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ニューヨーク・ニューヨーク〜有名なあの曲はライザ・ミネリがこの映画で初めて歌った

2023.06.18

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『ニューヨーク・ニューヨーク』(New York, New York/1977)


2017年に日本でも大ヒットしたミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』は、その名の通りLAを舞台にした“音楽を伴った男と女の愛のドラマ”だったが、ちょうど40年前にはNYを舞台にした同様の映画があったことを思い出す。『ニューヨーク・ニューヨーク』(New York, New York/1977)だ。

と言っても、この作品はミュージカルではなくミュージカルのシーンを含んだ映画。ことの始まりは、プロデュースチームのロバート・チャートフとアーウィン・ウィンクラーが1940年代の音楽の大ファンであり、それを効果的に使ったラブストーリーを企画していた。そして知り合いの売れない脚本家アール・マック・ローチに依頼してストーリー作りに着手し、マーディク・マーティンが加わって脚本が完成。

脚本を受け取ったロバート・デ・ニーロは一読して、『タクシー・ドライバー』の撮影で気心の知れたマーティン・スコセッシを監督にすることで出演をOK。相手役には『オズの魔法使』をはじめとするハリウッド・ミュージカルの全盛期の大スターだったジュディ・ガーランドとヴィンセント・ミネリ監督の娘であり、自身もスター街道を歩んでいたライザ・ミネリ。オリジナル音楽は『キャバレー』の仕事でライザをよく知るフレッド・エブとジョン・カンダーが担当した。

スコセッシ監督は絶滅しかけていた昔ながらのハリウッド映画、特にMGMミュージカルにあったような作り物の中にも確かにあったリアルさに心打たれる。そこにサックス奏者とバンドシンガーというアーティスト同士の生き方や複雑な愛情を絡めることによって、40年代映画へオマージュを捧げながらも、斬新な演出が光る“音楽を伴った男と女の愛のドラマ”に昇華していった。

撮影にはMGMのスタジオが使われることになり、ライザは自分の控え室をかつて母が出入りした部屋にしてもらった。子供の頃に父親から教わった「演技力とは相手のセリフをよく聞いて、その場で切り返す能力」であることを学んでいた彼女は、才能溢れるデ・ニーロのアドリブにも見事に対応。特に映画のクライマックスである往年のMGMミュージカルを再現した「ハッピー・エンディング」のシーンでは、ワクワクするような躍動感を与えている。スコセッシ監督自身も「最高の体験だった」と振り返る。

物語は1945年8月15日。紙吹雪が舞い踊るニューヨークのマンハッタン。第二次世界大戦の戦勝国になったその日、ホテルのボールルームでは何百組のカップルをはじめとする人々が、トミー・ドーシー楽団の音楽に合わせて踊っている。

失業中のサックス奏者ジミー・ドイル(ロバート・デ・ニーロ)は、そこで前線帰りの元バンドシンガーであるフランシーヌ(ライザ・ミネリ)に一目惚れ。最初はまったく相手にされなかったジミーだが、やがて音楽が二人を結び付ける。トラブルメーカーでビバップ・ジャズに傾倒していくジミーと、バンドシンガーとして着実に人気を得ていくフランシーヌ。

しかし、フランシーヌの妊娠をきっかけに共演をやめざるを得なくなった二人。それを機になぜか少しずつ心が離れていく男と女……時が経ち、映画界と音楽界で大スターとなったフランシーヌ。一方、自作曲「ニューヨーク・ニューヨーク」でジャズシーンの中で成功を手にしていたジミーは、ある夜フランシーヌのステージへ足を運ぶのだが……切ないエンディングがどこまでも余韻を残す。

ライザ・ミネリが歌うスタンダード・ナンバーの数々もいいが、やはりこの映画のために書き下ろされた「Theme from New York, New York」こそがハイライトだろう。大名曲にも関わらず公開当時はほとんど注目されなかったこの曲は、2年後にフランク・シナトラが歌って有名に。次第にニューヨーク市のテーマ曲になるほど愛されるようになった。

みんなに伝えて
私は今日発つわ
憧れの街
ニューヨーク・ニューヨーク

私の放浪の靴が
彷徨い歩きたがっている
心ときめく街
ニューヨーク・ニューヨーク

眠りを知らない街で
目覚めたいの
私はその丘のキング
すべてのトップ

昨日までの田舎町の憂鬱は
どこかへ消え去り
新しいスタートを
大好きなニューヨークで

この街で成功したら
世界を手にしたと同じ
どうか夢を叶えて
ニューヨーク・ニューヨーク


予告編


有名なタイトル曲はライザ・ミネリが歌ったのが最初。

『ニューヨーク・ニューヨーク』

『ニューヨーク・ニューヨーク』






*日本公開時チラシ

*参考・引用/『ニューヨーク・ニューヨーク』DVD特典映像、パンフレット
*このコラムは2018年2月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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