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憧れの人、小林旭に大瀧詠一が渾身の力を振り絞って作った「熱き心に」

2014.10.03

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大瀧詠一は長い間、自分がミュージシャンになるきっかけは、エルヴィス・プレスリーに憧れてロック・ミュージックに興味を持ったことだと思い込んでいた。

だが実際にはアメリカの”エルヴィス”でなく、日本の”アキラ”が先だったのだ。
それに初めて気づいたのは1970年代の後半、日本の音楽史を研究し始めてからだという。

1985年(昭和60年)10月12日に開かれた、小林旭の芸能生活30周年記念リサイタル「-雑草・人生・男道-」の記念パンフレットで、大瀧詠一がこんな文章を書いている。

数年前エルビスと同じ位、この人にも憧れていたことに気づきました。
というのは、小学生当時、皮ジャン姿に白いマフラーをなびかせて歩いていた人を見かけて、強く印象に残っていたことを思い出したからです。
それがエルビスに結びついたのだと堅く信じていましたが、当時その格好をしていた人が憧れていたのは、エルビスではなく、アキラだったのです。
そして再びレコードを聞き直して改めて知ったことは、映画館に響き渡っていたあの「ズンドコ節」「ダンチョネ節」のカン高い声が、私の心に奥深くしみ込んでいたことでした。


口笛が流れる港町

1985年の秋に味の素ゼネラルフーヅ「マキシム」のCMソングとして「熱き心に」を企画したのは、大瀧詠一の才能を発見して「サイダー’73」を作って以来、CMの分野での関係がずっと続いていたON・アソシエイツのプロデューサー、大森昭男である。

大滝詠一は1981年のアルバム「ロング・バケーション」を大ヒットさせた後、1984年にアルバム「EACH TIME」を発表してナイアガラサウンドを完成させると、自然に創作活動を休止していた。

1年半以上も作曲活動を休止していることを知っていた大森昭男だったが、それにかまわず大瀧詠一のもとを訪ねると、自信に満ちた顔でこう言った。

「大瀧さん、今度は逃げられませんよ」

ただならぬ気配を察知した大瀧詠一は先手を打って、こう切り返した。

「この中に入っているようなものだったら断りますよ」

それからまずビールとか化粧品とかを三つ挙げて、次に五つ、その後に10個まで聞いた時点で、大瀧詠一は諦めて「参りました」と言った。
大森昭男の口から「小林旭さんです」という言葉が出て来ても、返事がないまま深い沈黙が続いたという。

その言葉を天命と受け取った瞬間、大瀧詠一は創作モードに入ってしまい、小林旭の代表作である「さすらい」と「惜別の歌」を思い浮かべて、どちらで行こうかと考えて沈黙していたのだ。

大瀧詠一は最後まで悩んだ結果、ふたつのタイプを作ってから選ぶことにした。
ところが両方ともうまく出来たので、一つに絞れなくなって「エイ・ヤッ!」とばかりに、一曲にまとめることを思いつく。

そのために壮大な曲が出来上がり、作詞家の阿久悠の手に渡って「熱き心に」の詞曲は完成した。
しかし歌のデモテープを受け取った小林旭は、今ひとつ曲の感じがつかめなくて気が進まないまま、スタジオに足を運んだという。

なんとなく気乗りがしなかった曲だが、スタジオでストリングスのイントロを聴いて、それまでの疑問が払拭された。
そうか!これは『西部開拓史』なんだと。
ハリウッド映画の音楽で、雄大な景色のなか、疾走する駅馬車、馬にまたがる主人公の姿などが、一瞬にして思い浮かんだ。
その時に、大滝さんの狙いがわかった。


念願かなって憧れの小林旭と仕事をした大瀧詠一もまた、スタジオで力強い歌声を聴きながら、「これは行けるぞ!」と高揚感を感じていた。

その年の11月にリリースされた「熱き心に」は、年末から翌年にかけて大ヒットした後、小林旭のコンサートではオープニングとエンディングを飾る最大の代表曲となっていく。




<注>本文中の”小林旭の代表作である「さすらい」と「惜別の歌」を思い浮かべて”の箇所を、初公開時には”小林旭の代表作である「さすらい」と「北帰行」を思い浮かべて”と書きました。しかし、元の資料としていた田家秀樹著「みんなCM音楽を歌っていた 大森昭男ともう一つのJ-POP」(2007年 徳間書店)のなかにあった大瀧詠一さんの発言と、大瀧さんが自著「All About Niagara」(2001年 白夜書房)で解説していた文章では曲名が異なっていることに気づきました。そのために大瀧さんの解説を尊重して、今回は「北帰行」から「惜別の歌」に修正いたしました。(10月4日午後12時 佐藤剛)



田家秀樹『みんなCM音楽を歌っていた―大森昭男ともうひとつのJ‐POP』(単行本)
スタジオジブリ (2007/08)

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