♪ 土曜日の公園
あれは確か、7月4日
土曜日の公園
あれは確か、7月4日のこと ♪
その時、シカゴのメンバーは次回作『シカゴⅤ』の録音のため、ニューヨークに滞在していた。アルバム用の楽曲はまだ揃っていない。
ロバート・ラムは気分転換にセントラル・パークへと散歩に出かけた。そこでロバートは独立記念日(7月4日)特有の、喜びに満ちた人々の姿を目の当たりにする。
♪ 人々は語り合い、笑い
アイスクリーム売りの男は
イタリア語の歌を歌っていた
(意味不明の歌詞)
意味がわかるかい?(ああ、わかるさ)
長い間、待っていたんだ
土曜日をね ♪
メンバーのもとに帰ってきたロバートが、興奮気味に公園の様子を話し始めると、サックス奏者のウォルター・パラゼイダーは彼にこう言ったのだ。
「それほど楽しかったのなら、曲にすればいいじゃないか!」
ロバートは早速、曲作りにかかった。
メロディーのイメージは、ビートルズの「ユー・ウォント・シー・ミー」から拝借した。そして彼が見たとおりの情景を歌詞にした。
ロバートは実際、イタリア語の歌を耳にしたのだろうが、その意味はわからなかった。だが、その雰囲気をそのまま伝えることにした。
楽譜には、次のような説明書きがなされた。
<即興で作ったイタリア語の歌詞>
意味不明なイタリア語。だが、その場に居合わせた者には、その歌の楽しさは伝わってくる。だからこそ、「意味がわかるかい?(ああ、わかるさ)」なのだ。
ところが、毎回、即興のイタリア語風歌詞を考えるわけにもいかない。そこで結局、歌詞は次のように落ち着いた。
♪ Eh Cumpari, ci vo surnari
(おい、みんな、何の音だい) ♪
歌詞は、イタリアの童謡から拝借したようである。
♪ 公園でのまた別の日
7月4日だと思うに違いない
公園でのまた別の日
7月4日だと思うに違いない ♪
ロバートは再び、セントラル・パークを訪れる。
そこには前回同様、楽しげな人々がいるが、今の世界の変革を歌う男が登場する。
♪ 人々は踊り、心から微笑み
ギターを弾く男は
僕らに歌っていた
彼に世界を変えさせてやれるだろうか
そう思うかい(ああ、思うさ)
長い間、ずっと待っていたんだ
この日をね ♪
時は1971年。アメリカはベトナム戦争で傷ついていた。
♪ ブロンズの男は今も彼ならでは言い方で
ストーリーを物語る
いいかい、子供たちよ
すべてが失われたわけではない
すべてが失われたわけではないのだ ♪
ブロンズの男は、セントラル・パークに置かれた銅像かも知れないし、かつてロバート・ラムが冗談交じりに語ったように、ギタリストのテリー・キャスのことかも知れない。テリー・キャスは当時、ブロンズ像のように日焼けをしていたというのだ。
ブロンズの男の正体はわからないが、その言葉は、ジョン・ミルトンの「失楽園」からとられたものである。
<すべてが失われたわけではない。まだ不屈の意志がある>
エデンの園を追われたアダムとイブの物語。
約束の地にやってきたはずのアメリカの人々もまさに、アダムとイブのような気分だったのだろう。そしてロバートの目に映った土曜日のセントラル・パークは、エデンの園そのものだったのである。
(このコラムは2015年3月5日に公開されたものです)
●商品の購入はこちらから
●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから