「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

ミュージックソムリエ

カサビアンによるオルタナティヴ・ロックの体現

2017.06.26

Pocket
LINEで送る

オルタナティヴ・ロックという言葉が開発されたのは1980年代のことである。の音楽産業はディスコ・ミュージックやヘヴィ・メタルといった音楽が、ビルボード・チャートを席巻していた。
その状況に満足できない若者たちが、地元の大学のラジオで主流ではない音楽をやるバンドを取り上げ、ビルボードとは異なる(オルタナティヴな)「カレッジチャート」を作り上げていた。
同じように主流の音楽に満足していなかった人々はそのカレッジチャートを聴き、「オルタナティヴな」音楽は若者を中心にして注目を浴びていく。そのようなシーンからR.E.Mやビースティー・ボーイズなど、今までにはない音楽性を持ったバンドが活躍するようになっていった。

そんなオルタナティヴの精神を現代に持ったバンドが、イギリスのカサビアンである。彼らは主流ではないロックのスタイルを持ちながらも、イギリスを代表するバンドになっていった。

カサビアンは1997年、16歳の若者たちによってイギリスのレスターで結成された。ヴォーカルのトム・ミーガンとギターのセルジオ・ピッツォーノ、通称サージは古くからの友人であった。
90年代の欧米では、野外でゲリラ的にエレクトロ・ミュージックを流す「レイヴ」というアンダーグラウンドな文化があった。トムとサージの地元であるレスターは特に盛んであり、10代半ばであった彼らはよく参加していた。
当時のことをトムはこう語っている。

「野原にサーカス・テントが突然出現して、そこに人々がわらわらと集まって踊って騒いで、という解放的で反抗的な雰囲気がすごく面白かったんだ」

「その頃の俺たちは、いつも『何かしなくちゃ』っていう気持ちが強かったから、そこへ出かけて行くことで、その『何か』を満たしていたと思う」

彼らは「レイヴが音楽をやるきっかけになったわけじゃないよ」とも言っているが、レイヴのアンダーグラウンドな感覚と音楽による解放感がカサビアンの原点に影響を与えてるのは間違いないだろう。

彼らは自分たちが好きなロックンロールとエレクトロ・ミュージックを融合させた音楽を、レスター郊外に小さい小屋を借りて日々作っていった。
2003年末、アナログ盤で初めての音源となる「Processed Beats」をひっそりとリリースする。これによってイギリスのアンダーグラウンドシーンでカサビアンという名が広まっていった。

そして翌年5月にリリースした「Club Foot」という楽曲によって彼らの名は世界中に知られるようになる。不穏なベースラインから始まるこの曲は、暴れるようなエレクトロビートや荒々しいギター、少し鼻にかかったトムのヴォーカルなど、どれもが耳に残る。ロックとエレクトロ・ミュージックを見事に融合させた見事な曲であった。
曲の良さもさることながら、全編モノクロ映像のPVやメンバーの謎めいたルックスも話題を呼び彼らは一気に知名度を上げていった。
当時世界的に流行していたヒップホップやガレージロックとも違う、まさに「オルタナティヴ」なカサビアンの音楽は多くの人々に受け入れられた。
同年発売されたアルバム『KASABIAN』も、新人バンドながら世界的に大ヒットを記録。どの流行音楽とも異なる独自性に、世界中の音楽好きが虜になったのである。

その後もカサビアンは、意欲的に活動を続ける。2006年のアルバム『Empire』のヒットを経て、その3年後に作られた3枚目のアルバム『West Ryder Pauper Lunatic Asylum』では、どこか不穏で鬱々としたサウンドスケープが印象的であった。
かと思えば、2011年のアルバム『Velociraptor!』は、ヒップホップに影響されたビート使った楽曲が目立った、開放的な作品になった。
彼らは自らが楽しいと思う音楽を流行に流されず、音楽を作っていったのである。
バンド結成20周年目の今年、カサビアンは6枚目のアルバムをリリースした。タイトルは『For Crying Out Loud』。イギリスの言い回しで「なんてこったい」という意味である。彼らはこのアルバムで思わず「なんてこったい!」と言ってしまう時のような衝動をストレートなロックンロールで表現した。
普段はレコーディングの期間を長く取る彼らだが、今回はわずか6週間でほぼすべての曲を録音したという。それは自分たちの最初に感じたインスピレーションと衝動をそのまま音に閉じ込めるためであった。
20年という長いキャリアを経ても、カサビアンは自分たちのやり方で音楽を楽しみ続けている。そんなことが伝わって来るアルバムである。
Kasabian『FOR CRYING OUT LOUD』
Columbia

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

    関連記事が見つかりません

[ミュージックソムリエ]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ