TAP the SCENE

ライフ〜人生の目的と偉大なるクレイジーな人たち

2014.10.29

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いい映画というのは、その人にとって何度も観たいと思わせる強い力を持っている。そして観終わった後に心に残る余韻。しばらくその物語のことを考え、自分の人生の活力として生まれ変わってくれるような作品だ。その場だけ楽しめるような大予算超娯楽映画やTV局や広告代理店主導の製作委員会方式の映画をすべて否定するつもりはないが、それでもこういった映画の前では何の力も意味も持たないことが分かる。

映画『ライフ』(THE SECRET LIFE OF WALTER MITTY/2013)は、今年2014年に公開された映画の中でも極上の1本であることは間違いない。実に味わい深くて、観る者を幸せで優しい気持ちにさせてくれる。昔のハリウッド映画のリメイクだが、監督・主演のベン・スティラーのフィルターを通して見応えのある人間ドラマとなった。

雑誌『LIFE』の写真部に16年間勤務している40過ぎのウォルター・ミティ(ベン・スティラー)。独身の彼は密かに職場の同僚でシングルマザーのシェリル(クリスティン・ウィグ)に恋心を抱いていて、ネット紹介サービスを利用しているのも彼女が登録しているからだ。
しかし、内気な彼にはプロフィールに書き込むような体験談や冒険談がない。少年時代に地元のスケートボード大会で優勝して新聞に載った程度で、最近は自分がヒーローだったらと妄想ばかりしている。告白する資格もないと気落ちするばかりか、年老いた母親(シャーリー・マクレーン)の施設の保証金や生活費に頭を悩ます毎日でもある。

そんなある朝、通勤したウォルターに時代の現実が突きつけられる。ネット起業による出版社買収の知らせだった。これにより歴史ある雑誌は廃刊。今後はWeb版のみでの運営になるという。さっそくリストラも始まる中、写真部のウォルターには最終号の表紙写真用のネガを探さなければならない仕事が与えられる。というのも、大物写真家ショーン・オコンネル(ショーン・ペン)が「LIFE誌の真髄がそこにある。最終号はその写真を絶対に使ってくれ」とメッセージがあったからだ。

だがそのネガはどこにも見当たらない。ビジネスのことしか頭にないネット企業の担当者の圧力(嫌がらせ)もかかる中、シェリルにだけ事態を打ち明けたウォルターは、他の写真を手かがりにショーンを探すことを決意。過去のLIFE誌の表紙が壁に飾られているオフィスを走り抜ける。モハメド・アリ、J.F.ケネディ、キング牧師、ジョン・レノン……偉大なるクレイジーな人たちに見送られて、彼は大都会ニューヨークからグリーンランドの僻地へ飛ぶ。そしてLIFE誌のスローガンがスクリーンいっぱいに描かれる。

To see the world, (世界を観よう)

things dangerous to come to, (危険でも立ち向かおう)

to see behind walls, (壁の裏側をのぞこう)

to draw closer, (もっと近づこう)

to find each other (お互いを知ろう)

and to feel. (そして感じよう)

That is the purpose of life.(それが“人生”の目的だから)


感動的な場面は他にもある。グリーンランドの寂れたバーでショーンを知る人間に逢ったウォルターが、ヘリコプターに乗るかどうか躊躇するところだ。それに乗ればショーンのいる船まで案内してくれるという。だが空は嵐の兆しもあるし、何より操縦士が酔いどれだ。
そんな時、彼の妄想癖が作用する。シェリルが微笑んで「この曲をウォルターに捧げます」と言ってギター片手に歌い出す。デヴィッド・ボウイの「Space Oddity」は、孤独な宇宙の旅に出ようとするトム大佐を祝福する歌だ。シェリルの姿に導かれるように、現実のヘリコプターに駆け込むウォルター。歌が人生の希望に満たされた大空に響き渡る。

地上よりトム大佐へ
地上よりトム大佐へ
プロテインを飲んでヘルメットを装着
カウントダウン開始 エンジン始動
点火装置確認 神の愛は君とともにある


物語は旅と冒険の連続が続く。母親の愛、亡き父の言葉、そして心にいるシェリルを支えに、やっとの思いでアフガニスタンのヒマラヤでショーンを見つけ出すウォルター。幻のユキヒョウを撮影しているショーンはシャッターを切らずに静かに言う。「もしその瞬間が俺にとって大切な瞬間なら、カメラなんかに邪魔されたくない。その一瞬を大切に味わいたい」

この映画の最後でウォルターはシェリルと未来へ歩むことになるが、最終号の『LIFE』の表紙がとにかく泣かせる。“これを(この雑誌を)作った人々に捧ぐ”というコピーのもと、そこに映っていたのは?

たかが雑誌と思うかもしれない。しかしどんなにネットメディアが力を持とうとも、雑誌には先代たちの血と汗と涙が膨大なページに刻まれていることを忘れてはならない。その美学と時間の積み重ねがあったからこそ、次の世代は新しいことが始められるのだ。買収した雑誌のスローガンもろくに言えないネット屋の軽薄さを描いたところに、この映画の隠れたスピリットを感じた。(中野充浩)

「Space Oddity」を使った映画の予告編


♪ Space Oddity


『ライフ』

『ライフ』


*日本公開時のチラシ
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評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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