1969年11月27日に、27歳の誕生日を迎えたジミ・ヘンドリックス。この頃のジミの音楽活動は決して順風満帆といえるものではなかった。
6月にジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスを解散したのち、6人編成のバンド、ジプシー・サンズ&レインボウズを結成するも、目立った活動はウッドストック・フェスティバルへの出演だけですぐに解散。
そのあとに結成したバンド・オブ・ジプシーズも長続きせず、翌年1月28日のマジソン・スクエア・ガーデンを最後に、同じく解散してしまう。
それでもジミはドラムにエクスペリエンスのミッチ・ミッチェル、ベースにビリー・コックスというメンバーでアメリカ・ツアーの旅に出た。
ロック・シーンの頂点に登り詰めたジミに、休む暇はなかった。大勢のファンたちが、ステージを待ち望んでいたのだ。
しかし、本番直前になると不安とプレッシャーからか、毎回のようにステージへと上がるのを拒否していたという。3ヶ月に及ぶツアーが終わったのは8月のはじめで、ジミはそのときのことについて、9月に行われたインタビューでこう答えている。
「アメリカ・ツアーが終わったとき、ほんとうはどこかに隠れて、すべてを忘れてしまいたかった。ただレコーディングだけやって、俺に曲がほんとうに作れるのかどうか考えてみたかったんだ」
前年の秋頃からジミはツアーの合間を縫って、新しいアルバムのためのレコーディングをしていた。しかし、納得できるような曲を作ることができず、一向にアルバムが完成する気配はなかった。
ジミは続けて、こうも話している。
「それでビートルズから始まった音楽の時代は終わったと思ったんだ。何か新しいものが出てこなくてはいけない。それがジミ・ヘンドリックスなんだってね」
ローディーとしてジミの音楽をそばで支え続けてきたジェリー・スティッケルズは、夏頃からジミにある変化が起きていたことを証言している。
「ずいぶん長い間、ジミは挫折したままだった。それが、あのときには新しいアイデアの洪水を抱えているみたいだったんだ」
ビートルズに代わる新しい時代の音楽を作リ出す、その覚悟がジミに新たな想像力をもたらしたのだろうか。
8月26日にはニューヨークに建てた自身のスタジオ、エレクトリック・レディ・スタジオが正式にオープンしていた。こうして2年近くを費やしたというアルバムは、ようやく完成に向かって動き出したのだ。
インタビューでは今後の展開について、「他のミュージシャンにカバーされるような曲を書きたい」「眼と耳の両方に訴えるような映画を作ってみたい」と語り、創作エネルギーに満ち溢れているのが伝わってくる。
「考えるだけで、ぞくぞくしてしまうんだ。俺は今、とても幸せだよ。万事、うまくいくさ」
しかし、ジミの手でアルバムが完成することはなかった。1970年9月18日、突如としてジミはこの世を去ってしまう。
死因は睡眠中の嘔吐による窒息で、寝る前に飲んだ大量のワインと睡眠薬の過剰摂取が引き金となったようだ。ジミの死については医療ミス、自殺、他殺など様々な説が囁かれているが、今となっては真相を知る由もない。
アルバム制作のために残された膨大なテープは、ジミのアルバムを手がけてきたエディ・クレイマーとミッチ・ミッチェルによって、1枚のアルバムとして形となった。ジミの死から半年後の1971年3月、『クライ・オヴ・ラヴ』と名付けられて、ラストアルバムが世に送り出された。
1997年にはそれに7曲が追加され、ジミが当初から構想していた2枚組のアルバムに近い形となった『ファースト・レイズ・オブ・ザ・ニュー・ライジング・サン』がリリースされた。

しかし、レコーディングされていない曲も何曲かあり、その全貌は誰にも知ることができない。答えは27歳で眠りについたジミとともに、埋葬されたままなのである。


Jimi Hendrix『First Rays of the New Rising Sun』
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参考資料:
『ジミ・ヘンドリックスの伝説』クリス・ウェルチ著 菅野彰子訳(晶文社)
『ジミ・ヘンドリックスの生涯』トニー・ブラウン著 米持孝秋訳(シンコー・ミュージック)
『ジミ・ヘンドリックス~リアル・エクスペリエンス』ノエル・レディング著 高見展訳(宝島社)
(このコラムは2015年6月27日に公開されたものです)

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