1966年に山中湖畔のゴルフ場で、作曲家の浜口庫之助が石原裕次郎と会ったのは、まったく偶然のことだった。
浜口はその日、山梨県警の本部長と公正取引き委員会の知人と3人でプレイしていた。甲府の「青少年を育くむ会」の歌を作ってほしいということで、東京から出かけてきたのである。
そのときにリハビリのためにキャディと2人だけでホールをまわっていた裕次郎に気づいて、浜口が声をかけたことから一緒にプレイすることになった。
リサイタルのために曲を作ってほしいと裕次郎から頼まれたのは、ゴルフの後で一杯やりながら話し合っているときだった。裕次郎は翌年の5月にリサイタルで、全国をまわる予定になっていた。
「先生、何か良い曲を書いてくれませんか。税金がガッポリきたんで、それを払うために全国を歌って歩くことにしたんです。お願いします」
「そりゃ大変だなあ。僕でよかったら、やってみよう」と言って別れた浜口は、東京へ帰るとすぐに曲作りに入った。
構想とタイトルができた時点で裕次郎に話してみると、とても喜んでもらえたのでほとんど時間をかけずに、「粋な別れ」と「夜霧よ今夜も有難う」の2曲が出来上がった。
浜口は著書「ハマクラの音楽いろいろ」(朝日新聞社)のなかで、このように述べている。
あの二曲は、当時僕の見た裕次郎映画の、どこかのシーンから想像して作ったものだ。裏町の飲み屋を舞台に、レインコートの襟を立てて登場する裕次郎を描写した。その裕次郎は、もういない。
浜口はかつての裕次郎映画から新しい歌を産んだが、その歌からまた新しい映画が生まれてくる。映画化するのに相応しい楽曲が誕生したことで、それを主題歌にした映画が企画されたのだ。
1967年3月11日に公開された『夜霧よ今夜も有難う』はヒロインに浅丘ルリ子を迎えた大人のラブ・ストーリーだが、日活ムードアクションの代表作のひとつになった。
その物語の骨格はハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンが主演したアメリカ映画、名作『カサブランカ』(1942年)をもとにしている。
第2次世界大戦下のモロッコを舞台にした『カサブランカ』は、フランスを占領したナチスに対するレジスタンスが時代背景としてあった。
それを『夜霧よ今夜も有難う』ではベトナム戦争に反対する運動が盛んだった当時の状況から、元船員で横浜のクラブを経営する主人公の裕次郎が、海外への逃亡に手を貸す「逃がし屋」という設定にした。
祖国への帰国を依頼する東南アジアの革命家が、日本人の妻と連れ立ってやって来る。その妻はかつて主人公の婚約者だったにもかかわらず、4年前に突然、消息を絶って姿を消したままになっていた浅丘ルリ子だった。
裕次郎が再会した浅丘ルリ子に向かって、「一体何をしていたんだ。4年だぞ、4年」と問いかけるシーンが出てくる。それに対して、「1500回朝を迎え、1500回昼を迎え、1500回夜を迎えたわ」と、浅丘ルリ子は冷静に答える。
女優生活60年を記念して出版した著書「女優 浅丘ルリ子 咲きつづける」で、彼女はそのセリフもふくめて、映画についてこんな感想を述べている。
現実にはありえないような、キザなセリフがいっぱいちりばめられていて、それがとっても素敵でした。
再会時の台詞を受けて裕次郎は最後の別れの際に、こう言い放つのである。
「ぼくたちは1500回の昼と夜を取り戻したんだ」
「夜霧よ今夜も有難う」は1967年2月に発売されたレコードがヒット曲になったばかりか、日本の映画史に残る切なくもロマンチックな裕次郎映画を生んだ。
そして裕次郎の甘い歌声とともに愛され続けて、日本の音楽史に残るスタンダード・ソングになっている。
(注)文中の浜口庫之助の言葉は、著書「ハマクラの音楽色いいろ」(朝日新聞社)からの引用です。

映画『夜霧よ今夜も有難う』

『石原裕次郎ベストヒット30』

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▼場所/横浜市開港記念会館講堂(ジャックの塔)
▼出演
浜田真理子 with Marino(サックス)
畠山美由紀 with 高木大丈夫(ギター)
奇妙礼太郎 with 近藤康平(ライブペインティング)
タブレット純(司会と歌)
佐藤利明(司会と構成)
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