「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the LIVE

1枚のライヴ・アルバムで世界に発見されたリトル・フィート

2016.05.31

Pocket
LINEで送る

リトル・フィートの代表作にして、ライヴ・アルバムの金字塔、『ウェイティング・フォー・コロンブス』。
そのジャケットにはハンモックでくつろいでいるトマトの顔をした女性が描かれている。

51LDqlr8yZL

このイラストを書いたのはイラストレーターのネオン・パークだ。
シュールでユーモアのある独特の画風が特徴で、フランク・ザッパやデヴィッド・ボウイ、ビーチ・ボーイズなど多くのミュージシャンのジャケットを手がけている。

ネオン・パークはこのイラストを描き上げたとき、「ウェイティング・フォー・コロンブス」とタイトルを付けた。

南アメリカ原産のトマトがヨーロッパに広まったのは16世紀頃と言われている。
1942年にコロンブスが新大陸を“発見”して以来、南アメリカに大勢のスペイン人が押し寄せた。そして彼らがトマトをヨーロッパに持ち帰ったことで、やがてトマトはヨーロッパの食卓に欠かせない食べ物になっていったのだ。

それゆえにトマトの女性はコロンブスがやってくるのを待っているわけである。
絵のタイトルを知ったリトル・フィートのメンバーは、そのままアルバムのタイトルに使うことを決めた。
それはトマトとコロンブスの関係が、当時リトル・フィートが置かれていた状況と重なっていたからだろう。
このアルバムが出た頃、リトル・フィートは発見されるのを待つトマトであり、陽の目を見ない数多のバンドの1つだった。

リトル・フィートは1969年、フランク・ザッパのマザーズ・インヴェイジョンに所属していたギターのローウェル・ジョージとベースのロイ・エストラーダに、キーボードのビル・ペイン、ドラムのリッチー・ヘイワードを加えてロサンゼルスで結成された。

バンドは幸先良くワーナー・ブラザーズと契約を交わすと、1stアルバム『リトル・フィート』(1969年)をリリースする。

彼らの持ち味はローウェルのスライドギターをはじめとしたメンバーそれぞれのハイレベルな演奏技術、粘っこい独特のグルーヴ、LAを感じさせる洗練されたカントリーロック、そしていいと思ったものは何でも取り入れるという雑食的な音楽性にある。

ところが、批評家やメディアから高い評価を受けたにも関わらず、アルバムはヒットには至らなかった。
続く2ndアルバムも不発に終わった彼らはバンドメンバーを一新、6人編成になって今も高い評価を集める名盤『ディキシー・チキン』(1973年)を世に放つ。



渾身の3rdアルバムも残念ながら商業的な成功には至らずバンドは半ば活動停止状態となり、メンバーは腕利きだったこともあってそれぞれスタジオ・ミュージシャンとして生計を立てるのだった。
この時期に彼らはヴァン・ダイク・パークスやボニー・レイット、カーリー・サイモン、ドゥービー・ブラザーズなど、数多くのアーティストの作品にサポートで参加しており、ローウェルとビルははっぴいえんどの3rdアルバム『HAPPY END』にも参加している。

およそ1年間の充電期間を経て活動を再開したリトル・フィートは、徐々にではあるがチャートインを果たすようになった。
75年のツアーではステージにミック・ジャガーとキース・リチャーズが飛び入りするなど、ミュージシャンの間でも注目を集める存在となっていた。
ところがバンドの中心だったローウェルが肝臓障害により満足な活動ができなくなる。
1977年のアルバム『タイム・ラヴズ・ザ・ヒーロー』はビル・ペインとポール・バレアが中心となって制作されたが、2人のバンドに対する影響力が強くなったことで、ローウェルとの間で主導権を巡る対立が生まれはじめた。

そんなバンドの先行きの見えない中にあって、ローウェルは突如ライヴ・アルバムの制作を提案する。

1977年の夏、彼らはタワー・オブ・パワーという強力無比のホーン・セクションを加えてツアーを回り、計8回のコンサートをレコーディングした。
その中から選りすぐりのプレイをピックアップして作られたのが『ウェイティング・フォー・コロンブス』だった。

アルバムはバック・ステージから始まる。
本番直前にメンバーが景気付けで歌っていたのをエンジニアが気を利かせて録音したものだ。
これからステージに向かわんとするバンドを間近で見ているような臨場感は、さながらドキュメンタリー・フィルムを見ているようでもある。
そしてコンサートは『ディキシー・チキン』からのナンバー、「ファットマン・イン・ザ・バスタブ」で幕を開ける。


続く2曲目はポールによるエアロスミスの「ウォーク・ディス・ウェイ」を意識したであろうリフから始まる。
彼らは普段からこんな感じでジャムセッションを楽しんでいたのだろうと伺わせる。
そのまま1分ほどのジャムをして会場を盛り上がったところで次の曲「オール・ザット・ユー・ドリーム」へと雪崩れ込む。



アドリブの好演によって高揚していくテンション、それに呼応する観客の熱気、ライヴでしか生まれ得ないであろうエネルギーが作品全体に充満している。
ライヴ・アルバムを作るという発想はリトル・フィートの音楽を伝える上で最善の術だったといえる。

『ウェイティング・フォー・コロンブス』は全米チャートで18位まで上昇し、彼らに初めてのゴールド・ディスクをもたらした。
リトル・フィートの魅力を余すとこなく収めたこの1枚は、コロンブスの新大陸到達によって発見されたトマトのように、世界中に広まっていくのだった。


Little Feat『Waiting For Columbus』(Deluxe Edition)
Warner

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the LIVE]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ