1980年1月に行われたクラッシュの「16トンズ・ツアー」は、彼らの名前を音楽史に刻むことになったアナログ盤2枚組のアルバム『ロンドン・コーリング』の発売した直後に行われた。
日本からツアーを体感しに行ったレコード会社の担当ディレクター・野中規雄が、そのときのことを後にブログに書いた記事を紹介したい。
このツアーで野中が見たクラッシュのライブは6ヶ所。1月23日のランカスター、25日のブラックバーン、26日のディーサイド、27日のシェフィールド、29日のブラッドフォード、31日のリーズだった。
日本から同行したのは、音楽評論家の大貫憲章、現地でコーディネートしてくれたのがロンドン在住のKaz(カズ宇都宮)である。
1951年に東京に生まれたkazことカズ宇都宮は、ロンドン大学インぺリアル校に在学中に、クイーンを結成する前のブライアン・メイとジョン・ディーコンと知り合いになり、そこから音楽関係の仕事に入った。
そしてシンコー・ミュージックのロンドン特派員を皮切りに、渡辺音楽出版で著作権を扱う仕事について活躍していくことになる。
ツアーのポスター(画像はアメリカ編)
3人はそのとき、ロンドンから電車でシェフィールドまで行って、そこから先はタクシーでツアーを追うことになったという。野中は到着したシェフィールドの印象を、こんな風に書いている。
1980年1月、イングランド北部シェフィールド。かつて鉄鋼で栄えた街がすっかり不景気に覆いつくされ、夜ともなると外を歩く人の姿もない。1ヶ所だけライブハウスの周りだけが騒がしく装甲車とパトカーと救急車が取り囲んでいる。
ザ・クラッシュのライブはどこもこうだ。毎回ケガ人が出たり騒ぎが起こるので警察がこうして待機している。ましてやここシェフィールドは、ザ・クラッシュがセックス・ピストルズと4年前初めてのツアーをスタートさせた因縁の地だ。
そもそも公演前の楽屋で、初期の代表曲だった「白い暴動(White Riot)」をアンコールで演奏するのか否かについて、ジョー・ストラマーとミック・ジョーンズが揉めていたという。
ミックからすれば、1977年に出したデビュー・シングルの「白い暴動」は、もうバンドの象徴という楽曲ではなくなっていた。だから目の前の観客の要求に応じて、あえて封印していた曲をプレイするのはうんざりだったのだ。
そして本番が始まると、野中が予想したように観客が荒れた。ジョーはステージの上で、「みんな、敵はここにいない! 外にいるんだ!」と叫んだ。
白い暴動 暴動を起こすんだ
白い暴動 俺自身の暴動
すべての権力を手に持つのは
何でも充分に買える金持ちばかり
俺たちはストリートを歩いてる間
それを試そうとする度胸さえも無い
ジョーはアンコールで「白い暴動」を強引にプレイした。そしてライブが終わった楽屋では、ミックがジョーの顔に酒を浴びせた。逆にミックの口元にジョーのパンチが飛んだ。
野中たちはそのシーンも目の当たりにする。
このツアーでは初日1月5日のアリスバーリーからずっと封印していた「ホワイトライオット」をアンコールでジョーが演奏してしまったことで、怒ったミックがバックステージでジョーを殴ったという事件。憲章さんとKazと私の3人がその光景を目撃し、関係ないのにビビりあがってたあの日がシェフィールドだった。
「16トンズ・ツアー」のロンドン公演は、2月15日から3日間にわたってエレクトリック・ボールルームで行われた。野中たちはスケジュールの都合で日本に帰国したが、kazだけは初日に会場で偶然、ポール・シムノンがやって来るところを見ていたという。
ベースのポール・シムノンが普通にベースを下げて普通に道を歩いてきて、入口にたむろしているファンの中を普通に「Hi!」と言いながら小屋に入って行った。それがあまりに自然だったものだからファンも騒ぐでも握手するでもなく「Hi!」と言っただけだったと。
Kazが後でポールに聞いたところ、地下鉄キャムデンタウンの駅から一人で歩いてきたという。彼らはロンドンではいつもそうしているということだった。
その話を後になってkazから聞いて、野中はツアーを思い出してこう記していた。
ポールはあの頃映画俳優のように本当にカッコ良かった。ツアー途中、ライブ後、ホテルのロビーにスーツ姿で新聞を広げている姿はまさに映画のワンシーンだった。
アルバム『ロンドン・コーリング』がブレイクして時代のヒーローのように受けとめられていたときも、クラッシュはそれまでと何ら変わらない行動や態度を貫いていた。
彼らはパンクの精神を曲げることなく、いわゆるロック・スターにはならなかったのだ。
〈参考ブログ〉
ブログ「社長の履Rec書」野中規雄https://ameblo.jp/shachorirekisho/entry-10196767456.html
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「ロンドン・コーリング」

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