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中村八大の「明日があるさ」と、宮川泰の「若いってすばらしい」は兄と妹のような関係

2024.06.10

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明るい明日がやって来ることを疑わずにいることができた1963年の師走から翌年にかけて、おおらかな青春賛歌の「明日があるさ」がヒットした。

昭和の時代が1960年代に入って日本が戦後復興を遂げて、ふたたび世界の一流国入りを目指して開催するスポーツの祭典、東京オリンピック開催に向けて一丸となって進んでいった時代にふさわしい、前向きの歌だった。

歌ったのは21歳の坂本九、彼はそのころ”世界の九ちゃん”として脚光を浴びていた。「上を向いて歩こう」が「SUKIYAKI(スキヤキ)」というタイトルで6月15日に全米1位になり、そこから世界中で大ヒットしたからである。

そのことが新聞や雑誌でも7月になって一斉に報道された

「上を向いて歩こう」が、日本で発表されたのは、一昨年の七月、中村八大リサイタルのときである。曲ができ、九ちゃんが練習をはじめたときから数えると、まる二年後のアメリカでのヒット、となる。

アメリカばかりでなく、このところ毎日二、三種類の「スキヤキ」が世界のあちこちで発売され、六月二十一日現在、十六ヵ国二十九種の「スキヤキ」レコードがでている。アメリカの次の大ヒット地帯はアフリカだそうだ。

「スキヤキ」のタイトルがあまり流布して、日本でもレコード屋さんに「スキヤキありませんか」とたずねてくる人がある。そのお客をのがさないようにと、東芝では「上を向いて……」のレコードの中に、「スキヤキ」のラベルを入れさせることにした。
(1963年7月14日 毎日新聞夕刊)




なお坂本九は快挙を成し遂げた感想を訊ねられて、喜びを内に抑えてこう述べている。

もう「上を向いて歩こう」は僕だけの歌じゃない。世界中の人の歌なんだ。生意気なこと言うみたいだけど、「上を向いて歩こう」って世界中の人への素晴らしいメッセージだと思いませんか? 僕はそのメッセンジャーボーイになれただけでも光栄です。


そして師匠にあたる中村八大が世界で認められた坂本九のために、その年のうちに作曲と編曲を手がけてつくったのが「明日があるさ」だ。

作詞したのは放送作家の青島幸男だったが、彼もまたその頃は植木等が歌う一連のクレージー・ソングのヒットによって、作詞の仕事でも勢いがあった。

それからおよそ2年後、「明日があるさ」に触発された青春賛歌の「若いってすばらしい」が誕生(レコド発売は1966年)する。

作詞した安井かずみは25歳、横浜の裕福な家庭で育ったお嬢様だった。彼女はフェリス女学院の中学と高校を経て、文化学院油絵科に入学したが、学生時代からアメリカンポップスの翻訳を始めて、卒業後は作詞家に転じていく。

ちなみに“みナみ・カズみ”というペンネームで外国曲のカヴァーを始めたとき、最初にレコードになったのは坂本九の「GIブルース」だった。

そして作詞家になって3年しか経っていないのに、1965年の日本レコード大賞作詞賞を「おしゃべりな真珠」で受賞した。

「若いってすばらしい」を歌った槇みちるは、テレビのオーディション番組で入賞して歌手の道を選び、1965年にペギー・マーチが日本語で歌ってヒットした「可愛いマリア」のカヴァーでデビューしていた。

当時は19歳だったが見るからに若さが溢れそうで、芯のある歌声と確かな歌唱力は楽曲にふさわしかった。


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作曲した宮川泰はザ・ピーナッツの「ふりむかないで」や「恋のバカンス」、「ウナ・セラ・ディ東京」のほかにも、園まりの「何も云わないで」や「逢いたくて逢いたくて」など、60年代和製ポップスのヒット曲を世に出した第一人者だった。

その宮川が著書「若いってすばらしい 夢は両手にいっぱい 宮川泰の音楽物語」のなかで、自分自身が一番好きな曲だと語っている文章を紹介したい。

ずいぶん前に中村八大さんと青島幸男さんがつくって坂本九ちゃんが歌った『明日があるさ』を聴いて、僕はすごく感動して「俺もこんな曲をつくりたいな」って思ってつくったのが『若いってすばらしい』なんです。

これは曲そのものも気に入ってるんだけど、歌詞がとってもいいんですよ。聴いていても自分で口ずさんでも、なんだか明るく元気になって、ウキウキしてくる。

この『若いってすばらしい』というタイトルは、単に年齢が若いことがいいことだといってるわけじゃないんです。そうじゃなくて、老い若きも、誰も彼もが、年齢に関係なく若々しく生きていこうよ―――というメッセージが込められたものなんです。

明るくてやさしくて、覚えやすくて爽やかで―――僕が音楽を作っていく上でつねに頭に思い描いている要素が、この曲には全部詰まっているんです。


また宮川は中村八大についても、著書のなかで「永遠の師匠」と述べている。

僕はこれまで、特に誰かに弟子入りしたり師事したりとという経験はありませんが、八大さんは”心の師”だと思っているんです。

まだ僕が東京に出てきたばかりの頃に、八大さんとお目にかかる機会がありました。それで僕は自分の好きな曲の譜面をいくつか持っていて、「これはどんなふうに演奏したらいいと思いますか?」って質問したんです。

すると八大さんがその譜面を、どれどれ眺めると、「ちょっとこっちにいらっしゃい」といってピアノのところまで僕を連れて行き、30分くらいかけて丁寧にレクチャーしてくださいました。これは凄い勉強になりました。


決して難しいテクニックではないが、お洒落でかっこよくなったことで、「やっぱり八大さんてすごい人だなぁ」と感動して、それから宮川は中村八大を”心の師”と思うようになったという。

そんな想いを知ると、「明日があるさ」と「若いってすばらしい」の関係は、まるで兄と妹のように思えてくる。

「若いってすばらしい」は21世紀に入ってから再評価する動きがあらわれて、テレビの音楽番組でもたびたびカヴァーされるようになり、さらにはCM使われるなどしたことからスタンダード・ソングへの道を歩んでいる。

〈参考文献〉宮川泰の発言は著書「若いってすばらしい 夢は両手にいっぱい 宮川泰の音楽物語」(産経新聞出版)からの引用です。


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▼場所/横浜市開港記念会館講堂(ジャックの塔)

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