作家の筒井康隆が書いた小説「時をかける少女」は、最初に単行本が発行されてから2017年で50周年を迎えた。
その間、1972年に『タイムトラベラー』というタイトルでテレビドラマになったのを皮切りに、映画やアニメ、舞台とたびたびメディア化されている。
長崎出身の14歳の女子中学生だった原田知世は、映画『伊賀忍法帖』が製作されるにあたり、真田広之の相手役を探すために行われた「角川映画・東映大型女優一般募集オーディション」に応募し、そこで角川春樹プロデューサーの目に留まって特別賞を受賞した。
そして薬師丸ひろ子が主演した角川映画のヒット作をテレビドラマ化した『セーラー服と機関銃』と『ねらわれた学園』のヒロイン役を経て、1983年に映画デビューと初主演を果たすことになった。
このときに「原作のヒロインのイメージも、タイトル自体もぴったり」だと、筒井康隆の『時をかける少女』を原作に選んだのは、プロデューサーの角川春樹である。
角川春樹は、前年に映画『転校生』を撮って高い評価を得た監督の大林宣彦に、引退作品を作る気持ちで撮ってほしいと持ちかけたという。
10代のある時期にしか輝かない少女の魅力を、一本の映画のなかに永遠に封じ込めてほしい、そんな思いを大林監督に託したのだ。
文藝評論家の中森明夫がこう述べている。
託された大林宣彦監督は「原田知世は天才です」と感嘆した。これは大林の代表作になった。その後、リメーク、アニメ版、続編の「時かけ」では(筒井康隆の原作を離れて)主人公の少女が必ずショートカットであること、それは83年版の映画での短髪美少女があまりにも鮮烈だったからだろう。そう、原田知世は“時をかけるアイコン”になった。
そのヴォーカルにはまだ幼さが残り、どこか華奢なところを感じさせるが、松任谷由実の書いた詞とメロディによって、それが上手に活かされていて、少女にしか出せない魅力を引き出している。
こうして原田知世は時空も天空も越えて、映画の中で永遠の命を与えられると同時に、「時をかける少女」という歌に命を与える役割も果たしたのだった。
しかし、彼女自身は大人になるにつれて、「時をかける少女」を歌えなくなったという。
「松任谷正隆さんのオリジナルのアレンジが完璧で、15歳の時の自分の声もはっきりと耳に残っていて、大人の私はどう向き合っていいのかわからなくなってしまったんです。それで何年も歌えませんでした。25周年の時にプロデューサーの伊藤ゴローさんがスローなアレンジにしてくれて、また歌えるようになった」
(AERA 2017年7月10日号)
オリジナルは松任谷正隆のアレンジでポップな仕上がりだったが、こちらはストリングスを中心とした、深みのある落ち着いたサウンドだ。
はじめて歌ってから35年の歳月を経た2017年の夏には、新たにリアレンジされた「時をかける少女(2017 Version)」が発表された。
原田知世によって命を与えられた「時をかける少女」は、小説からも映画からも離れて、新しい世代に歌い継がれている。
(注)中森明夫氏の発言は、「ニッポンへの発言キーワード 原田知世の35年=中森明夫」(毎日新聞2017年7月18日 東京夕刊)からの引用です。
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