『フラッシュダンス』(FLASHDANCE/1983)
ポップカルチャーの足跡を振り返る時、1983年はとても興味深いことに気づく。日本/東京では、その年にディズニーランドの開園があった。女子大生ブーム、ファミコンの発売、レンタルレコード店やウォークマンの普及、『戦場のメリークリスマス』の公開、尾崎豊のデビューといった出来事もすべてこの年だ。
音楽シーンでは、マイケル・ジャクソンの『スリラー』が世界規模で大ヒットし、マドンナやシンディ・ローパーがデビューした。1981年に開局したMTVの力が一気に高まった時代でもあり、その影響でヴィジュアル性に富んだイギリスのNew Waveグループや長髪メイクのヘヴィメタル勢もヒットを連発し始めた。
そして映画では、多くのYAスターを生んだ『アウトサイダー』が思春期の少年少女たちを魅了する中、女性たちに支持されたのが『フラッシュダンス』(FLASHDANCE/1983)だった。この映画をきっかけにエアロビクスやジャズダンスを始めた女たちは数知れず。TVドラマやアイドルにも影響をもたらし、小さな女の子までもが家庭のリビングでレオタードと椅子を用意して「フラッシュダンスごっこ」に夢中になった。
『フラッシュダンス』は映画興行的に成功した。4000人以上の中から選ばれたヒロイン、ジェニファー・ビールスはこの映画のおかげでスターとなった。肝心のダンスシーンは別人が踊っていたらしいが、楽しむ側にとってそんなことは気にならないもの。
ストーリーは、プロのダンサーになることを夢見る18歳の女の子が、昼は製鉄所の溶接工、夜はナイトクラブのショーダンサーとして働きながら、恋や友情や死を乗り越えて、やがて名門舞踏学校のオーディションに受かるまでを描くもの。ヒップホップのブレイクダンスやアイススケートのステップ、交通整理の警官の仕草といったヒロインが日常生活で目にしていた動きがクライマックスに集約されているところは秀逸だった。
しかし、この映画にはダンス以上に音楽こそが生命だった。むしろ、サントラを売るための映画だったのかもしれない。MTVのビデオクリップ的な映像を1本の作品にしたアプローチは新鮮で、これ以降メジャーな映画でCMやMTVディレクター出身の監督が起用されることが多くなったのだ。
音楽は、ディスコ・クイーンことドナ・サマーを世に送り出し、映画『アメリカン・ジゴロ』でブロンディの「Call Me」を手掛けたジョルジオ・モロダーと、ビリー・ジョエルやシカゴでお馴染みのフィル・ラモーンが担当。特に主題歌であるモロダーの「Flashdance… What a Feeling」は、アイリーン・キャラが歌ってビルボードで6週間ナンバー1を獲得。アカデミーの主題歌賞を受賞した。さらにマイケル・センべロの「Maniac」もナンバー1を記録し、サウンドトラック盤は首位を独走するマイケル・ジャクソンの『スリラー』を蹴落とした最初のアルバムとなった。
こうしてショー・ビジネス界の帝王となったモロダーは、翌84年にフリッツ・ラング監督の1927年製作の伝説のサイレントSF映画『メトロポリス』を大胆に現代風にアレンジするという狂宴を披露。大きな批判に巻き込まれるが、86年にはトム・クルーズ主演の『トップガン』で、ベルリンの「Take My Breath Away」やケニー・ロギンスの「Danger Zone」などまたもやヒットを連発した。
80年代のサントラブームは、1983年の『フラッシュダンス』(1位/600万枚)から始まったと言っても過言ではない(以下、主なヒット作)。
1984年
『フットルース』(1位/900万枚)
『パープル・レイン』(1位/1300万枚)
『ゴーストバスターズ』(6位)
『ブレイクダンス』(8位)
1985年
『ビバリーヒルズ・コップ』(1位/200万枚)
『マイアミ・バイス』(1位/400万枚)
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(12位)
1986年
『トップガン』(1位/900万枚)
『ブリティ・イン・ピンク』(5位)
1987年
『ダーティ・ダンシング』(1位/1100万枚)
『ラ・バンバ』(1位/200万枚)
『ビバリーヒルズ・コップ2』(8位)
ジョルジオ・モロダーは2013年にダフト・パンクと共演。74歳となった2015年、何と30年ぶりのアルバム『Déjà Vu』をリリース。カイリー・ミノーグをfeatした「Right Here, Right Now」がダンスチャートで1位に。再び話題になっている。
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クライマックスのオーディションシーン
アイリーン・キャラが歌った主題歌は1983年に大ヒット
ジョルジオ・モロダーが2105年に30年ぶりのアルバムリリースした
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*日本公開時チラシ
*このコラムは2015年7月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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