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風立ちぬ〜大瀧詠一と松本隆による“はっぴいえんどタッグ”が紡いだヒット曲の誕生秘話

2024.08.15

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「とてもいい曲だと思いますが…私には向いていないと思います。」

それは1981年8月の出来事だった。
東京の信濃町にあったレコーディングスタジオで、デビュー2年目の19歳の人気アイドル歌手が制作スタッフを困惑させた。
2ヶ月後…そこでレコーディングされた「風立ちぬ」は、彼女の7枚目のシングル曲としてリリースされた。
そもそもは、彼女を発掘し育ててきたCBSソニーのディレクター若松宗雄が、堀辰雄の小説『風立ちぬ』が大好きだったという“強い想い”から楽曲制作がスタートしたという。
当時、彼女が出演していたグリコポッキーの新作CMのために書かれたタイアップソングとして準備は進められていった。
作曲は大瀧詠一、そして作詞が松本隆という“はっぴいえんどタッグ”が、若松の想いを見事に形にした。

「まぁ、あなたなりに歌ってごらんなさい。この楽曲はあなたの歌だからね。」

大瀧は、まずは短いCMバージョンから録音することを提案した。
浮かない表情でスタジオに入っていく彼女をスタッフは心配そうに見守っていた。
ところが、いざ歌い始めてみれば…取り越し苦労だった。
大瀧は『EIICHI OHTAKI Song Book I 大瀧詠一 作品集Vol.1(1980-1998)』のライナーノーツで当時のことをこんな風に回想している。

「たぶん1回か2回しか歌わなかったと思いますが“歌えました!”と声を弾ませて嬉しそうにスタジオを出てきた彼女の笑顔が印象的でした。」

彼女自身も自著『夢で逢えたら』で、こんな告白をしている。

「レコーディングも佳境に入った頃には、完全にこの曲のとりこになっていました。」

彼女がこの楽曲を歌うことを強く望んだディレクターの若松も、こんな言葉で当時を振り返っている。

「彼女はこの重厚なサウンドに抵抗を感じていたようでした。きっと曲に歌手が食われてしまうって思ったのでしょうね。」

実は、若松はわざと彼女が抵抗を覚えるように仕向けたのだという。
ただのアイドルではすぐに飽きられる。
だから、一流ミュージシャンとの仕事でセンスを磨いて欲しかったのだと。

「歌手は皆、自分の好みでない曲は歌いたがらない。でも、それを歌いこなした時その歌手の新たな魅力が広がるのです。この歌をきっかに、歌手としての内面をより深めて欲しかったのです。」

7枚目シングル「風立ちぬ」で狙ったのは、文学少女的な“知的なイメージ”だった。
若松は前作の「白いパラソル」から本格的に作詞を依頼するようになった松本隆と、設定について打ち合せをしたという。
二人の念頭には、まず小説『風立ちぬ』があった。
この頃のアイドルが歌う歌謡曲といえば、海辺のリゾート風景を描いたものなどが多い中、あえて夏から秋に向かう高原を舞台にした歌で勝負することにした。
松本は、自身が中学の修学旅行の時に訪れた軽井沢・万平ホテルで見た“風の抜けるカフェテラス”をイメージしたという。


1980年4月のデビュー以来、彼女が歌ってきた楽曲は、アイドルらしいアップテンポのものがほとんどだった。
それが、松本が作詞を手掛けた「白いパラソル」からミディアム調になり、続く「風立ちぬ」では、大瀧が紡ぎ出した重厚で深みのある“ナイアガラサウンド”へと大胆に変化をとげたのだ。

当時、男性ファンはその変化に戸惑い…反応はいまひとつだったという。
だが、ちょっとかすれ気味の声で前向きな気持ちを歌い上げる彼女の姿は、それまで“ぶりっ子”と見て距離を置いていた女性の心をつかんだのだ。
松本はあるインタビューでこんなことを語っている。

「彼女のファン層を入れ替えるくらいの気持ちで女性リスナーにアピールしようと思って詞を書きました。」

こうして生まれた「風立ちぬ」は50万枚を超えるヒットとなり、松田聖子が“普通のアイドル”から脱皮する転機の歌となった。
彼女がいわゆる“聖子ちゃんカット”をやめて髪を短く切ったのは、この歌がヒットした後のことだった…


<引用元・参考文献『うたの旅人 Ⅱ』/朝日新聞be編集グループ(朝日新聞出版)>


こちらのコラムの「書き手」である佐々木モトアキの活動情報です♪

【佐々木モトアキ公演スケジュール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12660299410.html


【佐々木モトアキ プロフィール】
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