1958年に「ダイナマイトが百五十屯」が発表されたとき、それが日本語のロック第1号楽曲として21世紀にまで受け継がれることなど、当事者の誰もが想像だにしなかっただろう。
この楽曲と歌が持つ破壊力について、小林旭の研究家でもあった故・大瀧詠一は料理にたとえて、こんな解説をしている。
アキラの曲をよく聴くと「監獄ロック」と「16トン」などをブツ切りにして熱湯のナベにぶち込んで、16トンというケチな量ではなく、100屯の大根や山芋を一緒に煮込んで50屯の味噌で味付けをしたような、とにかく豪快さと爽快さを感じる。
この楽曲が作られたきっかけは、若手の映画スター候補生のなかで頭角を現してきた小林旭が歌った鼻歌を、日本コロムビアの文芸部長だった目黒健太郎が日活撮影所で耳にしたことだった。
美空ひばりの映画主題歌のほとんどすべてを制作したディレクターだった目黒が、”声が面白い”と思ったそのひらめきから歴史が作られていったのである。
小林旭が著書『熱き心に』(双葉社)のなかで、その出会いについて語っている。
「キミは面白い声を出す人だねえ。どう、昼休みに一緒に食事をしながら、少しキミの話を聞かせてくれないか?」
突然の申し出だったんだ。
でも、当時の俺はまだそれほどの給料を貰っていなかったから、昼メシの提案が有難かったわけよ。
「じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になりますよ」
それで昼メシを食いながら話しているうちに、妙な展開になってきてね。
「キミ、レコードを吹き込みませんか?」
美空ひばりを筆頭に、日本を代表する人気歌手のおよそ半数を有していた最大手のレコード会社で、目黒は現場のディレクターを束ねている制作者のトップだった。
小林旭が日本コロムビアを訪ねると、栃木訛りの若い作曲家・船村徹がレッスンのために待っていた。
船村は、東洋音楽学校のピアノ科を卒業後に、作曲の道を目指してキング・レコードに出入りするようになり、春日八郎が歌った「別れの一本杉」が1955年に大ヒットした。
しかし、トラブルが起こったことから、コロムビアに移籍したのは翌1956年のことである。だが、そうそうたる先輩作曲家が揃っているなかでは、まだまだ駆け出しの若手だった。
それから1年数ヶ月の試行錯誤の期間を経て、1958年9月に小林旭のデビュー曲「女を忘れろ」が発売になる。
そして、印象的なハイトーン・ヴォイスが好評だったので、第2弾として作られたのが「ダイナマイトが百五十屯」であった。
当時の音楽シーンはロカビリー・ブームの真只中にあり、ロカビリー三人男の平尾昌晃、ミッキー・カーチス、山下敬二郎の人気が爆発していた。
だが、彼らが歌っていたのはエルヴィス・プレスリーの「ハートブレイク・ホテル」、ポール・アンカの「ダイアナ」、ジーン・ヴィンセントの「ビー・バップ・ルーラ」など、いずれもアメリカのヒット曲のカヴァーだった。
しかし、「ダイナマイトが百五十屯」は作曲が船村徹、作詞が関沢新一のオリジナルだ。大瀧詠一はそこを高く評価していた。
日本初の(成功した)ロックンロールのオリジナルである「ダイナマイトが百五十屯」は、詞・曲・歌唱が奇跡的に融合され爆発している”土着ロック”の最高傑作である。
しかし、当時は作者も歌手も制作側も、それほどのものとまでは気がついてはいなかった。それが同時期に世の中で吹き荒れていたロカビリー・ブームと底辺ではつながっていることに誰も気がつかなかった。
発表から20年以上が過ぎてほとんど忘れられていた「ダイナマイトが百五十屯」を、1981年にあらためてビートの効いたロックンロールにアレンジし、新たな生命を吹き込んだのは甲斐バンドだった。
「ダイナマイトが150屯」甲斐バンド
彼らの『破れたハートを売り物に』は8作目のオリジナル・アルバムだが、「ダイナマイトが150屯」はその3曲目に収められていた。そこでは歌詞の一部が著作者の承諾を得て、甲斐よしひろによって改変されていた。
その破壊力にはファンもすぐに気づいて、たちまちライブにおける人気ナンバーになった。
それから10年後、今度はTHE BLUE HEARTSの真島昌利がソロ・アルバム『HAPPY SONGS』でカヴァーした。歌詞は甲斐バンドのものを踏襲している。
こうして小林旭の原曲を知らない世代にまで「ダイナマイトが百五十屯」は伝わっていった。そして、オリジナル・シンガーの小林旭は現役で、今なお「ダイナマイトが百五十屯」を歌っている。
「ダイナマイトが150屯」真島昌利
(注)大瀧詠一の発言は、自らも編集に加わった「小林旭読本 歌う大スターの伝説」(キネマ旬報社)のなかに寄稿した「アキラ節の世界 大瀧詠一」からの引用です。
<日本で最初にヒットしたロックンロール・ナンバー「ダイナマイトが百五十屯」の破壊力①は、こちらからご覧ください>
大瀧詠一による監修・選曲『アキラ 3』
『破れたハートを売り物に』
『Happy Songs』
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*本コラムは2015年9月4日に公開されました。