日本における”変な歌”の歴史において筆頭格、まるで意味不明な歌詞にもかかわらず1961年に大ヒットした「じんじろげ」は、インドが発祥地といわれる原曲をもとにした多国籍ポップスの傑作だ。
歌い出しの歌詞は「ちんちくりんのつんつるてん まっかっかのおさんどん おみやにがんかけた ないしょにしとこう」というものだが、当時からそれが日本語らしいとはわかっても、何を意味するのかまでは皆目わからなかった。
しかもその先からは、呪文のような感じの奇天烈なフレーズが続いていった。
当時の人にはどこの国の言葉に由来するのかさえ、まったくといっていいほどわからなかったという。
それにもかかわらず。この”変な歌”は何やらあやしげな歌詞と、とてもノリの良いサウンドがごきげんだったことから、大ヒットを記録したびだ。
森山加代子のハツラツとした若さと可愛らしさ、そして品のいいヴォーカルの魅力が受けたともいえる。
ロカビリー出身の森山加代子は18歳のアイドル・シンガーで、イタリアのミーナが歌った「月影のナポリ」を日本語で歌ったデビュー曲がヒットした。
そして同じプロダクションに所属する坂本九とともに、一般家庭に普及し始めたテレビに出て人気が上昇して、カヴァー・ポップスのスターになった。
それが1960年6月のことだった。
こちらもまた「ティンタレーラディルンナ」と聴こえる歌の出だしから、普通の人にはまるで意味不明のイタリア語だった。
そもそもミーナの原曲は、アメリカのブルースとロックンロールがイタリアでカンツォーネと融合して生まれた曲だ。
「錫」を意味する英語の「Tin」を取り入れて、日本語の訳詞で「ティン ティン ティン」と繰り返したのは、作詞家の岩谷時子によるアイデアだったらしい。
イタリア製の西部劇映画はマカロニ・ウェスタンと呼ばれたが、それよりも前にマカロニ・ロックンロールが、日本語でカヴァーされていた。
「月影のナポリ」は森山加代子のハリのある歌声で、日本のヒット曲になったのである。
セカンド・シングル「メロンの気持ち」もやはりカヴァーで、原曲はキューバの「Corazon De Melon(メロンの心)」。
これもまた“♪ コラソン デ メロン デ メロンメロンメロンメロンメロン~”という 歌詞が、妙に印象に残るラテン・ナンバーだった。
こうして、いわば言葉遊びのような歌詞のカヴァー曲が続けてヒットしていたことから、森山加代子をスカウトしたマナセプロダクションの曲直瀬社長は、学生時代に耳にしたことがあった「ヂンヂロゲ」という奇妙な歌のことを思い出したという。
曲直瀬はそれを森山加代子の新曲に仕上げてほしいと、懇意にしていた作曲家の中村八大に相談したのである。
中村八大はうろ覚えだった歌とメロディーを曲直瀬から口伝えで教えてもらって、さっそくラテンのリズムをベースにした多国籍ポップスを誕生させていく。
こうして新鮮な若さと健全さが注目されていた森山加代子という歌手から、滑舌のいいヴォーカルの魅力を最大限に引き出した中村八大によって、日本語なのに意味がわからない摩訶不思議な大ヒット曲が誕生したのだ。
「じんじろげ」から半年後、中村八大はマナセプロダクションのホープだった坂本九のために、「上を向いて歩こう」を書き下ろして自分のリサイタルで発表している。
作曲家や編曲家としての才能はもちろんだが、いかにプロデューサーとしても優れていたのかがわかるエピソードである。
(注)本コラムは2014年8月に公開された内容をもとに、大幅に加筆修正をしてタイトルも変更いたしました。
なお、「じんじろげ」の原曲と推定されるのは、インドで子供向けの歌として知られる「Chanda Mama Door Ke」です。詳しくは「チャンダ・ママ インド童謡 Chanda Mama Door Ke 日本の歌謡曲『じんじろげ』の原曲?」を参照してください。

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