ニール・ヤングは1972年の11月12日、27歳の誕生日を迎えた。
その年の2月に発表したアルバム『ハーヴェスト(Harvest)』は、ナッシュビルのカントリー系のミュージシャンたちをバックにした作品だが、アルバムの年間チャートでは1位になって大ヒットを記録した。
またシングル・カットされた「孤独の旅路(Heart Of Gold )」もナッシュビル録音だったが、リンダ・ロンシュタットやジェームス・テイラーがバック・アップ・ヴォーカルに参加し、全米ナンバー1のヒットに輝いている。
「私は生きたい、私は与えたい、私は金色に輝く優しい心を掘り出そうとしている」と、自分に語りかけるような言葉から始まる歌詞は、「黄金の心を探し求めて、私は歳をとってゆく」と繰り返されて終わっていく。
しかし、思いもよらぬ名声と巨万の富を得たヤングは、そのことを決して手放しで喜んでいたわけではない。ビッグ・アーティストとしてスター扱いされることも、周囲からのプレッシャーがとてつもなく大きくなることも、彼が望んでいたものではなかったからだ。
誕生日から6日後、ツアーを2ヶ月後に控えていたヤングはリハーサル・スタジオに入った。ツアー・メンバーたちは『ハーヴェスト』に参加していた面々だが、クレイジー・ホースのギタリストで朋友ともいえるダニー・ウィットンも、そこに加わって一緒に演奏する予定だった。
ところが重いドラッグ中毒から抜けだせなくなったダニーは、とくにその日は調子が悪くて満足にリズムを合わせることさえできなかった。
「この状態では一緒にツアーを回れない」と判断したヤングは、ダニーに休養を与えてロスの自宅に飛行機で帰してあげることにする。ヘロインの過剰摂取でダニーが死んだのは、ロスに帰ったその日の夜のことだった。
「それを聞いた時は頭をぶっ飛ばされたみたいだったよ。ぼくはダニーが大好きだったんだ・・・」
その翌年の6月4日、CSN&Y時代のローディで友人だったブルース・ベリーが、やはりダニーと同じヘロイン中毒で亡くなってしまう。
信頼する仲間を立て続けに失ったヤングは、その死を現実のものとして受け入れて、自らの心に空いた穴を埋めなければならなくなった。
そこでふたりを追悼するアルバムを作るために、残されたクレイジー・ホースのメンバーに声をかけた。ヤングとクレイジー・ホースがレコーディング・セッションに集まったのは、夕方の5時頃だった。
条件反射的に緊張が高まるレコーディング・スタジオではなく、リハーサル・ホールを選んだのは、生きていた頃のダニーやブルースのように、自由で気ままに音楽を奏でたいと思ったからだという。
ハイになるためにみんなでテキーラを飲んだり、ビリヤードで遊んだりしながら、しばらくはゆったりとくつろぎながら時間を過ごした。深夜になってようやく、バンドの音が鳴り始めた。
アルバムのタイトル曲となる「今宵その夜(Tonight’s The Night)」で、ヤングは淡々とブルース・ペリーのことをうたった。
そういえば、みんなが帰ってしまった深夜に
やつはよくオレのギターを手にとって、震えた声で歌っていたなぁ
真夜中のセッションが進んでいくうちに、誰もが酔っぱらって立っていることさえできないほどになった。
「『今宵その夜』は言わばオーバードーズで書いた手紙みたいなものさ。僕たちはブルースとダニーがやってたのと同じ方法で、二人のために一晩中演奏したんだ」
こうして緊張や緻密さとは無縁で、どこか調子っぱずれの歌と演奏が、テープレコーダーに記録されたのだった。
しかし、レコード会社はヒット性がないことや、歌詞の内容があまりに暗すぎるとの理由で、発売に難色をしめした。
ダニーが生きていた頃のライブ音源などを加えたアルバムが、ようやく陽の目を見ることになったのは2年後のことである。
このときヤングはひとりでレコーディング・スタジオに入り、ピアノの弾き語りで「Borrowed Tune(借り物の曲)」を録音し、アルバムに加えている。
ヤングはここで絶望の淵にいる心情を正直に吐露するために、ローリング・ストーンズの「レディー・ジェーン(Lady Jane)」からメロディを借りて、気持ちをうたったのだった。
♪俺はこの借りものの曲をうたっている
これはローリング・ストーンズからのイタダキものだ
俺は自分で曲を作る気力もなくなっちまった
(注)本コラムは2016年1月2日に公開されました。
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