1971年に発売されたデビュー・アルバム『Just As I Am』のツアーは、デビュー前から交流のあったワッツ・103rd・ストリート・リズム・バンドのレイ・ジャクソンと、ジェームス・ギャドソン、メルヴィン・ダンラップの3人とで行われた。
ツアーの合間には、ジェームスのガレージで近所の人たちも集まる中、時間を忘れてセッションを楽しんでいた。
翌年セカンド・アルバムのレコーディングにブッカー・T・ジョーンズの予定が合わず、ツアーで回った仲間にギターのバーノース・ブラックモンが参加してレコーディングをすることとなった。
気心の知れた仲間とのレコーディングは、緊張したファースト・アルバムとは打って変わってとてもリラックスした中で行われた。
そのアルバム『Still Bill』は、R&Bアルバム・チャートで1位、全米チャートでも4位のヒットとなり、ビル・ウィザースにとって最も売れたアルバムとなった。
シングル・カットされたゴスペル・フィーリングあふれる代表曲「リーン・オン・ミー(Lean On Me)」は、R&Bチャート、全米チャートともに1位の大ヒットを記録した。
人生には時々
苦しいことも悲しいこともあるけれど
僕らが賢明ならばわかっているはず
必ず明日が来るってことを
弱気になったときは僕を頼ればいい
君の友となって手助けをしてあげよう
僕だってそう遠くはないうちに
頼れる誰かを必要とする日が来るだろう
どうかプライドをぐっと飲み込んで
僕から借りたいものがあるのなら
ちゃんと打ち明けてくれなくちゃ
誰も応えてはあげられないよ
助けが必要なときはブラザー、僕を呼んでくれればいい
誰だってみんな頼れる誰かが必要なんだ
僕の悩みだって君がわかってくれるかもしれない
誰だってみんな頼れる誰かが必要なのだから
作曲のプロセスについて、ビルは「それまで何年もの間に自分が経験した小さなことや大きなことの積み重ねから、何かが出てくるものと信じている」と語っていた。そういったことを一冊の小説を書くよりも音楽や詩では短く手早く伝えられることが興味深いのだと。
「リーン・オン・ミー」は、たまたまピアノでコードを弾いた時に自然と生まれたものだという、ビル自身の内側にある優しさに触れる1曲だ。
そして1987年にはクラブ・ヌーヴォーにカヴァーされ、2週間連続全米チャート1位にランクインする大ヒットとなり、ビルに再びグラミー賞をもたらした。
しかし、ビル・ウィザースは1985年にアルバム『Watching You, Watching Me』を発表した後、音楽業界から姿を消す。
インディーズのサセックスから、大手のCBSに移ってからも数曲ヒットを生み出したが、レコーディングのたびに違うセッション・ミュージシャンとやらなければならないなど、しだいに居心地の悪さを感じていったという。
「大会社に入るや、A&R部門が出てきた。A&Rって僕に言わせると、何の略だかわかるかい?(本来はアーティスト&レパートリーの略だが)antagonistic & redundant(対立と不要な窓際族)ってことだ。だから、その頃は僕はたくさんの人間と交渉しなければならなくなった。」
そして会社がビル対して執拗に、ナンバーワン・ダンス・レコードを作らせたがったということが、ビル自身には我慢ならなかった。中には黒人音楽に対する偏見もあったようだ。
しかし、こうも振り返る。
「音楽が好きじゃないからとか、(音楽的な)アイデアがなかったから、音楽を辞めたわけじゃないんだ。ただただ音楽業界に対して怒り心頭だったんだ。僕がそういうことに関してもう少し寛容で、我慢強ければよかったとも思うよ。」
音楽業界を辞してまでも守りたい信念と、歌いたい歌があった。
平凡な生活を愛する、頑なまでにまっすぐなビル・ウィザースのメッセージが、今でもなお私たちの心に響くのだ。
(前編コラムはこちらから)

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参考文献:「waxpoetics JAPAN」No.03 サンクチュアリ出版 2009年ビル・ウィザースインタビューより
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