『ニューヨーク・ストーリー』(New York Stories/1989)
『ニューヨーク・ストーリー』(New York Stories/1989)は、その名の通りニューヨークの街を舞台にした3本の短編からなるオムニバス映画だった。
ウディ・アレン発案のこの企画は、当初彼自身の手による短編映画3本で構成される予定だったらしいが、最終的にはマーティン・スコセッシとフランシス・フォード・コッポラが加わって、偉大なる映画クレイジーたちの夢のような顔合わせになった。
ニューヨークに生まれ育ち、あるいはニューヨークを愛する3人の同世代の映画作家。1939年生まれのコッポラは『ゴッドファーザー』『コットンクラブ』で、1942年生まれのスコセッシは『ミーン・ストリート』『タクシー・ドライバー』『ニューヨーク・ニューヨーク』『キング・オブ・コメディ』『アフター・アワーズ』で、アレンは『アニー・ホール』『マンハッタン』『ハンナとその姉妹』などで、独自ともいえる自身のニューヨーク像を描いてきた。
『ニューヨーク・ストーリー』におけるそれぞれの短編も、そのアプローチは面白いほど全く異なる。だが、どれも紛れもなく“同じ街で起こっている”ことなのだ。
同じNY在住の映画人でありながら、ほとんど面識がないというアレンとスコセッシは、1997年に貴重なこんな対談を行っている。
あなたのニューヨークは僕にとって見慣れないものです。『ハンナとその姉妹』で「歯を磨かなくちゃ」とバーバラ・ハーシーが言いますが、なるほど僕もそうしてる。でもそうだとしても一体何の話だろう。まさに日常の出来事です。しかもそれはマディソンの角のどこかで、それなのに全く別世界なんです。それが僕にとってはすごく面白い。(アレンの映画を観るのは)毎回小旅行の気分です。(マーティン・スコセッシ)
僕はニューヨークを描こうとは思わない。もし僕がそこに住んでなくて、家での快適な生活、家の近くで働くことだとかを望んでいたとしたら、どこで映画を撮っていてもおかしくはないんです。そんなこと気にしてないから。でもニューヨークにいると気が楽なんです。(ウディ・アレン)
ちなみに『アニー・ホール』では、ニューヨークを愛する主人公が仕事でロサンゼルスに出向くと、体調が悪くなっていき精神が病んでいたのが印象的だったが、スコセッシにもハリウッドでのエピソードがあった。
1970年代のほとんどを実はロサンゼルスで過ごしたというスコセッシは、パーティに行くたびにこう言われた。「こっちに来てどれくらい?」「ずっとこっちに住んでますよ」「そんなはずはないでしょう」。作品同様、スコセッシが醸し出すムードは、陽を浴びるパームツリーの下でも、マンホールから煙が上がるニューヨークそのものだったのだろう。
ライフ・レッスン(Life Lessons)
マーティン・スコセッシ監督。ニック・ノルティ扮する売れっ子中年画家と、ロザンナ・アークエット扮する助手であり愛人との終わりの日々を描く。音楽のチョイスが黄金のロック世代そのもののスコセッシは、ここではプロコル・ハルムの「青い影」を使用。才能はあるが若さを求める哀れな男。才能はないが未来がある若い女。3本の中でも最も見応えのある1本。若き日のスティーヴ・ブシェミも登場。
ゾイのいない人生 Life Without Zoe
フランシス・フォード・コッポラ監督。脚本は娘のソフィア・コッポラ。オマセな12歳の子供を主役にしたハイソサエティな人々の暮らしを描く。スコセッシの後に観ると、あまり心に刺さらない。だが視点を変えると、シャネルで身を固め、ヴォーグをめくるリッチな子供たちは都市の格差社会リアルか。
エディプス・コンプレックス Oedipus Wrecks
ウディ・アレンが原点に回帰したような良質なコメディ。50歳になっても母親に支配されている、いわゆるマザコン男のドタバタ結婚物語。主人公の男にはアレン本人が扮している。年老いた母親がある日、マジックショーのステージで蒸発。巨大な姿となってニューヨークの街の空に現れる。
予告編
『ニューヨーク・ストーリー』
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*日本公開時チラシ
*参考・引用/『ニューヨーク・ストーリー』パンフレット、『E/M BOOKS Vo.3 ウディ・アレン』(カルチュア・パブリッシャーズ)
*このコラムは2019年10月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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