京』は、爆発的なヒットにはならなかったものの、渋谷系の音に少し飽き始めた音楽ファンの心を掴み、一気にフォーキーなサウンドの波に乗せてしまった。そんな記念碑的なアルバムとして、今もファンの間で語り継がれる1枚だ。

「青春狂走曲」

「あじさい」

参考文献&引用元:「音楽とことば~あの人はどうやって歌詞を書いているのか~」江森丈晃・編 P-Vine BOOKS


サニーデイ・サービス 『東京』
MIDI INC.

●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

TAP the POP協力・スペシャルイベントのご案内

【オトナの歌謡曲ソングブックコンサート in YOKOHAMA】開催



1917年に開館した横浜の歴史的建造物「横浜市開港記念会館」(ジャックの塔)で、昭和の名曲を愛する一流のアーティストが集ってコンサートを開催!

昭和に憧れる若い人からリアルタイムで昭和歌謡に慣れ親しんだ人まで、幅広い世代が一緒に楽しめるコンサートです! “国の重要文化財”という、いつもと違う空間が醸し出す特別なひとときを、感動と共にお過ごしください!!

▼日時/2025年6月7日(土曜) 開場17時/開演18時
▼場所/横浜市開港記念会館講堂(ジャックの塔)

▼出演
浜田真理子 with Marino(サックス)
畠山美由紀 with 高木大丈夫(ギター)
奇妙礼太郎 with 近藤康平(ライブペインティング)
タブレット純(司会と歌)
佐藤利明(司会と構成)

▼「チケットぴあ」にて4月5日(土曜)午前10時より販売開始 *先着順・なくなり次第終了
SS席 9,500円 (1・2階最前列)
S席 8,000円
A席 6,500円
「チケットぴあ」販売ページはこちらから

▼詳しい情報は公式サイトで
「オトナの歌謡曲ソングブックコンサート in YOKOHAMA」公式ページ

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[ミュージックソムリエ]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ