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「銀河一のアイドルのデビュー曲を作ってください」と菅野よう子からオファーされた松本隆

2024.07.15

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松本隆トリビュートアルバム『風待ちであひませう』を手にして、制作に携わった人たちの思いが伝わってくるブックレットのなかで、詩人の最果タヒさんが書いた素敵な文章に出会った。

松本隆の言葉は、歌われること、そしてそれを聴く人がいることを、知っていて、そうして生まれてきたものだった。だから、聴いていると、歌っていると、言葉がとてもしあわせそうに生きて、歌って、踊っている。


書かれてあるそれらの言葉、活字のリズムにハッとして嬉しくなった。確かに『風待ちであひませう』は最初から最後まで、どの曲も言葉がとてもしあわせそうに生きて、歌って、踊っているアルバムだった。

なかでも3曲目に入っていた「星間飛行」は、クラムボンの創りだしたサウンドと原田郁子のみずみずしいヴォーカルによって、オリジナルとは異なる風が感じられた。

アニメ『マクロスF(フロンティア)』の劇中で、瞬く間にシンデレラ・ストーリーを駆け上がるアイドル、ヒロインのランカ・リー(中島愛)が歌う挿入歌として発表されたのは2008年のことだ。一夜にしてアニメファンの間で大きな話題となってヒットしたばかりか、ゼロ年代のスタンダードとしても定着してきた。


2009年にリリースされたスウェーデンの音楽プロデューサー、ラスマス・フェイバーによる日本のアニメソングのカヴァー・アルバム『プラチナ・ジャズ』で取り上げられたのを皮切りに、中川翔子やかせきさいだぁなど数多くのアーティストにカヴァーされている。

この歌の誕生は『マクロスF』で音楽を担当する作曲家、菅野よう子からのオファーから始まったという。インターネットゲームの『大航海時代 Online』にハマったことがある松本隆は、そこで音楽を担当していた菅野よう子のことが印象に残っていた。

菅野さんって才能あるなぁと思って。あとは、『カウボーイビバップ』(1998年)ってアニメの音楽もやっていて、それはジャズなんだよね。そういう僕の好きなものをいくつか作っていて、この菅野さんって人とはいつか仕事することがあるかな、と思ってたんだ。



いつか仕事をすると思っていた菅野よう子からの依頼は、「銀河一のアイドルのデビュー曲を作ってください」というものだった。

スリーディグリーズって全米1位のお姉さんたちに詞を書いたこともあったけど、銀河1位は無かったなと思ってさ(笑)。ぜひトライしてみたいと思った。


自作の解説などめったに行わない松本隆だったが、「星間飛行」についてはインタビューに答える形で、自らの公式サイトでこのように語っていた。そこで明かされた歌い出しのわずか4行の歌詞に潜んでいるものや、言葉のイメージの広がりには驚かされる。

出だしは、水面の静かなイメージから始まるんだ。「す」は50音の中でも最も弱い音のひとつだし、「水面」「ゆらぐ」っていうのもすごく微細なイメージだよね。水面に水が一滴落ちて広く拡散していく。次に出て来る「風の輪」っていうのは、自然界には普通、存在しないよね。つまりその裏には“爆発”が潜んでいるんだ。

ここからだんだん強いイメージがフェードインしてくる。「風の輪“が”ひろ“が”る」で韻を踏んでいくと、綺麗に輪が広がっていくイメージになる。あと密かにさ、「水面」は『マクロス ゼロ』(2002年)で、「風」は『マクロスプラス』(1994年)へのオマージュなんだ。『マクロス ゼロ』は南の島と海が舞台の物語だし、『マクロスプラス』はオープニングで風車がでてくるでしょ?

それで、次の「触れ合った指先」っていうのは、システィーナ礼拝堂にあるミケランジェロの「天地創造」の天井画のイメージ。あの指と指は、神と人だよね。そして、「青い電流」っていうのは静電気なんだけど、自分と違う価値観と出会ったときに感じる痛みなんだ。


最果タヒさんが「風待ちで思う-解説-言葉を愛する最初がここに」で、はっぴいえんど時代の松本隆の歌詞について書いた文章で締めくくりたい。

言葉がすでに歌になっている。声になるため、曲にのるために、生まれてきた言葉がここにある。



(注)本コラムは2015年6月26日に公開されました。松本隆さんの発言は、『風街茶房 季節の松本 第11回「アニメソング(前編)」』からの引用です。

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