『マンハッタン』(Manhattan/1979)
ウディ・アレンの映画を観るといつも感じることがある。都会で暮らしていることがちょっとだけ嬉しくなるのだ。
と言ってもウディ自身が「不必要な精神問題を次々と作り出すマンハッタンの人々」と指摘しているように、その感情は自己中心的な都会人に向けてではない。いつもより深い愛着を感じてくるのは、馴染みの通りや風景といった街の表情に対してだ。
ウディ・アレンはニューヨークを強く愛する人だが、他の監督では決してロケ先に選ばないようなマンハッタンの「吐息的な場所」をフィルムに捉えるのが得意な人。
それは働く場所、遊ぶ場所、買い物する場所、飲食する場所といった種々雑多な喧騒が集まるところであってはならない。時には川沿いから、公園の舗道から、アパートの窓から、誰もいない博物館からといったように、人々が気張らなくてもいい場所から「最も都会的なショット」を映し出せるのが、映画作家ウディ・アレン最大の魅力だと思う。
その独自の姿勢はアカデミー賞の作品賞・監督賞・脚本賞を獲得した1977年の『アニー・ホール』から始まったが、「音楽一つで街の表情は変えられる」「モノクロ映画でも色が見える」ことを教えてくれたのが『マンハッタン』(Manhattan/1979)だった。
この映画ではオープニングからジョージ・ガーシュインの代名詞である「ラプソディ・イン・ブルー」が使用され、その後「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」「アイヴ・ガット・ア・クラッシュ・オン・ユー」「ス・ワンダフル」「エンブレイサブル・ユー」「バット・ノット・フォー・ミー」といった楽曲がふんだんに使用されている。
ウディにとってはガーシュインの音楽こそがマンハッタンの象徴だった。他にも選曲はあったはずだ。誰もが知るフランク・シナトラの歌でもいいし、当時の流行りならビリー・ジョエルだって全然構わない。だが、どれもには相応しくない。シナトラは強すぎるし、ビリーではドラマチックすぎる。
ガーシュインの音楽が永遠不滅なのは、どこを切り取っても「都会の吐息」がさり気なく聞こえてくるからだ。ウディ・アレン映画が描く世界観と相性ぴったりではないか。そしてこの組み合わせが唯一無二のマンハッタン像を作り出した。同じニューヨーク派のマーティン・スコセッシ作品と比べて、その余りの手法の違いに驚く。
『マンハッタン』は人より、街並や風景が主役の映画だ。その証拠にカメラに収まっていた登場人物たちが去った後も、セリフだけが残されるシーンがいくつもある。ウディはこれを意図的に作ったという。印象的なカットの数々は、「僕の大事な先生」である撮影のゴードン・ウィルスの力も大きい。
今回、ストーリーは書かない。質の低いテレビの仕事に嫌気がさして小説家になろうと奮闘している主人公をウディ・アレン。彼が関係する3人の女たち、別れて同性愛に走った元妻をメリル・ストリープ、インテリのキャリアウーマンをダイアン・キートン、夢に向かうしっかり者の女子高生をマリエル・ヘミングウェイが演じている。
ガーシュインの音楽とオープニング
予告編

『マンハッタン』
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*日本公開時チラシ
*参考/『マンハッタン』パンフレット、『E/M BOOKS Vo.3 ウディ・アレン』(カルチュア・パブリッシャーズ)
*このコラムは2019年8月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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