流行歌や映画に活写されている情景や風景は、遅れてきた世代にとってはタイムマシンでもある。半世紀、いや80年以上前の映画を見ていると、ストーリーやテーマとは別に、その時代の空気を体感することができる。
横浜市開港記念会館「ジャックの塔」の前に立つと、この歴史的建造物が立った大正時代の港町横浜の活気をイメージすることができる。その向かいの神奈川県庁舎「キングの塔」、モスクを思わせるエキゾチックな横浜税関「クイーンの塔」。この横浜三塔を眺めているとはるか昔の映画のヴィジュアルや、流行歌のメロディー、フレーズが湧いてくる。
写真上から「キング」「クイーン」「ジャック」横浜三塔(撮影/中野充浩)
例えば、平野愛子が敗戦直後に歌った「港が見える丘」は、歌詞に横浜という地名は出てこないが、歌の主人公の「わたし」が「あなた」と佇む「港が見える丘」は、横浜市中区山手町にある「港の見える丘公園」なのだと、ぼくたちはイメージしてしまう。
実際、この公園は1948(昭和23)年に流行した平野愛子の「港が見える丘」にちなんで、1962(昭和37)年5月8日に開園した。その開園式には「港が見える丘」が流れ、のちに同曲の歌碑が建てられた。
石原裕次郎が1967(昭和42)年に映画主題歌として歌って大ヒットした「夜霧よ今夜も有難う」(作詞・作曲・浜口庫之助)もまた、歌詞には横浜にちなんだフレーズはない。
だが、この曲をフィーチャーした同名日活映画で、裕次郎は横浜の山下町でナイトクラブを経営していて、別離したヒロイン・浅丘ルリ子との想い出の曲として、ピアノの弾き語りで「夜霧よ今夜も有難う」を歌う。映画にはホテルニューグランドや、日本大通りの横浜市電、海岸教会、山手教会、横浜税関のクイーンの塔などが登場する。
それゆえ「夜霧よ今夜も有難う」のサックスのイントロが流れるだけで、1960年代の横浜へとタイムスリップしてしまう。
ちょうど「夜霧よ今夜も有難う」がヒットした翌年、1968(昭和43)年の暮れのこと。ぼくは家族と一緒に中華街で食事をした後、夜景を見ようとマリンタワーに昇った。
そのエレベーターや展望台で流れていたのが、当時発売されたばかりの、いしだあゆみの「ブルーライトヨコハマ」(作詞・橋本淳 作曲・筒美京平)だった。歌い出しのフレーズと、幼き日に見た年の瀬の横浜港の船舶の灯りがリンクして、ぼくにとって横浜といえば、筒美京平のアレンジによるキャッチーなイントロがすぐに浮かんでくる。
様々な歌謡曲、流行歌によって、港町横浜のイメージが豊かに作られてきた。2023年のNHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」で、菊地凛子が歌って、令和の時代にも蘇った淡谷のり子の「別れのブルース」(作詞・藤浦洸 作曲・服部良一)も、横浜で生まれた曲。
1937(昭和12)年、作曲の服部良一が、山下公園、本牧を歩いた後に、立ち寄ったバーの蓄音機で、淡谷のり子がダミアの曲をカヴァーをした「暗い日曜日」を聞いて「本牧を舞台したブルースを作ろう」と、山下町にあった「バンドホテル」をモデルにして作曲の構想を練ったという。
それが、窓を開けると「港が見える」ホテルなのである。この「バンドホテル」は、戦前、戦後を通して横浜のランドマークでもあり、赤木圭一郎主演の映画『霧笛が俺を呼んでいる』(1960年・日活)やドラマ「あぶない刑事」(1986年)にも登場する。
現在はMEGAドンキホーテとなっている「バンドホテル」には、ナイトクラブ「シェルルーム」があり、人気歌手だったウィリー沖山が支配人だった。ブレンダ・リーやプラターズなど来日アーティストのライブも行われた。いしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」のブルーは、この「シェルルーム」の青いネオンサインのことだという。
ちなみに、五木ひろしの「よこはま・たそがれ」(作詞・山口洋子 作曲・平尾昌晃)の「ホテルの小部屋」は、バンドホテルのことだとか。
ことほど左様に、横浜から幾多の歌謡曲の名曲が誕生している。名曲の数々が生まれ、ヒットして、人々の記憶となってきた。
そうした時代を見続けてきた歴史的建造物「ジャックの塔」で開催する、「オトナの歌謡曲ソングブックコンサートin YOKOHAMA」では、横浜が生んだ様々なヒット曲を、音楽をこよなく愛するアーティストたちが、それぞれの想いを込めてカヴァー。
自身のオリジナル曲と共に、歴史的建造物「ジャックの塔」で歌い上げる。まさに「歌は世につれ」である。
佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)
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【オトナの歌謡曲ソングブックコンサート in YOKOHAMA】開催


1917年に開館した横浜の歴史的建造物「横浜市開港記念会館」(ジャックの塔)で、昭和の名曲を愛する一流のアーティストが集ってコンサートを開催!
昭和に憧れる若い人からリアルタイムで昭和歌謡に慣れ親しんだ人まで、幅広い世代が一緒に楽しめるコンサートです! “国の重要文化財”という、いつもと違う空間が醸し出す特別なひとときを、感動と共にお過ごしください!!
▼日時/2025年6月7日(土曜) 開場17時/開演18時
▼場所/横浜市開港記念会館講堂(ジャックの塔)
▼出演
浜田真理子 with Marino(サックス)
畠山美由紀 with 高木大丈夫(ギター)
奇妙礼太郎 with 近藤康平(ライブペインティング)
タブレット純(司会と歌)
佐藤利明(司会と構成)
▼「チケットぴあ」にて4月5日(土曜)午前10時より販売開始 *先着順・なくなり次第終了
SS席 9,500円
S席 8,000円
A席 6,500円
B席 5,500円
「チケットぴあ」販売ページはこちらから
▼詳しい情報は公式サイトで
「オトナの歌謡曲ソングブックコンサート in YOKOHAMA」公式ページ