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ハスラー〜35歳のポール・ニューマンが映画俳優として覚醒した名作

2023.09.26

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『ハスラー』(The Hustler/1961)


最初はわざと負け、勝つにしてもギリギリ。相手には「運が良い奴」とだけ思わせる。それから相手を称賛したり、挑発したりして、賭け金を上げさせたところで本領発揮。最後にすべてをかっさらう。これは騙しだ。心理戦だ。まんまとハスラーに仕組まれたのだ。

ハスラーは下調べにも余念がない。金になりそうなカモを探し出して順番をつけたり、その町に何ヶ月も住んで大物の探りを入れることもある。そしてたった1日で彼らから大金を奪っていく。顔が知れ始めたら潮時。静かに町を去るのが怪我をしないための唯一のルールだ。

『ハスラー』(The Hustler/1961)はビリヤードのプールゲームで稼ぎ歩く孤独な男の物語だった。それまでマーロン・ブランドやジェームズ・ディーンの亜流と評価の低かったポール・ニューマンの出世作として、あるいはトム・クルーズを加えた25年ぶりの続編『ハスラー2』(1986)やそれに続く日本での空前のビリヤードブームといった視点で語られがちな作品だが、実はベンチャー起業家のビジネス書や自己啓発書など足元にも及ばない“人生の教え”が描かれた名作でもある。

原作はウォルター・テヴィスが1959年に発表した同名小説で、監督・脚本はロバート・ロッセン。全編にジャズが流れ、あえてモノクロで撮影。プールの大勝負の舞台はセットではなく、NYにあった本物の店を使用。低予算映画にも関わらず一切の妥協を許さないプロの仕事によってこの映画は大ヒット。当時35歳だったポール・ニューマンがスターとなるきっかけを作った。共演にはTVスターとして有名なジャッキー・グリーソン、舞台俳優として存在感のあったジョージ・C・スコット、紅一点のパイパー・ローリー。

パリにいて別の映画に出演する予定だったというニューマンは、脚本を半分読んだところでエージェントに電話。「全部読むまでもない。今すぐ引き受けてくれ」と言ったそうだ(フランク・シナトラが演じていた可能性もあった)。本作に出演するまでビリヤードのキューを握ったこともなかったが、17年間王座に君臨した伝説の世界チャンピオン、ウィリー・モスコーニから特訓を受けて演技に挑んだ。

(以下ストーリー・結末含む)
物語は、“疾風(はやて)のエディ”として知られる若きハスラー、エディ・フェルソン(ポール・ニューマン)が、不敗伝説を持つミネソタ・ファッツ(ジャッキー・グリーソン)に挑むところから始まる。一時はエディが1万8000ドルも大きく勝ち越したものの、40時間を超える死闘はファッツの勝利に終わる。有り金だけでなくプライドも失い、ショックを受けたエディは相棒を宿に残して街を去ろうとする。

傷心のエディの前にサラ(パイパー・ローリー)という足の悪い女が現れる。互いに惹かれ合った二人は、サラの家で同棲を始める。サラはアル中だった。酒場で賭博師バート(ジョージ・C・スコット)からファッツと再戦するなら大金が必要で、その資金を得るための手助けをしてやると一方的に不利な契約(取り分は8:2)を迫られるエディ。申し出を断ると、落伍者扱いされる。ここで“人生の教え”だ。エディはあの時、なぜ負けたのか。

ファッツをあと一押しで奈落へ落とせたのに果たせなかった。お前の人格が劣るからだ。才能は誰にでもある。しかしそれだけでは40時間も大勝負はできない。ファッツは才能だけで名声を得たんじゃない。彼はピンチに追い込まれて冷静沈着に気分転換を図った。顔と爪を洗って気分を一新し、決意も新たにテーブルに戻った。勝負ありだ。それに反してお前は自分から敗北を選んだんだ。くたびれ果てて、栄光と酒に酔って。

世の中には負ける口実を探してる奴が多い。勝つことは大変な重荷だから、人は口実を作って重荷を下ろそうとする。そして悔根の念に浸るのを楽しむんだ。特に落伍者は。お前は途中経過までは良かったが、結局は負けた。最後に金を数え、勝者を決めるのがゲームだ。


それでもエディは自分の力で稼ぐとむきになり、寂れたプール場でハスラー行為をして稼ぐが、報復で親指を折られてしまう。バートの言う通り、これではファッツには勝てるわけがない。エディはある日、献身的なサラに言う。

俺は玉を突いて調子が出だすと、猛スピードで走る騎手のような気分になるんだ。いつ仕掛けりゃいいか本能で分かる。タイミングに微妙なタッチ、最高の状態だ。このフィーリングがたまらない魅力さ。俺を遮るものは何もない。腕が自在に動き、キューは身体の一部になる。キューには感情が通ってる。心を持つ棒なんだ。そうなりゃ玉を見る必要もない。誰にも真似できないショットが続いて、自分の思い通りに奇跡のゲームをやれる。


ファッツとの再戦のため、エディはバートの条件をのんで資金稼ぎの旅に出掛ける。同行したサラの存在が邪魔なだけの非情なバートは金で解決を図ろうとする。一方で勝負に取り憑かれるあまりサラの忠告を聞き入れないエディ。サラの心はズタズタで遂に悲劇は起こった。バートにやり込められてホテルの部屋で自殺したのだ。怒りのあまりバートに殴りかかるエディ……ファッツとの再戦はどうなるのか?

『ハスラー』には5つのゲームが出てくるが、それぞれが深い意図で撮られていることが分かる。冒頭ではハスラーの手口を見せ、次にミネソタ・ファッツへの挑戦。途中で愚かな怪我があり、更には資金を稼ぐ場面。そして最後に再戦といった流れ。「俺は彼女を愛していた」と言い残し、プール場を去っていくエディの姿が忘れられない。

予告編


『ハスラー』

『ハスラー』






*日本公開時チラシ

*参考・引用/『ハスラー』DVD特典映像
*このコラムは2018年5月に公開されたものを更新しました。

★最新ニュース
『明日に向かって撃て!』(1969年)『暴力脱獄』(1967年)『ハスラー』(1961年)『熱いトタン屋根の猫』(1958年)の4作品がスクリーンで蘇る。東京テアトルのセレクション「名優ポール・ニューマン特集〜碧い瞳の反逆児」は、2022年10月21日(金)よりシネ・リーブル池袋、新宿ピカデリーほか全国順次公開。
詳しくはこちら(外部サイト)



評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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