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「うたづくりにおける特別な瞬間」について語った松任谷由実(ユーミン)と井上陽水

2025.01.19

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松任谷由実(ユーミン)が会いたかったという、たくさんの著名人との対話をまとめた単行本「才輝礼賛38のyumiyoriな話」(松任谷由実著/中央公論新社)には、ほぼ同じ時代を生きてきたシンガー・ソングライターの井上陽水が、最後のひとりとして登場している。

冒頭にはユーミンがデビューした当時、マスコミで「女(井上)陽水」とか、「女(吉田)拓郎」という呼ばれ方をしていたことについて、一言このように述べていた。

お二人の音楽がどういうものかも知らないのに、そんなレッテル貼られることに、単純にムカついてた。


荒井由実のファースト・アルバム『ひこうき雲』がリリースされたのは1973年11月20日で、そのときはまだ多摩美術大学2年在学中の新人という立場だった。

アルバム発売前の音楽業界誌には、彼女の言葉として「これからの希望としては、作詞作曲を中心にして、スタンダードナンバーを書けるようになりたい」と、あくまでソングライター志向であることが明記されていた。

しかし、アルバムの完成度が素晴らしかったことから、荒井由実はそれまでになかった新しい感覚のシンガー・ソングライターとして、徐々に注目を集めていくことになる。

そのわずか10日後の12月1日、先行シングルの「心もよう」がヒットしていた井上陽水が、日本における史上初のミリオンセラー・アルバムという金字塔を打ち立てる『氷の世界』をリリースしている。

それから45年という月日の間にユーミンは、合わせて38枚ものアルバムを世に送り出すことになった。シンガー・ソングライターとして発表してきた作品は、実に600曲余りにも及ぶという。

また、松任谷由実としての作品以外に「呉田軽穂」という名でも、ソングライターとして松田聖子などに楽曲を提供してきた。

井上陽水もまた「アンドレ・カンドレ」時代から数えると50年にも及ぶキャリアのなかで、24枚のスタジオレコーディングアルバムを制作してきた。もちろんソングライターとしての楽曲の提供も行ってきたし、他のアーティストとのコラボレーションも多い。

そんな二人が対談の最後の方で、うたづくりにおける特別な瞬間ついて、言葉を噛みしめるように語り合っていたのが印象的だった。

井上 今日、珍しくユーミンの曲を作る時の話を聞きながら、そういう会話って、誰かとしたことないなって。
松任谷 音楽やってると、原稿用紙で書くとしたら何十枚にもなるところを、あるメロディーとサウンドで飛び越えちゃう時があるでしょう?
井上 ありますね。
松任谷 人の心にというか脳に、ダイレクトにそういう像を結ばせちゃう。もう、説明しなくても。
井上 そう。だから、画家や映画監督、彫刻家、もうさまざまなアーティストがいるんですけど、みんな音楽家にある憧れを持ってるケースが多いですね。
松任谷 多いですね。


ユーミンが語った「あるメロディーとサウンドで飛び越えちゃう」「ダイレクトにそういう像を結ばせちゃう」というのは、たとえばこういった部分を指すのであろう。

セカンド・アルバムの『MISSLIM』に収められた「やさしさに包まれたなら」は、もともと不二家のCMソングとしてつくられたものだという。そのときは歌詞の最後が「目にうつる全てのことは きみのもの」となっていて、メロディーもいささか異なっていたそうだ。

しかし、「きみのもの」のままだったのでは、この歌が原稿用紙で書くとしたら何十枚にもなるところを飛び越えて、ダイレククトに像を結んだりすることはなかっただろう。

そこが「メッセージ」に書き換えられたからこそ、純真さを感じさせるユーミンの歌声との相乗効果によって、独特の世界観が生み出されて名曲になったのではないか。


「やさしさに包まれたなら」は発表から10年以上が過ぎて、スタジオジブリの映画「魔女の宅急便」でエンディングに使われたことで、初めてマスメディアを通じてヒットした。

それもまた原稿用紙で書くとしたら何十枚にもなるところを一気に飛び越えるかのように、絶妙のマッチングでジブリ映画との相乗効果を発揮したからこそ起きた、奇跡的な出来事であったのだ。



(注)本コラムは 2018年10月12日に初公開されましたが、「荒井由実特集」に合わせて改題・加筆してあります。なお文中に引用した松任谷由実氏と井上陽水氏の言葉はすべて、松任谷由実:著「才輝礼賛38のyumiyoriな話」(中央公論新社)からの引用です。

松任谷由実オフィシャルサイト


才輝礼讃 – 38のyumiyoriな話


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