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コーヒーの香りと音楽と(前編)~『喫茶ロック』シリーズが提示した昭和のレア・グルーヴの再評価

2019.04.22

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コーヒーの香りと音楽と。

昭和の時代の喫茶店といえば、こだわりのコーヒーを入れてくれるマスターがいて、歌声喫茶に始まり、ジャズ喫茶、ロック喫茶など、まだディスコやクラブやライブハウスなどが存在しなかった時代においては、音楽を楽しみ、新しい音楽と出会う場所でもあった。
内装にはステンドグラスを使用したり、濃茶のクラッシックな建具やソファーと、照明も少し落とし気味の落ち着きのある空間が、コーヒーの香りと相まって居心地の良い空間を作っていた。

しかし平成の時代には、白壁にナチュラルな木目を基調とした内装で、採光を十分に取り入れた明るい店内のカフェがブームとなり、昭和の時代の古いたたずまいを残した喫茶店が少しずつ姿を消していった。

カフェ・ブームの火付け役となったCafé Après-midiが東京都渋谷区にオープンしたのは、1999年(平成11年)だった。翌年には、店内で聴きたい音楽をコンピレートしたCDのシリーズ『カフェ・アプレミディ』がリリースされ、ボサノヴァを中心にヨーロッパのジャズや映画音楽、ブラジル音楽、ソフト・ロック、ネオ・アコースティックなどがセレクトされたCDが評判となり、これらのジャンルの音楽が、人々の間で“おしゃれなカフェ・ミュージック”として人気が広まった。
平成の時代のカフェも、やはり音楽と出会う場所であったと言える。



そんなカフェ・ブームの最中にあった2001年に、『喫茶ロック』というオムニバス・アルバムのシリーズがリリースされた。コンパイルされた内容は、喫茶店でかかるBGMというよりは、“喫茶店的な”雰囲気を持つ1970年代の日本のフォーク・ロック、ソフト・ロック、カントリー・ロックなどを中心にセレクトしたとされている。
企画・選曲グループとして、田口史人、栗本 斉、浅井 有、行 達也の4人で「喫茶ロック委員会」なるものが組まれた。

内容的には、当時をリアルタイムで経験していない若い人達にも楽しんでいただけるように今の時代にも通用するクオリティーを持つ楽曲のみに限定して、その結果、ヒット曲というよりはアーティストの抑圧された主体性が花開くシングルのB面であったり、アルバムの中の一曲であったりと知名度的には低い曲が多いセレクションになりました。「へぇーこのアーティストにこんな曲があったんだ!」という発見も多いハズです。このオムニバスを聴いて普段サニーデイサービスやキリンジなどを聴いている若い人たちが少しでも古い音源に興味を持っていただいたらと考えております。


と、アルバム『喫茶ロック』のライナー・ノーツにはこのように記されている。
また、このアルバムのシリーズは、レコード会社ごとに企画されリリースされた。

例えば、2001年9月19日に第一弾としてリリースされたのが、「~やさしい朝の唄~キング編」「~地球はメリゴーランド~ソニー・ミュージック編」「~風をあつめて~東芝EMI編」の3枚だ。
そして続く同年11月21日には第二弾として「~ドライブ日和~ショーボート/トリオ編」「~魔術~日本コロンビア編」「~アダムとイブも~ユニバーサルミュージック編」の3枚が、2002年以降もポニーキャニオン編やビクター編などが続いてリリースされた。

興味深いのはその収録曲だ。例えば『喫茶ロック~地球はメリーゴーランド~ソニー・ミュージック編』は以下のとおりで、ライナーノーツにも記されているように、知られたアーティストの代表曲とはいえない意外な楽曲が並んでいる。
さらには目玉として、シングルを1枚リリースしただけの幻の女性デュオ、杏のA面とB面の2曲をセレクトしているところからも、喫茶ロック委員会のこだわりと、アルバムにかける熱量が感じられる。



GARO「地球はメリーゴーランド」
赤い鳥「忘れていた朝」
笠井 紀美子「四つの季節」
小坂 忠「はずかしそうに」
センチメンタル・シティ・ロマンス「うん、と僕は」
成田 賢「やすらぎの世界」
杏「風は何も恐れはしない」「輝く明日はない」
カルメン・マキ「種子」
MAO「僕を呼んでおくれ」
五輪 真弓「水に沈みゆく影」
古井戸「ねえ君」
岡林 信康「あの娘と遠くまで」
チューインガム「動物たちの世界」
よしだたくろう「高円寺」
斉藤哲夫「今日から昨日へ」
愛奴「雨模様」
野沢享司「君が気がかり」
中川イサト「ゆうだち」
アーリィタイムス・ストリングス・バンド「僕の家」
つのだひろとスペース・バンド「風ごよみ」

センチメンタル・シティ・ロマンス「うん、と僕は」



成田 賢「やすらぎの世界」


そしてライナーノーツには、上記に続いて以下のように綴られている。

しかし残念ながらこれらの素晴らしい作品の半分以上が現在CDとして入手するのは困難な状況といえます。これを機会に一刻も早くオリジナルの形でのCD化が望まれます。

これらのシリーズがリリースされてから十数年がたった今でも、CDの入手が困難な状況はあまり変わっていないが、最近はサブスクリプションで聴けるものが少しずつ増えつつあるのが嬉しい。


一方、1980年代にイギリスのクラブ・シーンから発生したレア・グルーヴのムーブメントは、1990年代に入ってから各地でリイシュー(再発売)専門のレーベルができたり、また中古レコード店で希少な音源を探し当てるなどという、新しい音楽の楽しみ方が世界中の音楽ファンの間にに広まった。

レア・グルーヴ~単なるムーヴメントに終わらない新しい音楽の楽しみ方

その流れから見ると、この『喫茶ロック』のシリーズも、平成の時代の日本においては、若い世代の音楽ファンにレアな音源を発掘するという、“ディグる”楽しみを提示してくれたと言えないだろうか。
はっぴいえんどが2000年以降に若い音楽ファンの間で発見され再評価されたことは、直接的にこのシリーズとの関係性は無きにしても、少なからず当時のこの流れの中では必然であったと感じられるのだ。

また2002年9月には、この喫茶ロックのガイド本も発売され、各アルバムのジャケット写真に使用された実在の喫茶店の紹介や、アルバムに収録しきれなかった楽曲とアーティストの紹介、そして当時の音楽と喫茶店との関わりなどにも触れていて興味深い。

平成の時代、カフェ・ブームの真っ只中に突如現れたオムニバス・アルバム『喫茶ロック』が、実は水面下で密かに当時の日本の音楽ファンの間に大きな影響を及ぼしていたかもしれない。そうやって、古い音楽が次の世代へ引き継がれていくことはとても素晴らしい話だ。
平成に入って10年が過ぎた頃からCDが売れなくなったと言われるが、この『喫茶ロック』や『カフェ・アプレミディ』のような、優れたオムニバス・アルバムが生まれ、音楽ファンの間で愛されていたことは忘れてはならない。

休日の空いた時間に、お気に入りのコーヒーと『喫茶ロック』の音楽を、ゆっくりと味わってみるのはいかがだろうか。

休みの国「マリー・ジェーン」(「~風をあつめて~東芝EMI編」より)


大瀧詠一「それは僕ぢゃないよ」(「~やさしい朝の唄~キング編」より)


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