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【インタビュー】ハンバート ハンバート──12篇の物語が描いていく、家族をめぐる様々な〈愛〉

2017.09.22

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佐藤良成(ボーカル、ギター、フィドル 他)と佐野遊穂(ボーカル、ハーモニカ 他)からなるデュオ、ハンバート ハンバート。昨年デビュー15周年を迎えた彼らは、フォーク、アイリッシュ、カントリーから日本の童謡までをルーツにしながら、独特の詞世界による〈うた〉を紡いできた。今年7月にリリースされた3年ぶり9作目となるオリジナル・アルバム『家族行進曲』は、細野晴臣、長岡亮介(ペトロールズ)、ウィ・バンジョー・スリーなど豪華ゲストが参加したアコースティカルなサウンドに乗せ、家族をめぐる様々な〈愛〉を描いていく作品だ。現在リリース記念ツアー「ハンバート ハンバート行進曲2017」で全国を回っている二人に、この傑作アルバムについてじっくり語ってもらった。

ハンバート ハンバート『家族行進曲』

ハンバート ハンバート
『家族行進曲』

(SPACE SHOWER MUSIC)



──昨年リリースされたデビュー15周年記念盤『FOLK』は完全に二人だけで録音した作品でしたが、今回のニュー・アルバム『家族行進曲』はガラッと変わって多彩なゲスト陣が参加した、にぎやかな一枚になりました。まずはなんといってもリード曲「がんばれ兄ちゃん」に参加した細野晴臣さん。お二人ともに大きな影響を受けたミュージシャンだと思いますが。


佐野遊穂 一番最初に細野さんと会ったのは、2005年に開催されたハイドパークミュージックフェスティバルの時で。当時は私たちも若者で「サインください」みたいなミーハー感丸出しでしたね。それからしばらく開いて、5年ぐらい前に細野さんがやられてるデイジーワールドの集いに呼んでいただいて。こんな機会だからってことで、「ちょっとベース弾いてもらえませんか?」と試しに聞いてみたら、いいよっておっしゃってくれて。

佐藤良成 そこで初めて一緒に演奏できたんだよね。昨年『FOLK』を出した時にも対談させてもらう機会があって、その時にも「今度レコーディングで弾いてもらってもいいですか?」ってお願いして。

──そうしてレコーディングに参加してもらうことが実現した、と。

佐藤 細野さんには最後の最後にベースを入れてもらって。まるで『ゴルゴ13』の目に瞳を入れる、さいとう・たかを先生のように(笑)。最後に細野さんのベースが入ることでこうも変化するのか!って、初めて聴いた時はびっくりしましたね。


──今回のアルバムは、全曲で叩いている久下惠生さんのドラムが、サウンドの大きな鍵となっているように感じました。お二人が感じる久下さんのプレイの魅力は?

佐野 感覚的なところかな。ドラムだけど、支えるっていうよりは感覚的に反応していく感じがいいですね。

佐藤 久下さんは歌詞しか見ないんですよ。譜面が読めないので、ライブの時も歌詞を大きくプリントアウトしたものを横に置いて、そこに自分の中でのポイントをメモ書きしていく。レコーディングも曲と歌詞だけ送って、歌詞を読んで自分なりに考えて叩くんです。「ここ4小節やってからフィル入れてください」とか言ってもまったくわからないから。レコーディングも、普通はドラムやベースのリズム隊を先に録音してから、他の楽器や歌を入れるんです。だけどこのアルバムは、久下さんが自由に乗っかってるって感じにしたほうがいいんじゃないかと思って。ベーシックになるものを録り終えてから、久下さんのドラムを後からダビングして。

──そういう作り方だからかもしれないですが、ビートではなく歌が中心にあるフォーク・ミュージックとしての成り立ちを、このアルバムからも感じられるんでしょうね。

佐藤 みんなが共通して聴いてるものがあるんだけど、みんなそれぞれに揺れてる。そういうのがおそらく昔からあるタイプの音楽の基本なんでしょうね。みんなのタイム感がいい感じに表れやすいというか。

──「おうちに帰りたい」など数曲に参加しているギタリストの長岡亮介さんは、ペトロールズの印象が強いせいかブラック・ミュージック寄りなイメージがあるけど、本来のギター・スタイルはカントリーっぽいんですよね。

佐藤 もともと彼に出会ったのは、エイモス・ギャレットとジェフ・マルダーの来日公演を見に行った時に、共通の友達に紹介してもらって。その時に亮介くんが(東京事変の)浮雲だったことも全然知らなくて、俺の中ではカントリー好きなギタリストっていうイメージがあって。その後、彼が土岐麻子さんのサポートを務めていた時に古いカントリーのカバーをやってて、そのギターがすごくよくてね。古めかしい音で、ジャズでもなければロックでもない、40~50年代ぐらいのエレキギターを弾いてたんで。それで今回のレコーディングに誘いました。

佐野 ウキウキ感があるけど、渋い。その両立してる感じがいいんですよね。

──「長い影」などで共演している ウィ・バンジョー・スリーとは、2015年12月にツアーを共に回った仲ですね。

佐野 そのツアーの時に録ったものが、今回収録されているんです。彼らとは年頃もだいたい同世代ぐらいだし、トラディショナルな楽器を使ってるけど、ビートを出して踊れる感じにしてるところがすごくいいなって思って。

佐藤 やってることは全然違うけど、アイリッシュトラッドが真ん中にありながら、もうちょっとイケイケなダンスの要素を入れたり、アメリカーナの要素が多かったり。そういうのをミックスして面白いことを何かやろうとしてる感じが、俺らと何か通ずるものがあるなと思ってたんで。それで一緒にできたら、同じような感覚でできるんじゃないかと。


──さて、ここからは楽曲をいくつかピックアップして伺っていきたいと思うんですが。『家族行進曲』というタイトルがついてますが、もともとこのアルバムは家族をテーマに作ろうと思って制作してわけではなかったとか?

佐野 今回に限らず、アルバムを作る時にあらかじめテーマを設けたりすることはなくて。全部出来上がってからタイトルを付けようと振り返った時に、スタッフから今回のアルバムは家族についての曲が多いから、キーワードに〈家族〉があるよねと指摘されて。そうだ! 家族のアルバムだと。

──意図せずとも〈家族〉の曲が増えてしまったのは、どうしてなんでしょうね。

佐野 我が家には3人の子どもがいるんですけど、毎日子どもを中心とした日々を過ごしていて。自分が人生の中で〈家族ステージ〉の真っ只中にいるっていうのが、作品ににじみ出てきたような感じがしますね。

佐藤 生活をそのまま歌にしているわけではないけれど、自分が親になったことで〈親子〉の立場がちょっと客観的に見られるようになったというか。子どものすることに怒ったりしていても、怒られている子どもに自分自身が子どもだった頃を重ねる部分もあるし、怒っている自分が自分の親の姿と重なったり。いろんな世代の目線が全部つながった。子ども世代の目線、今の自分たちの目線、そしてかつての親の目線と、今の親の目線……全部つながってくるんです。そうすると、いろんなせつなさやいろんなやりきれなさが見えてくる。そのきっかけになったのが、子どもだったんじゃないかな。

──1曲目「雨の街」は、橋の向こうに住んでいる、おそらく離婚して離れ離れになってしまったお母さんに、土砂降りの雨のなか会いに行く子どもの物語ですね。

佐藤 この曲は何度も歌詞を書き直したんです。今の歌詞に落ち着く前は、テーマもフレーズも全然違う内容だったし、曲に登場する主人公も子どもではなかった。だけど、「なんとしてでも行くんだ!」「どうしてもやるんだ!」というイメージだけは初めからあって。結局、子どもの視点だったり親の視点だったり、いろんな視点が出てくるのは、やっぱり今の生活からの影響は避け難いのかもしれないですね。

──「がんばれ兄ちゃん」は、ちょっと情けないところが目立つお兄ちゃんに対して、それでもかっこいいんだと自慢する弟くんの視点で描かれています。

佐野 うちの長男と次男がまさにこんな感じで。長男はおっとりしてて、次男はわんぱくなんですけど、最初に歌詞を見て二人だなって思いました。

佐藤 うちの子たちがモデルのひとつになってるけど、それ以前に自分自身も兄なので、妹から見た自分っていうのもちょっとあるかもしれないですね。自分のまわりにある、いろんな兄弟関係が入ってます。大人になったら関係性は変わっちゃうかもしれないけど、こういう目線っていうのは何かしらあると思って。決して褒められたところは何もないんだけど、なんだか知らないけどお兄ちゃんのことをいいなって思えちゃう。もっと言うと、人と人の関係って必ずしも強さやカッコよさとか、力の強さとかアタマの良さだけが魅力じゃない。ヘボかったり弱かったり、それでも光るところがあったりするのがあると思う。そんな関係の歌でもありますね。

──この曲は兄弟間の関係性の話ですが、家族そのものの関係性にも通じてて。情けない部分も嫌なところも、カッコ悪いなと感じるところもすべて引っくるめて受け入れて愛さなければいけない。

佐藤 『家族行進曲』というタイトルは、まさにそういう意味合いでつけたもの。〈家族〉ってキーワード自体にはハートウォーミングなイメージがあると思うけど、実際のところは、本当に嫌だけどしょうがないなっていうところのほうが多い。その部分をタイトルに持ってこれたらなって思って。嫌なところがあったとしても、家族を辞められないですからね。

──お父さんとお母さんは仲良くて、子どもたちは元気にすくすくと育って……という表面的なイメージでは計り知れない深さが、家族という共同体にはどれだけあるか。それを曲ごとに示してるのが素晴らしいなと思うんです。たとえば「ただいま」という曲は、自分の勝手な解釈ですけど、田舎に帰省してお墓だか仏壇だかに線香あげて手を合わせてる時に、なぜか取り繕って嘘までついてる感覚。親に対するこの感覚って、なんか妙にわかるんです。

佐野 みんな絶対いろんな想いがあるのに、人にはなかなか出さない、みたいなね。

佐藤 今回のアルバムって、この「ただいま」もそうなんだけど、ほとんどの曲が誰かに面と向かってこうだったって言えてない状態なんですよね。面と向かって言えるなら、歌になってないから。この曲も結局はお墓に向かって言ってるんだから、口にも出さない独り言なわけで。あ、今ふと思い出したんだけど……今、家の隣に仕事場を借りてるんですよ。そこはもともとおばあちゃんが一人で住んでた家なんだけど、要介護になって入院したので空き家になってしまって。だけど空き家のままだと物騒だし、傷んでくるからぜひ使ってくださいってことで、仕事場として使わせてもらってるんです。そこから得たインスパイアもありますね。

──空き家から得たインスパイア、ですか!?

佐藤 住む人がいなくなって誰も訪ねて来なくなった家だけど、家具も何も全部置きっぱなしになってて。長男・長女が家を出ていくまで住んでた部屋なんかは、人形からマンガから全部置きっぱなしにしてある。それから時間が経って、おばあちゃんが一人きりになって、足腰の自由が効かなくなってきたから家中に手すりがついて……と、そういう家族の時間の流れが、そのまま置き去りにされてるんですよね。その家を仕事場にして曲を作ったり録音したり……ずっとそこにいるから、自ずとその50年間ぐらいの人の暮らしの気配を感じずにいられないんです。

佐野 たとえばその家だったらおばあちゃんはそこにいないけど、おばあちゃんや他の家族の気配は無くなってない。そこに置いてある家具やモノが、みんなのことを記憶してるような……そういう気配があるって思いたい気持ちというかね。曲を作る時に、なにか欠片みたいなものが出てくるんだろうね。念写みたいに(笑)。

──誰かが出ていったり、いなくなってしまったところに残された気配。そして失われたものへの喪失感や、失くした時間や感覚に対する想い──そうしたものが、アルバムに通底するもう一つのテーマのように感じます。

佐藤 言葉じゃないコミュニケーションみたいなものですよね。気配を感じて会話ができるわけじゃないけど、何か通じあうものがあるんじゃないか。うまく言えなくても通じ合えるやり方は何かしらあるんじゃないかなって思って、俺は曲を作ってるのかもしれないです。

──そのあたりは、前作と通じる部分でもあって。言葉が達者じゃない人でも、あるいは大きく声を張り上げない人でも、言いたいことはたくさんあるんだという。その静かなる叫びみたいなものを、ハンバート ハンバートは歌にしている。

佐藤 そう、ずっとそのテーマですべての曲を作ってるんだと思うんです。

──そういう点で衝撃的だったのは「ひかり」という曲です。自殺未遂をして言葉と体の自由を失った男が、見舞いに来た人たちに心の中で語りかける……言葉や動きを失って気づく新たな視点といいますか。

佐藤 これもコミュニケーションの歌ですよね。シチュエーションとしては極限のもので、一般的には断絶に近い状態。でもそのまま断絶として考えると絶望しか残らないけど、もしかしたら、こういう状態でも心は通じあえるやり方はあるはずだし、希望や可能性はあるはずだ。そういう気持ちで作った歌ですね。まあ自分もこういう状況になったことはない以上、そんなことができると断言できないし「死後の世界はあります」みたいなことと同じなんだけど。

佐野 この「ひかり」のような曲で、断絶してる状態でも何か通じてるものがあるっていうのを表現していきたい。自分たちが曲を作るメインテーマとして〈絆〉みたいなものがあると、良成から初めて言葉として聞いたんです。そういう目に見えないところで通じあったりする感覚みたいなことが起こるのかっていうと、そこに何かしらの断絶があるからなんですよね。大きい断絶から小さい断絶まで、いろんな断絶がどんどん増えていく。家族は断絶が満載なんですよ。「やっぱり親には言えないよ」みたいな、いろんな種類の断絶がある。だから家族になったんだ、というかね。

──「ひかり」が表している、もうひとつの重要な点は、コミュニケーションって理解するだけじゃなくて、想像することが大事なんだということですよね。

佐藤 そうですね。音楽も本当はそういうものじゃないですか。歌詞も印刷するから文字情報になるけど、本当は音楽って目に見えない、空気の振動だけで伝えていくもの。演奏している人同士もお互いの音を聴いて演奏する。これも非言語コミュニケーションですしね。それをライブやCDでお客さんも感じ取る。とくに言葉を交わし合ってなくても、お互いの想像力と何かで受け取るものがあるし、お客さんから発するものを演奏する人が感じ取る。まさに言葉や目で見える情報じゃなくて、気配だったり音で伝え合うコミュニケーションだと思うんですよね。音楽にとっても自分にとっても、そこが大事な気がするんです。




【Live Report】
ハンバート ハンバート行進曲2017
2017年9月9日(土)東京・日比谷野外大音楽堂


ニューアルバム『家族行進曲』のリリースを記念したツアー〈ハンバート ハンバート行進曲2017〉東京公演が、2017年9月9日(土)日比谷野音にて開催された。
*以下ライブのネタバレを含みます。内容を知りたくない方はご注意ください。



カラッと晴れ渡った9月の週末の日比谷野音、当日はチケットもソールドアウトの大入りとなった。子どもたちも元気に走り回る和やかな光景の中、いよいよ開演時間に。ステージ上にはバンドの楽器と機材が置かれただけの、シンプルなセット。夕方になり少し日が傾いてきた頃に、ハンバート ハンバートの佐藤良成、佐野遊穂の2人に加えて、ドラムには坂田学、キーボードのエマーソン北村、そしてベース須長和広、ギター古橋一晃、ベダルスティールとバンジョーの尾崎博志が登場。先のアルバム『家族行進曲』のレコーディング・メンバー以外のミュージシャンも参加したスペシャルな布陣で演奏が繰り広げられた。



1曲目の「雨の街」から、歌が描く物語の世界へと聴き手を一気に誘っていくハンバート ハンバート。アコースティカルな響きを活かしたアンサンブルで「おうちに帰りたい」など、ニュー・アルバム収録曲を披露。合間には浅草のベテラン夫婦漫才師のような、独特の間合いの掛け合いが絶妙すぎるMCを挟みつつ、2人きりの弾き語りパート「生活の柄」(高田渡カバー)、「横顔しか知らない」など計9曲を歌い前半パートを終えた。



夜の帳が降りた日比谷野音にサイケデリックな空間を作り上げた「真夜中」ではじまった後半は、ズシリとした聴き応えの「ひかり」、ペダルスティールをフィーチャーしてアーシーな風合いを強めた「虎」、4つ打ちのビートが強調された「がんばれ兄ちゃん」など、今回のために集まったバンドによって新たな表情が引き出されたナンバーが続く。そして「SUN SUN SUN ’95」(ウルフルズ カバー)からはパーティ・モードへ突入。「ホンマツテントウ虫」にロシア民謡「一週間」を織り交ぜたかと思えば、「おいらの船」ではまさかのジャクソン5「I Want You Back」を生音でマッシュアップ。ミラーボールがキラキラと回るドリーミーな空間を生み出すと、最後は「今夜君が帰ったら」で銀テープが舞い、夏の終わりを賑やかに締めくくった。



アンコールに応えて再び登場したハンバート ハンバート。まずはバンドのグルーヴィな演奏で「あたたかな手」「メッセージ」を披露。ラストはデュエットで「おなじ話」をじっくりと歌い上げると、素晴らしい余韻を味わうように、客席の拍手はいつまでも鳴り止まなかった。



現在開催中の全国ツアー〈ハンバート ハンバート行進曲2017〉。10月1日(日)には大阪城野音にて、同じバンドメンバーによる単独公演が行われる。(宮内 健)

Live Schedule
ハンバート ハンバート行進曲2017

10月1日(日)大阪・大阪城音楽堂
10月12日(木)宮城・仙台 Rensa
10月20日(金)静岡・浜松 窓枠
10月29日(日)広島・クラブクアトロ
10月31日(火)福岡・イムズホール
11月4日(土) 島根・松江イングリッシュガーデン
11月26日(日)北海道・Zepp Sapporo
*すでに終了分は割愛

チーフタンズ来日公演2017
11月23日(木・祝)埼玉・所沢市民文化センターミューズ アークホール
ゲスト:ハンバート ハンバート
12月8日(金)東京・オリンパスホール八王子
ゲスト:ハンバートハンバート、ドリーマーズ・サーカス

official website
http://www.humberthumbert.net/

*本コラムは2017年9月8日に初回アップした記事に、9月22日にライブレポートを追記しました。

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