「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the SCENE

ダーティ・ダンシング〜ダンスの躍動感や恋の歓喜が表現された伝説のオープニング

2023.08.20

Pocket
LINEで送る

『ダーティ・ダンシング』(Dirty Dancing/1987)


今から思えば、1980年代後半の日本の若者文化(とりわけ都市圏の高校生/ティーン文化)は、まだまだアメリカの影響が色濃く残っていたと思う。信じられない話だが、「“白いアメリカ”の流行=クールだから真似てみよう」的なことが当たり前のように行われていた。特にファッション、メイク、音楽、映画、スポーツ、飲食店、遊び場など、“白いアメリカ”の存在価値は大きく、雑誌やTVがそんなムードを後押ししていた。

ちなみに90年代に入ると、今度は「“黒いアメリカ”がクール」という流れが起こり、渋谷のコギャルがエア・ジョーダンを履いた彼氏と一緒にヒップホップのCDを買いに行くなんてことも普通になった。

アメリカを後追いしなくなった=リアルタイム化したのは、インターネットやケータイが定着して“情報の先取り格差”がなくなり始めたゼロ年代以降のことだ。スマホやSNSアプリが主流になった2010年代では、アメリカの文化は世界の選択肢のうちの一つといったところだろう。ある意味“成熟した日本”の若者文化は、もはや“憧れのアメリカ”文化を必要以上に気にすることはなくなった。

『ダーティ・ダンシング』(Dirty Dancing)は、日本でバブル経済がスタートしたばかりの年、1987年11月に公開された(アメリカは8月)。都市圏の高校生やティーンの間ではアメカジやスケボーが流行った頃だ。ジョン・ヒューズ監督作やトム・クルーズ主演作をはじめとするアメリカ青春映画も全盛期を迎えていた。

それまでのアメリカ青春映画は、公開当時に映画館へ見逃さずに出向くか、数年後に民放の編集された吹き替え版ロードショーで観るかのどちらかしかなかった。だが、80年代後半のレンタルビデオの爆発的普及で後追いが可能に。誰もが“個人的に感動しやすく”なった環境の中で、89年とか91年になって『ダーティ・ダンシング』に触れた人も少なくない。

そんな「“白いアメリカ”がクール」だった時期に青春期を送った今の40代後半〜50代前半の人々にとって、『ダーティ・ダンシング』を「あの頃の思い出カタログ」の中から何の迷いもなく除外できる人はいるのだろうか。

60年代を舞台にしているにも関わらず、強烈な“80年代臭”を醸し出すのは、MTVスタイルの音楽映画だったからだろう。本国アメリカでは低予算の映画は大ヒット。500万ドルの製作費に対し、2億ドル以上の興行収入を叩き出した。また、サントラ盤もビルボードのアルバムチャートで18週もナンバー1に君臨。世界で3000万枚上を売った。映画はその後ホームビデオでも売れまくり、舞台やドラマやイベントにも派生したほど。2004年にはリブート版の『ダンシング・ハバナ』も公開された。

ダーティ・ダンスとは、互いの身体に触れ合い、見つめ合う官能的なダンスのこと。振り付けはケニー・オルテガ。あのジーン・ケリーに鍛えられ、当時はマドンナのMVの振り付けでも有名だった人(最近では『ハイスクール・ミュージカル』の監督仕事がある)。出演したジェニファー・グレイ、パトリック・スウェイズ、シンシア・ローズらは、みんな実際に踊っている。

ケネディが暗殺される前の1963年夏、アメリカ。フランシス・ハウスマン(ジェニファー・グレイ)は17歳。今年も両親や姉と一緒に避暑地の山荘まで夏のバカンスにやって来たばかり。ベイビーというあだ名は、彼女が裕福な家庭の娘で、まだまだ世間知らずなお嬢ちゃんだからだ。

ある夜、森の奥の隠れ家で開かれているダンス・パーティにベイビーは好奇心で覗きに行く。そんな中でひときわ目立つカップル、ジョニー(パトリック・スウェイズ)とペニー(シンシア・ローズ)に心奪われる。その官能的なダンスは両親たちのいる退屈なパーティとはあまりにも違いすぎ、刺激的な体験だった。

ジョニーやペニーは避暑地の雇われダンサーで、実は恋人同士ではない。ベイビーが年上のジョニーに恋心を抱くのは自然なこと。そんな時、ペニーの妊娠が発覚。相手は山荘のスタッフで、ベイビーの姉にも近づいている遊び人だった。

やがてペニーの代役として、ジョニーのダンスパートナーを務めることになるベイビー。二人だけの特訓が始まる。そして様々な出来事を乗り越えながら、ベイビーは大人へと成長していく……。

『ダーティ・ダンシング』の素晴らしい点は、何と言ってもその始まり。ダンスの躍動感や恋の歓喜、古き良き時代への郷愁が見事に表現された、わずか2分にも満たないオープニングクレジット。ロネッツの「Be My Baby」をこんなにもドラマチックに使えるなんてこの映画だけだ。たった一曲がすべてのムードを作って、多くの人々の心を打つという好例だった(このあたりのことは過去のコラム『ダーティ・ダンシング/ミーン・ストリート〜史上最高のラブソング「Be My Baby」』をお読みください)。

なお、サントラは、87年当時の最新曲や50年代後半〜60年代前半のヒット曲で構成。ビル・メドレー&ジェニファー・ウォーンズの「(I’ve Had) The Time of My Life」、エリック・カルメンの「Hungry Eyes」などが大ヒット。ファイヴ・サテンズの大名曲「In the Still of the Night」や、オーティス・レディング、フォー・シーズンズ、ドリフターズ、コントゥアーズ、シュレルズ、そしてロネッツらの収録も嬉しい。

「Be My Baby」が流れるオープニング

予告編

『ダーティ・ダンシング』

『ダーティ・ダンシング』






*日本公開時チラシ

*参考/『ダーティ・ダンシング』パンフレット
*このコラムは2017年5月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
https://www.wildflowers.jp/profile/
http://www.tapthepop.net/author/nakano
■仕事の依頼・相談、取材・出演に関するお問い合わせ
https://www.wildflowers.jp/contact/

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the SCENE]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ