『未来世紀ブラジル』(Brazil/1985)
テリー・ギリアムは『未来世紀ブラジル』(Brazil/1985)の脚本や撮影に取り組む前、あるイメージが頭からずっと離れなかったという。
誰かが石炭がらで真っ黒になった浜辺に腰掛けていると、コンベアベルトや醜い鉄の塔の向こう側には緑溢れる素晴らしい世界がきっとどこかにあるって、現実から逃避するようなロマンチックな歌がラジオから聞こえてくる。
あらゆる情報や個人のプライバシーが政府とコンピュータの支配下におかれた世界。自由を求めて巨大権力と闘いながらも、敗北して犯罪者の烙印を押されて抹殺される結末。そんな灰色の近未来を舞台にしたこの作品は、まるで我々が生きる現在の世界を描いていたかのような、予言的映画のように見える。公開から40年近く。『未来世紀ブラジル』が放つ“既に起こっている”メッセージが、今心に響く。
監督/脚本は『モンティ・パイソン』シリーズのライター、テリー・ギリアム。製作費は2000万ドルで、ロケにはロンドンのスタジオ、工場や発電所、邸宅、パリ郊外の団地などが使われた(ちなみに南米のブラジルは関係ない)。映像美や風刺やブラックユーモアなども見逃せないが、この映画最大の魅力は、当初は体制側にいながらも一人の女との出逢いによって次第に反体制へと目覚めていく主人公サムの姿。ジョージ・オーウェルが描いた『1984年』の監視管理社会下での、現実と幻想が交錯する「ウォルター・ミティ」(映画『虹を摑む男』『LIFE!』の原作)のような展開だ。
情報省記録局に勤務する役人サム(ジョナサン・プライス)は、亡き大臣の父と美容整形に熱中する母を持つ裕福な青年。しかし現実の仕事がつまらないので、いつも自分が空飛ぶ騎士となって天使のような美女を悪から救出するという白昼夢に耽っている。
サムが生きているのは、政府がすべてをコンピュータで管理している都市。人々が怯える一方で、反体制派はテロ行為に走って爆弾騒ぎが日常茶飯事だった。保安警察は騒音を抹殺するため躍起になる。そしてクリスマスの日。一匹のハエが原因でコンピュータにミスが起こり、“タトル”と“バトル”という人違いの事件が発生。靴職人がテロリストとして誤認逮捕されてしまう。それを目撃していたのは上の階に住むトラック運転手の若い女ジル(キム・グライスト)。
サムは誤認逮捕のトラブルを上司から相談されると、手際よくキーボードを叩いて問題を解決。エリートコースである情報省剥奪局への栄転を持ちかけられる。事務処理のため、靴職人の家に出向いたサムはそこでジルと遭遇し、その容姿が夢の中の美女とそっくりなことに驚く。サムはジルに完全に魅せられてしまう。
不気味な剥奪局で働き始めたサムはジルのことを調べるうちに、彼女が警察に追われていることに気づく。実は靴職人は処刑された後で、その目撃者であるジルまでをも始末しようとしているのだ。それを機に覚醒したサムは夢と同じように権力と闘う羽目になり、タフなジルと共にカーチェイスや銃撃戦に巻き込まれていく。敵は余りにも巨大だった……。
名優ロバート・デ・ニーロが“タトル”として、サムを度重なる危機から救い出す反体制派のヒーローとして出演。強烈な存在感を残す。美しい田園風景の中へ憧れの美女と二人で旅立つクライマックスが、実は廃人にされたサムの夢の中の出来事という悲しさ。全編に流れる甘く陽気な恋の歌「Brazil」(正式名「Aquarela do Brasil/ブラジルの水彩画」)は、冒頭のテリー・ギリアムがイメージしたラジオから流れる曲だったそうだ。
予告編
陽気なサンバのリズムと恋の歌「Brazil」

『未来世紀ブラジル』
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*日本公開時チラシ

*参考・引用/『未来世紀ブラジル』パンフレット
*このコラムは2015年12月に公開されたものを更新しました。
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